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野村萬斎さん
異文化コミュニケーター
マリ・クリスティーヌさん
マリ・クリスティーヌ


 1959年、日本生まれ。米国軍人の父と日本人の母との間に生まれる。
父親の仕事に伴い4歳まで日本で暮らし、その後ドイツ、アメリカ、イラン、タイなど諸外国で生活。上智大学国際学部比較文化学科に在学中に芸能活動を開始。
2000年春より国連人間居住センター(HABITAT)親善大使。
AWC(アジアの女性と子どもネットワーク)代表・東京農業大学客員教授・一男一女あり。

公式 HP: http://mari-christine.com/



語学習得にはカンが重要
自国の歴史と外国語学習を


■国境を意識せずに育った

 父の仕事の関係で、ドイツ、アメリカ、イラン、タイなど諸外国で子ども時代を過ごしたマリ・クリスティーヌさん。新しい地に赴くたび、その国の言葉を覚えなさい、と必ず語学を学ぶ場をセッティングされた。「言葉を学ぶことは、その国の歴史や文化を知ること。歴史や文化を知れば、その国を尊敬することが出来る」と父に言われて育った。「父自身イタリア系でしたから、もともと複数の言葉を使えるのが当たり前。私も同じように育てられました。これは、親から受け継いだ財産ですね」。

 日本の文化や精神を敬っていた父から、ルース・ベネディクトの『菊と刀』や新渡戸稲造の『武士道』などをプレゼントされたのは高校生の頃だ。

「外国では、人文学はとても重きを置かれています。歴史や文化、他の方の人生を学ぶ手だてとして、読書を大切にしているのです」。親から子へ書物を贈る習慣も根づいている。

■日本語特有のニュアンスに苦労した

 マリさん自身、父の導きだけではなく、母の国である日本に興味を持ち、大学時代に日本に留学した。複数の言語をマスターしているマリさんだが、日本語が一番難しかった、という。

「語学に関しては、どちらかというと視覚よりも聴覚で記憶するほうが得意ですので、日本語の読み書きには苦労しました。次に、日本語特有のニュアンスですね。ボディランゲージもその国の言葉のひとつであるのと同じ様に、“察する”技術も“日本語”なんです。『そうですね』という言葉ひとつにも、否定している場合と肯定している場合がある、と気づいたときは驚きましたが、苦い思いを何度も繰り返しつつ、ニュアンスのひとつひとつを覚えていきました」。

野村萬斎さん■自国の歴史と外国語教育で日本は変わる!

 
様々な国を見、生活し学ぶことで、国境という枠の意識がないというマリさんの目に、日本はどのように写っているのか。

 「日本は素晴らしい民族であり、優れた教育を行い、魅力的な文化を持っています。ですが日本人は、世界からそう見られていることに気づいていない人が多い。これは、自国の歴史と外国語をきちんと学んでいないからだと思います。今の日本は、日本に興味を持った外国人を通して伝えられています。でもそれでは誤解も多い。そうではなくて、日本人の口から日本のことをを伝えていかなければ」。

 学校で英会話を教え、7年になるが、日本人が英語を積極的に学ぶことは自分を知ることにもつながる、と指摘する。

 「英語はストレートな言語です。表現に逃げ場がない。何か話すためには、具体的なことをハッキリ伝えなければならないんです」。

 日本の場合、「素朴な疑問」を投げつけると「不躾な人」と思われがちだが、英語の場合その質問はごく当たり前のものとなり、疑問に答えるために日本人は改めて自分や自分の国を振り返らざるを得ない。新渡戸稲造も、欧米の「宗教教育がなかったらどうやって道徳を教えることができるのか」という素朴な質問に応えるために『武士道』をアメリカで刊行、アメリカの知識層に熱狂的に受け入れられ、世界17ヶ国語に翻訳される名著となった。

 小学校からの英語教育を充実させようという昨今の風潮は喜ばしいと捉えている。

語学の習得にはカンを働かせることが重要です。カンを鋭くさせるためには、なるべく早い時期に耳を慣れさせること。教える人は、アメリカ人でもドイツ人でも日本人でも、英語が出来さえすればいい。英語を使って自分の言葉で伝えることの出来る英語教育を行い、バイリンガルの子どもが増えれば、10年後の日本は変わっています」。

 

【取材者のひとこと】

取材前に敬愛すべきお父様を亡くされたマリさん。お父様の話をされながら、一瞬かすかに声を震わせました。

 




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