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 間接侵略とは、軍隊を用いた直接的な侵略ではなく、不正規な手法による侵略行為の総称である。
 まず、 間接侵略は相手国打倒を狙ったものと、一部領土併合のみを狙ったものの2種類に分類される。

 (注:以後、間接侵略を行なう国を自国、間接侵略を受けている立場の国を相手国と表記する)

■特定国家打倒
 主に首都を中心に大衆を煽動、広く騒擾状態を作り上げ、暴力により政権を打倒、自国のコントロール化にある騒擾を作り上げた大衆指導部主導によって新政権を発足させる。騒擾は相手国内の極端な宗教原理主義系大衆政党や暴力を肯定する危険なイデオロギーに根ざした革命政党がツールとして使われる。これは極論を述べる主張の方が、実際に騒擾を引き起こす、日常の生活から現政権に強い不満を抱いている低所得者層に対して支持を広げやすいからである。この騒擾により誕生した新政権を自国の傀儡政権にするか、相手国新政権からの要請という形で自国軍を進駐させ事実上の併合とするなど、さらにバリエーションが増える。
■特定領土を狙った間接侵略
 主に相手国の策源地域よりも自国の策源地域の方が近い(主に交通の便)地域が間接侵略が成功しやすい。日本では「対馬」、「南西諸島」、「竹島」などが、地理的にみて、このタイプの間接侵略に対して脆弱な地域に該当する。


◎間接侵略の手法
 間接侵略は例え失敗しても、その過程において相手国の国力を低下させることができる。よって、相手国の国力を低下させるために、敵対している国家間では絶えず、間接侵略に至るまでの過程として、これら手法が使われている。
(注:国力とは、ここでは軍事力・経済力・外交力・文化宣伝力など、国家の総合的な力として使っています)

●国力の低下
○軍事力の低下
 反軍・反基地などの運動・思想の活発化。平和団体・反核団体・特定文化人への援助。また、戦時下や戒厳令下において、軍・警察への非協力、または無条件降伏など利敵行為を促す各種工作。
 基地騒音など日常に根ざした問題を利用して周辺大衆から協力者を獲得、協力者を組織化させる。
○経済力の低下
 労組を中心にした労働争議を多発させる工作。この場合、会社を倒産させ、組合員を失業者にすることで、さらに社会を不安定化させることができる。失業者の増加は治安の悪化にもつながり、間接侵略成功の大きな要因の一つとなる。
○外交力・文化宣伝力の低下
 相手国の文化、伝統、言語の否定。自国(自国内多数派民族)と相手国(多数派民族)との間に文化的差異が大きければ、これは間接侵略の障害となり、併合後も統治の障害となる。国際社会に向けて、相手国の文化、歴史、伝統、言語に対してネガティブキャンペーンを実施し、相手国内の国民が自分達の国の文化・歴史・伝統・言語を誇れないようにする。この副次的効果として、相手国の外交力も低下する。
 この工作では、相手国内のマスメディア関係者、教育関係者に対する浸透が優先される。

●間接侵略の準備
 まず相手国の言語・文化・歴史を詳しく知っている専門家を多数養成する必要がある。
 相手国の言語・文化・歴史を教える教育機関(大学に学部新設など)を設立する。
(仮想敵国の言語専門家は、間接侵略に限らず、直接侵略でも大量に必要)


●治安の低下
 間接侵略の阻害要因は相手国の軍事力ではなく、相手国の治安である。
 治安というのは、相手国の国内行政と景気に左右されるため、外国からの工作によって、即時に直接治安を悪化させる工作は難しい。よって、中長期的な工作が重要となってくる。
○諜報網の整備
 すべての工作の基礎となる。多数の工作員を長期潜入させるだけでなく、相手国内にある各種団体・政党・役所のあらゆる階層にアセット(協力者)を獲得することが大切になる。特に相手国の警察部門への浸透を最優先する。
○支援団体の構築
 自国諜報機関の工作を相手国内で支援し、相手国内でこの間接侵略を支持する大衆グループ組織の構築。
○武器の密輸
 直接的に相手国内の治安を低下させる方策として、小火器を密輸し、相手国内の各種犯罪組織に安く大量に販売する。これにより、中期的に相手国の治安が低下する。相手国内のブラックマーケットに大量の小火器が流通するようになると、騒擾等の暴力による政権打倒を行なう際、武器の調達が容易になる利点もある。この工作の際、できるだけ相手国内の広域犯罪組織の取り込みを意識する。
○麻薬の密輸
 相手国内に大量の麻薬を安く流通させることによって、治安と労働意欲を低下させることができる。この工作には、相手国内の広域犯罪組織の協力が不可欠である。自国に協力的な相手国国内の広域犯罪組織に対しては、武器や麻薬などを限りなく安い値段で供給し、さらに軍事指導を行い、良好な関係を構築、できれば間接侵略の尖兵となるように組織を取り込むことが大切である。
○反政府ゲリラの組織化
 軍の特殊部隊を相手国の辺境地域(山岳地帯や密林地帯、離島地域など)に浸透させ、地域住民に対して、宣伝戦を実施、相手国の現政権に対して強い不満を抱かせ、民主主義によらない暴力による抵抗を決意させ、反政府ゲリラを組織化させる。
 都市部においては、相手国内の過激派等に対して諜報機関が支援を行い、テロ技術を提供、都市ゲリラとして、政府主催のイベントなどのタイミングを狙い、相手国の首都を中心にテロを実施、相手国の威信と治安を低下させる。
○相手国治安機関の無力化
 相手国内に構築した自国に協力的な各種圧力団体(相手国内にある自国内多数派民族と同じ民族団体や)を動員して政治力により相手国警察力を無力化する。
 人権派やリベラルな社会活動家達を支援して、これを組織化する。警察官の権限縮小、刑法改正による刑罰を弱めるなどの運動が挙げられる。
 また、司法関係者に浸透して、警察に不利な判決を出させる工作も行なわれる。
 政変などで、相手国内に連立政権が誕生したタイミングで、間接侵略を目指す大衆政党がこの連立政権に参加できる場合、何よりも内務大臣などの治安機関トップのポストを獲得して間接侵略を活用する手法もある。ポスト獲得後は、この大衆政党を警戒する治安機関幹部を追放し、この大衆政党に協力的な幹部を登用させ、今度は逆に警察力を使って間接侵略を推し進める。

○間接侵略を支持する層の勢力拡大
 諜報機関だけで間接侵略を成功させるのは難しく、相手国内で主体的に間接侵略を成功させるために行動する層を拡大させる必要がある。
・相手国内に滞在する自国民(自国内多数派の民族)を増やす
 外国人労働者・外国人留学生・外国からの移民受け入れの拡大などの政策を執り行わせるようにして、相手国内に大量の自国民(自国内多数派の民族)を滞在させるようにする。
・相手国内少数派の異民族に対する政治力強化
 相手国内の少数派異民族に対して、相手国内で行使できる政治力を高めさせる。特に相手国内異民族の中でも自国多数派民族については、間接侵略での主力となるので諜報工作や資金・武器援助を行なう。
 最初は地方自治体への公務員登用、地方議会への参加を目指し、徐々に弁護士、国会議員、報道機関への採用などを組織的に目指し、政治力を高める。
・相手国内の低所得者層の支持獲得
 労働組合の取り込み、またはイデオロギーや宗教を活用して、低所得者を中心に支持を広げ、逆に反政府機運を高める。間接侵略対策として政権側は宗教団体を取り込む対抗策が広く使われている。間接侵略を成功させるためには、政権と宗教団体の協力関係を断ち切り、できれば宗教団体も間接侵略を支持する方向に誘導する必要がある。協力が得られない場合は、宗教団体と低所得者の支持を取り合う争いとなる。現状に強い不満を抱いている低所得者層については、保守政治家のどんな正論も届かない。過激なスローガンと日々の信仰(これは宗教だけでなく、革命・間接侵略が成就すれば豊かな生活が可能になるという刷り込みでも可)、そして地道な福祉活動こそが支持を得る早道となる。最後まで間接侵略を妨害する宗教団体については、宗教団体幹部の性的不祥事、宗教団体内部の派閥抗争などを誘発させることが大切である。
(米ソ冷戦時代では、共産主義に対抗する手段として各種宗教団体が活用されている。欧米ではキリスト教系の各種団体活用、南米やフィリピンではカトリックの活用、中東ではイスラム原理主義団体への支援、韓国の統一教会・勝共連合、日本では創価学会・公明党、立正佼成会などを含む仏教団体・神道団体など)
・反政府機運を高める
 諜報機関を用い、相手国首脳をスキャンダルで信頼失墜させる。
・民衆の不満を高める
 不満が消えないように、政府のスポーツ振興策などを妨害する。
 マスコミや文化人を取り込み、投票など民主主義では、自分達の意見が政治に反映されないと信じ込ませ、暴力主義的な手段へと煽動する。

○間接侵略準備の隠蔽
 構築した相手国内協力者を活用して、ギリギリまで相手国に間接侵略の意図を気づかせないようにする。
 相手国内での自国多数派民族が行なった美談を大きく放送させ、逆に相手国内で自国多数派民族が行なった犯罪は隠蔽するようにする。こうした工作により相手国住民に自国への好感情を抱かせ、間接侵略に対する警戒心を低下させる。
 特に、特定地域併合を狙っている場合は、その特定地域に住んでいる相手国地元住民に対しては併合実施のタイミングの直前まで警戒心を抱かせないように、心理工作(観光客として訪れた自国多数派民族による福祉や清掃ボランティア活動、地元住民との交流イベントなど)を実施する。これにより併合予定地域の相手国地元住民に、自国よりも相手国に親近感を抱かせ、経済的にも観光業を中心に自国よりも相手国に方を大切に思わせる。
 これら心理工作には観光客に化けた諜報機関だけでなく、軍の心理戦課程を修了している同じく観光客に化けた特殊部隊員も投入する。
(この段階で、間接侵略ではなく、いつ相手国直接侵略に切り替えてもいいように、相手国の兵要地誌を十分に掴んでおくことが大切である)


●間接侵略の実施
○特定領土を狙った間接侵略の場合
 その特定領土に対して、大規模な移住を行い、地元住民よりも移住者が多くなった段階で、住民投票を行い、併合を決議する。
 この場合、この併合を狙う地域に対して、相手国の策源地域との間で軍事衝突が発生する可能性が高い。軍事衝突に備え、併合決議と同時に迅速に軍を進駐できるようにする必要がある。鉄道や道路など、自国と隣接する相手国の併合予定領土に向けて、自国内でも十分に交通を整備する。これは直接軍を進行させ併合に移ったときに、自国軍の大事な補給路となるからである。離島の場合は、十分な海空軍(特に輸送力)を整備しておく必要がある。民間定期航路に偽装して、併合を狙った相手国離島への定期連絡船を新型にして高速化・大型化による輸送力強化、また定期便の数も増やす。
○相手国を打倒する間接侵略の場合
 組織した地下政党により、全土的に蜂起を行なう。特に首都では大衆を動員して、騒擾を発生させることが大切。特に憲兵屯所・警察署を襲撃して、直接治安を麻痺させる方策がよく使われる。また、軍の下級兵士に多数のシンパを獲得して、武器を持ったまま地下政党側に合流するように誘導する。
 議会、司法機関、行政機関を完全に麻痺させる。この間接侵略が失敗に終わっても、相手国は国力を低下させ、国内で混乱が続くことから、その後の直接侵略を容易にする効果がある。

●直接侵略を支援するための間接侵略
 開戦前に、密かに武装した友好団体・友好使節団を送り、開戦と相手国の要地を確保、地上軍の進行を助ける。または、相手国内部で破壊工作や蜂起、ゲリラ戦を行なう。
 相手国官憲に疑われたら、それを逆手にとって相手国を非難する。相手国官憲が調査を躊躇するようになるまで、繰り返し怪しい行動をとり続けて、または繰り返し使節団を送り続け、開戦時には本物の武装した使節団を送るのが大切
 離島進攻では大量の漁船を活用する。(中共がよく多用している手段)
 先の友好使節団と同じように、漁船を取り締まれば強く抗議し、相手国が躊躇するまでこれを繰り返す。一見すると民間船舶・漁船なので、上陸第一波を洋上で撃破するのは政治的に難しい。
 過去に、この漁船戦術は政治的な脅しとしても活用されている。(日中国交正常化交渉)

2006/10/09更新
2006/10/13更新
2006/11/04更新
2007/01/13更新

上記文章は、戦理・戦略のページから独立した間接侵略解説です。時代や国を問わず、間接侵略の原則についてのメモです。WW2までのソ連、ドイツ、イギリス、イタリアなどの事例、冷戦時代のソ連・アメリカ・中国・インドが行なった併合・政府転覆工作などを参考に作成しています。


主な参考資料

論文
『蜂起』              マルクス エンゲルス
『山岳戦の過去および現在』   エンゲルス
『マルクス主義と蜂起』   レーニン
『革命軍と革命政府』    レーニン
『コーカサスの全労働者へ』   スターリン

文献
『グリンベレー戦闘術 入門篇 40時間ゲリラ養成マニュアル』 三島瑞穂/著 上田信/画
『日本の防衛力再考』 兵頭二十八/著
『日本防諜史』 山本石樹/著
『民間防衛』 スイス政府編纂

雑誌類
『特高月報』
『治安フォーラム』
『警察学論集』
『軍事研究』








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