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民主党政権への不安
鳩山内閣に対する各マスコミの世論調査支持率は、どの調査でも70%台を超え、まずは目出度い船出である。ところで鋭い感性を持って民主党政権を観察する国民がいるので紹介しておこう。9月18日朝日新聞の「声」欄に「国家戦略局の名称は、戦争を想起させる」と、武蔵野市の老夫婦からの投書である。そこには「国家戦略局と聞くにつけ、見るにつけ、軍国時代の大本営発表が想起され、軍の参謀からの声を聞くようだ」と、戦争中の体験が記されていた。戦時体制を知る私も同じ感想を持ち、これが本格的政権交代をなしえた民主党の実態かと、民主党関係者の政治的感性に疑問を抱いている。
鳩山内閣の発足にともなう不安はこれだけではない。憲法の原理を冒涜する行為が続発していることに、かつての自民公明政権より問題があることを指摘しておきたい。誤解のないように言っておくが、私は過去20年間政権交代のための制度づくりと、実現の仕掛けをやってきた人間だ。鳩山内閣の成立を心から喜んでいる元参院議員で、現在も民主党員である。民主党が国民のため健全な議会民主政治を行うよう、あえて問題を提起しておく。読者の方々もよく考えてほしい。
第一は「官僚の記者会見を原則禁止する」ことを閣議決定したことだ。反響が多く、なしくずしに変更したようだが、そんなごまかしで政治をやろうとするところに問題がある。そもそも憲法21条の「国民の知る権利」の本質を閣僚の誰もが理解していないことに問題がある。反対する閣僚がいないとは驚く。
官僚(事務次官クラスが狙いか)という政治に従属する立場とはいえ、その職務について記者会見を求められたなら、応じることが国民の知る権利を保障することである。問題によって守秘義務があることは当然であるが、閣議という政治の場で官僚の記者会見を禁止することは、明らかに憲法に抵触することだ。
行政の事務や技術的専門的事項について、官僚が記者会見を求められたら応じて証明するのが憲法の原則である。特別な理由がある場合には、それを断ればよいことだ。
原則とはいえ閣議で一般的に禁止するという発想は、まさに戦時中の内閣独裁政治のイメージにつながることである。まして緊張関係のある官僚に余計なことを発言させない意図で、記者会見を禁止させるということなら、何をかいわんやである。公務員の自然権として、最悪の内閣に抵抗する権利があるというのが私の考えだ。
さらに情けないのは、新聞協会などマスコミ側が、これを重大な憲法問題だと認識していないことだ。自公政権のときもそうであったが、現在のマスコミのほとんどが、憲法政治の原理を忘却して自己の企業的存続にこだわっていることが、重大な問題である。日本には社会の木鐸は死滅してしまった。
第二は「民主党の議員立法禁止通知」である。報道によれば与党の二元的意志決定を一元化するため「議員立法は原則禁止し、法案提出は原則、政府提案に限ることを決め、同党所属の全国会議員に通知した」とのことだ。これが事実なら著しい憲法違反の行為である。憲法59条1項は「法律案は、…、両院で可決したとき法律となる」と規定し、立法権のすべてを国会にゆだねている。
一方、憲法72条は「内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し…」と規定し、「法律案」と「議案」を区別したのだ。その結果、内閣には「法律案」の提出権はないと解釈する学者や政治家が大勢いた。明治憲法以来、法律案の提出を独占していた政府は、内閣法5条で政府に法律案が提出できるようにしたのである。
昭和22年から新憲法による国会が始まる。62年にわたる国会改革の基本方針は、明治憲法から続く「政府提出法律案」を、「議員立法」とし、国会審議を活性化することであった。政府提出法案を少なく抑えることが、官僚支配政治を打破することであり、国権の最高機関を実証することであった。
民主党の議員立法禁止の理由は「政策決定がスムーズになり、族議員の誕生を防ぐ」としているが、衆院事務局に勤めていた私としては看過できない。「政策決定がスムーズ」であることは民主政治の基本ではない。スムーズが必要なときもあり慎重さがいるときもあり、状況判断の問題だ。「族議員の誕生を防ぐ」とは、そんなに同志を信頼できないかといえる。いずれも内閣の都合のため国会議員の立法権という基本権を侵し、内閣が政策決定を独占するのなら、憲法41条(国会は国権の最高機関)に反することになる。
これらの問題は内閣の政治スタッフが政権運営の基本原則を知らないことに原因がある。政権運営とは「国家権力を動かすこと」である。それは通常の行政事務とは違うものであり、「憲法の運用」そのものである。閣僚・副大臣の中には元官僚や弁護士が多数いるが、政治権力を動かすことには行政や司法活動と違った発想が必要なことを理解していないようだ。理屈や数字で人間は動かない。衆参両院で420名を超す民主党国会議員が思いつきの「内閣議員制」の下で、政策も政権運営も一元化すれば鳩山内閣が続くと思っているなら、それは憲法政治を冒涜することになる。議会民主政治は本来多重権力で機能することを学ぶべきだ。
平野貞夫
(元参議院議員)
1935年、高知県生まれ。
法政大学大学院政治学修士課程終了。
衆院事務局に入り、副議長(園田直)秘書、議長(前尾繁三郎)秘書などを経て委員部長となる。
1992年、参院高知地方区で当選し、小沢一郎と行動を共にする。
2004年、参院議員を引退。
以降、言論執筆活動に専念する。
平野貞夫の「国会漂流記」を読む>>
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