まずはじめに 基本的に戦術は特別な技能や知識ではありません。しかし、実際の戦争において戦術を有効に活用するには高度な専門知識と経験が要求されます。例えば、未来のジェネラルを目指すプロの陸軍士官であれば、不眠不休のなかでの、意図的にプレッシャーをかけられたストレス下においての指揮所演習や現地戦術研究を繰り返して、徹底的に鍛え上げられています。、一部の北欧の指揮幕僚課程にいたっては、近年、将棋の某名人のように、左脳だけでなく右脳を活用するための教育方法も実践されています。 われわれ趣味に生きる者どもにとっては、戦術を知識としてでなく、そんな過酷な実務に耐えるほどの高度な能力(不眠不休の激しいプレッシャーの中での瞬時な決断)は必要とされていませんし、戦術に対して深い知識も必要とされていません。 あくまでも趣味として、個人的知的好奇心が満足できればそれでいいのです。 しかし、軍事といっても、間口は広く、小説、漫画、アニメ、映画、コンシューマゲーム、サバゲー、ボードSLG、無線、歴史、プラモ、SF、警察、諜報、し民運動、外交、国際かん係論、政じ学、行せい学、社かい学、平わ学?(最近大学などで設立があいついでいる講座ですが・・・)などなど、軍事に興味をもつに至った動機は広く、また一通り兵器のカタログスペックなり、軍の組織などを覚えたら、それぞれの専門分野を決めてしまい、そのなかで深く極めていくのが一般的だと思います。 (検索エンジン対策に一部ひらがな表記にしました。) そんな中で戦術に興味を持ったとしても、昔は本屋などで手頃に入手できるものではありませんでした。古本屋や図書館などで手にしたところで、戦術用語として数多くの略語が散りばめられ、はっきりいって意味不明な世界でした。 だから、別にわからなかったからといって恥ずかしがることはありません。私だって最初はそうでした。それにいまだって詳しくはありません。 そんなわけで、今回はアルファベットの専門的な略語を一切使わずに、身近な舞台を使って解説していきたいと思います。 戦術の定義 それと戦術自体、その定義多く存在しており、それぞれに細かな違いはありますが、”戦場において敵陣営(陣営=個人含む)に対して我の陣営を有利に、もしくは我の陣営がもとめる方向に戦場の状況を誘導するための大まかな技術である”という点は共通しているかと思われますので、細部にはこだわらず、ここではこの定義で”戦術”という用語を使用していきますのでご了承ください。 戦術は上記のような経緯もあり、特別な知識が必要とされ、高度な訓練が必要とされていると誤解されています。また、一部には何を読んで毒されたのか、戦術能力や軍事能力とは生まれ持った特別な才能であると断言されている方もいるようです。 確かに戦場に投入してみて、有能だと思われていた人物が無能であったとメッキがはがれしまうことは多々あります。また歴史で登場するような偉大な作戦家たちを士官学校などの教育システムで果たして生み出せるのかという指摘もあります。こういったこともあり、さらに誤解は深くなっているのではと思われます。 しかし、戦術はそれほど特別な考え方をするのではなく、はっきりいって日常生活となんらかわりません。マニアでさえなじみにくいのは、専門的な略語が多数でてくるからではと思うのですが、どうでしょう? そんなわけで、専門用語ナシ。よくありそうな日常生活を戦術に置き換えてみましょう。 【状況想定 X】 ―――――――――――――――――――――――――――― 秋*原の某古同人誌ショップで、偶然にも久しく会っていなかった 旧友たちと再会しました。せっかくなのでどこかで親交を温めようと おもいます。近くのマ*ドは混んでいるので、大きな本屋の*泉に 立ち寄ってコ*ケのカタログを買ってから、空いてる地下席がある方 のマ*ドに向かいました。 ―――――――――――――――――――――――――――― 註:マ*ド=ハンバーガーの大手チェーン店で、この想定ででてくる町「秋*原」では数カ所に出店しています。 戦術は特別なものではなく、実は合理的な判断の積み重ねなのです。そのため日常生活に置き換えて考えることができます。日常生活と戦いの場において違う点は敵の存在の有無になります。基本的な考え方は同じですが、戦いの場においては、敵の妨害をも考慮する必要がでてきます。 それでは【X想定】を戦術的に見てみましょう。 戦術は合理的な判断の積み重ねといっても、ものには順序があります。この順序を守って考えていくと、時間がかかっても誰でも大きな間違いせずに、ある程度の戦術的な答えを導き出せます。歴史に名を残す偉大な作戦家たちは、そういった思考の積み重ねではなく、ほとんど直感で、敵の行動予測とその裏までかいて作戦を立てていたようですが、まあ天才はおそるべしといったところでしょうか。 戦術でまずはじめに押さえておくところは【任務】はなんなのかです。 生き残るのか、敵を撃滅するのか、ある地域を守るのか、何かしらの任務があって初めて、その任務を遂行するために頭を悩ませるわけです。 【X想定】で見てみますと、ここでの任務は 「親交を温める」 になります。 任務を把握したら、次は状況を判断します。 【状況判断】では 【何を】【いつ】から判断していきます。 ここでは【何を】は 「マ*ドに入る」になります。 【いつ】は、偶然に再会したところから状況が開始されていますので、ここでは現時点を表します。もちろん【いつ】は状況によって変化しますし、必ずしも想定している時が【いつ】になるは言えません。 例えば、想定状況が来週の同人誌の新刊だとしますす。そうするとここでの【いつ】は、来週の同人誌の新刊ではなく、前日にネットで情報収集したり、売り切れに備えて的確な同人ショップを巡るルートを設定するなど、その前日の準備から【いつ】に含まれます。 戦いの場であれば 【何を】例えば陣地攻撃を選択 【どこを(どこまで)】 攻撃する陣地線の長さと奥行きを決めます 【方向】どの方向から攻撃するのか 【時期】攻撃開始の日時 【いつ】攻撃の準備に必要な日数から逆算したうえで、攻撃の実施を最終的に決心する時期 となります。 次に【何を】の判断過程になります。 なにもともあれ一番大事なのは【任務】を見失わないことです。 それをふまえたうえで【状況】と【行動方針】の分析になります。 【状況】とは、判断及び任務達成に影響を与える要素のことで、戦場の地形、敵、味方戦力、天気などがこれにあたりますが、【X想定】では、 >近くのマ*ドは混んでいる などが状況にあたります。 日常生活では必要ありませんが、戦いの場であれば、ここで敵の可能行動を予測します。 例えば島嶼の独立守備隊の立場であれば、敵の装備や地形上の判断から上陸可能地点を絞り込みます。 敵は以下の地点からの上陸が可能である。 E−1 **湾正面 E−2 **港 E−3 **海岸 とします。 次に、【行動方針】を策定します。 われわれは親交を温めるべく、以下のマ*ドに入る O−1 近くのマ*ドに入る O−2 地下席があるマ*ドに入る 戦いの場であれば、 **島守備隊は、上陸してくる敵に対して、以下の地形を利用した線で防御する O−1 海岸線沿いの水際 O−2 内陸部の台地 次に【各行動方針の分析】にはいります。 【X想定】では 状況から分析して 近くのマ*ド 利点は近いこと 欠点は混んでいること 遠くのマ*ド 利点は空いていることと、途中で大きな本屋に立ち寄れ購入したかったコ*ケのカタログが購入できること 欠点としては遠いこと が挙げられます。 戦いの場であれば O−1対E−1 O−1対E−2 〜 O−2対E−3といった具合にそれぞれの場合での状況の推移を予想分析します。 そして、各分析結果から各案を比較します。これが【各行動方針の比較】となります。 各案の比較していくと、各案にはいかなる違いがあるのか、その要因をつきとめます。 【X想定】であれば、「みんなでひとまとまりで席に座れるか」「そこまでどれだけ歩くか」「途中で本屋に立ち寄る必要はあるか」になります。 戦いの場であれば、上記の例を使えば、「砲爆撃に対する味方の生存性」「敵の上陸企図を阻めるか」「全島占領をどれだけの期間にわたって阻めるか」などになるかと思います。 そうした要因のなかで、今一度【任務】に立ち戻り、重視すべき要因を探します。 【X想定】における任務 「親交を温める」 よって、ここでは全員がまとまって座れることを重視します。 これを【重視要因】となります。 X想定では「みんなでひとまとまりで席に座れるか」がこれにあたります。 ここまで【各行動方針の比較】が終わりますと自然と答えが出てきます。 これが【結論】となります。 【X想定】では、O−2がこれにあたります。 これで状況判断の過程は終わりますが、このような一般的な日常生活と違い、組織の行動計画や戦いの場ではまだ終わりません。なぜなら、上記結論が導き出されたらそれを組織の各構成員に、組織の意志としての構想と、各人すべきこと(各部隊の任務)を付与しなければならないからです。 これが、【計画・命令】になります。 【計画・命令】の策定でのポイントとしては この【計画・命令】が策定されるにいたった背景としての、”状況”を表し 次に、この状況から導き出された”構想”を表します。 つまり、”状況”は”構想”の背景ということもできます。 ”構想”は組織体の意志であり、5W1Hで表現するのがコツになります。 次に、上記の”構想”を実現するために、各人(各部隊)がいかなる役割分担をするのかを表記します。ここの箇所が、一般の人にもイメージされやすい命令の部分になります。 各人(各部隊)の役割分担が決まれば、次にそれに必要な【後方支援】の計画を策定します。**部隊を何日間野外で動かせば、それに必要な食料は? 【後方支援】では上記任務を達成するために必要な人(人事)と物(補給など)に関するバックアップに関する事項をもれなく検討します。 ここまで定まったら、最後に検討するのが【指揮・通信】の分野です。指揮所はどこに配置すればよいのか。どのような通信手段で指揮所と部隊をつなぐとよいのか。そういったことを検討します。 これでようやく組織として動き出すことができます。 最後に、地上戦闘の部隊戦術でもっとも基本となっている陣地攻撃と陣地防御を紹介しておわりとしたいと思います。 そもそも陣地防御とは、その地域において攻勢をくい止めるために陣地に拠って防御する戦術行動であり、陣地攻撃とはそれをうち破るための戦術行動になります。 防御側には、陣地を選ぶ自由がありますが、攻撃側には、それ以外のすべての自由があります。すなわち、いつ、どの方向から、どのような方法で攻撃するのかの自由があります。これが一般的な攻撃側3倍の法則と防御側3倍の法則となります。防御側には部隊配備の自由があるだけで、攻撃側がどこに、どこから攻撃してくるかわからない以上、攻撃自体を完全にあきらめさせるには攻撃側よりも3倍の戦力を必要とするという俗的な法則です。逆に攻撃側から見ると、防御側は陣地に立てこもっている以上、戦闘での消耗を押さえられ、攻撃側は防御側に比べて3倍の戦力を必要とするいう俗的な法則になります。 それでは陣地攻撃から見てみましょう。 状況 約200キロ前方に戦車や機関砲に対戦車ミサイルなど重火器が装備されている装甲車(歩兵戦闘車)が中心で構成されている、一個機械化歩兵連隊が防御準備に取りかかっています。 我は敵より装備が劣る普通の歩兵師団が1個の戦力を有しています。 攻撃側の立場から考えてみると、あなたはどうしますか? エッいきなり正面から敵を撃破しようとしますか まずは準備した地域をさけて敵を撃破できないか それができないのであれば、敵が準備していない方向から敵の退路に向けて攻撃し、敵にやむを得ず陣地を放棄させて戦うことができないかを検討します。 つまり、戦術用語からの検討の順番は 【迂回】【包囲】であり、それができないときにはじめて【突破】を検討することになります。 次に今度は陣地防御を考えてみましょう。 状況 約300キロ前方に敵の1個機械化歩兵師団が集結中である。我が歩兵師団は、敵師団と比べ戦力的に極めて劣勢であり、数日後には敵の侵攻が予想されています。味方の上級部隊指揮官は、「同地に所在している歩兵師団をもって敵の侵攻を阻止し、その掩護下において軍主力を集結させ、その地域において敵機械化歩兵師団を撃破する」に決心しました。 味方の軍主力が同地に集結を完了し、作戦行動が可能になるには10日ほどかかる予定です。 このような想定では、敵の侵攻を阻止するだけでなく、味方の軍主力の同地における展開に必要な地域を確保する必要があります。よって歩兵師団は陣地防御を選択することになるのが一般的です。 それでは、同歩兵師団長は、どこで守るかを決断します。 防御の利は、上記で記したように、戦場を選択できることにあります。 この利を生かすためには、敵の戦力発揮を制限できること、われの戦力発揮が容易であるとことを選定するのが重要になります。例えば、投入できる戦力が限られる隘路や橋などが活用などが考えられます。 歩兵師団長の下には、先のような上級部隊指揮官からの全体の構想と、歩兵師団への命令が示されています。歩兵師団長は、これに基づき、絶対に守らなければ要域を定め、次にこれを守るための主戦闘地域を決定します。よって戦場となる防御地域には、前方地域、主戦闘地域、要域となる後方地域が存在し、全域を使って防御をおこなうことになりますが、あくまでも戦闘の主体は主戦闘地域となります。 この主戦闘地域が定まれば、自然と部隊配置が定まってきます。陸戦の特徴は地形を利用することであり、地形が弱いところには多くの部隊を、地形が強いところには少なく部隊を配置します。【地形の利用】 部隊の配置が終われば、次に火力の編成と築城の編成にとりかかり、同地における敵の侵攻を阻止できる防御を編成します。 しかし、これだけでは防御の準備は完了したとはいえません。一般的に攻撃側は防御側よりも圧倒的に戦力的に優位に立っている以上、攻撃側が戦力を集中して攻撃してきた場合、このままでは通常防御側は防ぎきることはできません。敵の主攻撃正面をすばやく判定し、その主攻撃正面にすばやく味方戦力を集中させることが防御側の重要なポイントとなります。このようなことを攻撃後からあわてて行うようではすでに手遅れであり、通常は防御編成の段階において、こういった味方戦力の配備変更も考慮したうえで、予備陣地を構築や予備兵力を用意しておくなどの事前準備を十分に行っておくことが重要です。【警戒】【柔軟性の保持】 陣地攻撃と陣地防御について見てみましたがどうでしょうか 今日では機動防御をはじめ、多くの戦術行動が存在していますし、今後も増えていくことでしょう。 しかし、基本はこの二つであり、多くの戦術行動も、この二つの性質の違いから知ることができるのではと思います。 戦術は特別なものではなく、あくまでも常識的で合理的な判断の積み重ねなのです。 ここまで全部読んだのですか、スゴイですね(苦笑) それでは、ポイントのおさらいしましょう。 ポイントのおさらい 1,一番大事なのは【任務】を把握することです。同人誌を購入することが任務ですか? それともゲームソフトを購入するのが目的ですか? 任務が決まったら、その任務を遂行するために考えます。 2,任務が決まったら【状況判断】します。 状況判断では、まず【何を】を決めます。【何を】が決まると【どこを(どこまで)】【方向】【時期】を検討します。それが決まると、次に【いつ】を検討します。【いつ】は行動開始の準備も含んで、【何を】を行うことを最終的に決める時期です。 ここでは、このように決定しました。 【任務】:『あるゲームソフトを購入する』 【何を】:『秋*原駅周辺でゲームソフトを購入する』 【どこを(どこまで)】:『**通り沿いの店をすべてハシゴする』 【方向】:『秋*原の駅に近い方から』 【時期】:『秋*原駅に到着してから』 【いつ】:『明日』(前から欲しかったレアなゲームソフトが秋*原で売っているとの噂。明日ネットで発売していることを確かめたら、明後日に買いに行こう) 3,【何を】を決める時には【任務】を忘れない。 【任務】:あるゲームソフトを購入する とすると、欲しいゲームソフトが売ってそうなところは E−1:秋*原駅周辺 分析(購入できる可能性は高いが、行くまで遠い) E−2:新*駅周辺 分析(もしかしたら売り切れているかも、でも近い) ここで【状況】と【行動方針】の分析 O−1:駅周辺でソフトを購入してから本屋にも立ち寄る O−2:本屋に立ち寄ってから駅周辺でソフトを購入する 分析の結果、本屋に立ち寄った後では、ソフトが売り切れている可能性があること。それとソフトが購入できる可能性が高い駅を選択した結果、E−1とO−1を選択しました。 |