容疑者が逮捕されないまま公訴時効が成立した死亡ひき逃げ事件が、04~08年に151件あったことが、毎日新聞の全国調査で分かった。法務省は、交通事故に関する時効を集約しておらず、死亡ひき逃げ事件の時効件数が明らかになるのは初めて。発生件数に対する時効が成立した割合は、殺人の2・5倍に達していた。(社会面に「忘れない 未解決を歩く」)
死亡ひき逃げは業務上過失致死(07年6月から自動車運転過失致死)と道路交通法の救護義務違反の罪に問われ、時効は5年(道路交通法改正で07年9月から7年)。
被害者が死亡するという結果は同じでも、死亡ひき逃げは法的に過失に分類され、故意の殺人罪とは、時効(15年、05年から25年)や罪の軽重に大きな違いがある。
警察庁によると、全国で99~03年に起きた死亡ひき逃げ事件は計1516件。調査では、このうち約10%の151件が04~08年に時効になっていた。
一方、殺人事件は89~93年に年間1215~1308件(計6221件)発生しているが、法務省の統計によると、15年後の04~08年の時効成立は約4%にあたる255件。発生件数に占める死亡ひき逃げ事件の時効が成立する割合は、殺人の2・5倍となる。
時効成立の年別では▽04年22件▽05年35件▽06年35件▽07年34件▽08年25件。都道府県別で多かったのは、千葉の14件、神奈川の12件、埼玉、愛知の各11件。死亡事故発生件数が多い都道府県では、死亡ひき逃げの時効が成立する件数も多い。
ひき逃げは、車のガラスや塗膜片など現場に物証が残っている場合が多い。その半面、被害者との接点がないことがほとんどで、交遊関係の捜査で容疑者が浮上する可能性は少ないことが殺人事件とは異なる。
法務省は、殺人、傷害などの刑事事件の時効は集計しているが、死亡ひき逃げ事件については、交通事故としてカウントしているため、時効件数は把握していない。【山本浩資】
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■解説
全国交通事故遺族の会などは法務省に対し、死亡ひき逃げ事件の時効撤廃を求めている。過失でも逃げた時点で殺意があると考え「死亡ひき逃げは殺人」とみるからだ。
常磐大学大学院の諸沢英道教授(刑事法)は「逃げたことを認識している明らかな故意犯。刑法に『ひき逃げ罪』を新設して刑を重くすべきだ」と、新たな罪種を作ることを提案、時効に関しても長くすべきだと考えている。
現在、法務省は殺人などとともに死亡ひき逃げについても時効の見直しを進めているが、過失事故と「逃げる」罪の違いを明確にするのも論議を深める一つの方策だろう。そして、警察当局は、殺人より時効成立の割合が倍以上あるという実態を直視し、捜査体制の強化や事故を減らすために知恵を絞ることも求められる。【山本浩資】
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北海道 10
青森 1
岩手 2
宮城 4
秋田 1
山形 1
福島 0
茨城 3
栃木 5
群馬 7
埼玉 11
千葉 14
東京 10
神奈川 12
新潟 5
山梨 0
長野 0
富山 2
石川 0
福井 1
岐阜 3
静岡 5
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三重 4
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兵庫 5
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和歌山 0
鳥取 0
島根 1
岡山 2
広島 0
山口 1
徳島 0
香川 2
愛媛 1
高知 0
福岡 8
佐賀 1
長崎 0
熊本 1
大分 1
宮崎 2
鹿児島 0
沖縄 0
計 151
毎日新聞 2009年9月27日 東京朝刊