きょうの社説 2009年9月27日

◎新制度の刑事弁護 弁護士会も組織的な対応を
 裁判員裁判の対象になった石川県内の2件の性犯罪について、金沢地裁がそれぞれ国選 弁護人3人を選任した。国選の3人体制は異例の措置とはいえ、事件の性格に応じて複数選任を採用するのは集中審理が原則の裁判員制度では自然の流れだろう。

 8月から始まった裁判員裁判では組織挙げて立証を工夫する検察側に比べ、弁護側の対 応が見劣りするとの専門家の指摘もあった。刑事事件の多くは国選であり、弁護の在り方は制度を定着させるうえで大きなかぎを握る。富山地裁では10月27日、金沢地裁でも年明けには裁判員裁判が始まる見通しである。弁護人の準備不足などで被告に不利益が及ばぬよう、両県の弁護士会は国選弁護の対応を含め、組織的なバックアップ体制を整えてほしい。

 国選弁護は経済的な理由で弁護人を雇えない場合に裁判所が選任する制度である。内容 が複雑で特殊な事件を除き、通常は1人が選任されてきた。

 金沢地裁が国選弁護人3人を選任した事件は強盗強姦と強制わいせつ致傷で、性犯罪が 他の事件以上に被害者保護が求められることや、余罪が複数あることなどを配慮したとみられる。金沢弁護士会も裁判員制度開始前から複数選任を要請していたが、弁護人の報酬が公費でまかなわれる以上、複数選任にふさわしい弁護活動が求められるのは言うまでもない。

 裁判員裁判では、検察側が全国各地の公判で浮かび上がった課題を全国の地検に伝える など組織的な対応を進めている。一方、弁護士の場合、民事事件との掛け持ちなどで裁判員裁判だけに時間を割けない事情があり、「個人稼業」の限界もうかがえる。全国では国選弁護人をサポートする「支援弁護士」制度を独自に設け、負担軽減につなげる弁護士会もある。

 裁判員裁判では検察の犯罪立証だけでなく、弁護活動にも市民の視線が注がれている。 制度そのものについて弁護士の受け止め方には今なお温度差がみられるが、刑事弁護に専念できる環境づくりや新制度に適応できる人材養成は弁護士会の大きな課題である。

◎「核なき世界」決議 北朝鮮包囲網の強化に
 国連安全保障理事会の首脳会合が「核兵器のない世界」をめざす決議を全会一致で採択 した後、イランが国内2カ所目のウラン濃縮施設の存在を認めたことが明らかになった。核兵器開発疑惑が一層深まり、歴史的な決議に水を差す新たな難題だが、せっかく盛り上がった核廃絶の機運をしぼませないためにも、国際社会が直面している現実の脅威を取り除く努力が不可欠である。それが決議の理想を実現していくための環境づくりにもなろう。

 今回の安保理決議では、核開発を続ける北朝鮮やイランに対して、名指しを避けながら も「現下の重大な挑戦」との表現で両国に懸念を表明した。各国に制裁決議の着実な履行を呼びかけた点でも大きな意味がある。

 日本としては新たな決議を北朝鮮包囲網の強化につなげる必要がある。鳩山由紀夫首相 も北朝鮮の核開発を認めない姿勢を強調した。衆院解散で廃案となった北朝鮮貨物検査特措法案は、国連制裁の実効性を高めるためにもぜひ成立させたい。

 北朝鮮は最近になって米朝対話や多国間協議に応じる用意があることを示唆し、対決路 線の転換をうかがわせるシグナルを送り始めた。オバマ米大統領も米中首脳会談で、北朝鮮の6カ国協議復帰につながるなら米朝対話は「有益」と前向きな姿勢を示した。だが、具体的な成果を急ぐあまり、不用意にハードルを下げることがあってはなるまい。北朝鮮問題に対する米国との緊密な連携は鳩山外交の試金石となる。

 「核兵器のない世界」決議には核拡散防止条約(NPT)体制の強化や包括的核実験禁 止条約(CTBT)の早期発効などが盛り込まれた。これらの当面の狙いは核関連の物資や技術がテロリストなどの手に渡るのを防ぐことにある。

 北朝鮮やイランの核開発に歯止めをかけることができなければ理想を現実に近づける道 も広がっていかないだろう。国際社会がこの2つの脅威に対して包囲網を強めていくことは、これからの核軍縮交渉に欠かせぬ各国間の信頼醸成にも役立つはずである。