街を歩いていると、どうも今年は「クリスマスムード」が“前倒し”されている気がしてならない。クリスマス&年末商戦を少しでも早く長く、という内需喚起策? 縁遠い身としてはため息ばかり。さらにスポーツ紙記者としても、「来たな、この季節…」と憂鬱な気分が増してくる。
スポーツ界では、年末は「愛の季節」。シーズンオフに入り、選手が入籍・結婚を決めるのはほとんどこの時期だし、シーズン中に入籍した選手の挙式も多い。正直、人の恋愛事にそんなに関心はないのだけれど、選手の結婚は懸案事項だから気をもむ。
サッカー担当だった数年前には、有名選手とモデルが入籍するとかで、クリスマスイブに東京タワーのふもとの区役所で深夜まで張り込んだ。ロマンチックムード満点の夜空の下、「何やってんだろう、私」と泣けてきたっけ。
一方で忘れられない出来事もあった。05年のクリスマスシーズン。巨人・亀井義行外野手が、2歳年下の夫人と入籍した。入団1年目の初めてのオフ。中大時代から、2年半の交際を実らせてのゴールインだった。
「すみません、お先に!」と嫁入り前の先輩を気遣って? くれた亀井に、からかい半分軽く返した。「早すぎない? 女子アナとか、タレントとか、これから沢山出会いがありそうなのに」
亀井の表情が、ふと変わったのを、今でも覚えている。
「これから有名になってお金を稼いだりしたら、ちやほやされることもあるかもしれない。でもそれは“僕”だから、じゃなくて“巨人の選手”だから、でしょ?」
ひと息ざまに言った。
「大学時代の“何でもなかった”自分を好きになって、大切にしてくれた人が本物。そういう人を一番大事にしなきゃいけないって思うんです」
23歳の力強い言葉に圧倒された。亀井ならこの先の栄枯盛衰、毀誉褒貶、どんな状況下も自分の在り方を見失うことはないだろう。その男気こそが“本物”。お会いしたことはないけれど、絆深い関係を築いてきた夫人も本当に素敵な女性なのだろう、と心が温かくなった。
おそらく亀井本人は忘れてしまっているだろうが、私は毎年、クリスマスシーズンになるとふと、あのやりとりを思い出す。“名刺”を額に張りつけ、トラの威を借って生きてはいないか。“本物”の絆を大切にしているか。そんなことを自分に問うてみたりする。
佐藤 ハルカ(さとう・はるか)
サンスポ運動部野球担当遊軍。16年間女子校育ちと一見“お嬢”だが、幼少期に習ったピアノ、バレエ、バイオリンはすべて挫折し学生時代はソフトボール&軟式野球に熱中。とはいえ暴投癖からポジションはDH(DP)か右翼だった。サンスポ入社後、サッカー担当として2002年日韓ワールドカップ、04年アテネ五輪などを取材。05年から3年間、プロ野球巨人担当。業界随一の男運&金運のなさが悩み。趣味は短歌。東京都出身。