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データを「10億年」保持可能:カーボン・ナノチューブ利用

2009年6月 3日

Priya Ganapati


CNT内のナノ粒子のイメージ。 Images: Zettl Research Group, Lawrence Berkeley National Laboratory and University of California at Berkeley。サイトトップの画像はCNTのイメージWikimedia Commonsより

カリフォルニア大学バークレー校の研究者らが、カーボン・ナノチューブを用いた新しいデータ保存技術を考案した。10億年以上もデータを保持できるというものだ。

同技術は、現在のデータ保存方法全般に見られる問題を改善するために考案されたという。記録密度が高まるにつれて、記録媒体の寿命は短くなっている、と研究チームは指摘する。たとえば、石に刻んだ文字は、3800年経ってもまだ大部分が読めるが、現在普及しているデジタル記録技術、たとえばハードディスクドライブやフラッシュメモリなどの寿命はわずか10〜30年ほどだ。

さらに、走査型トンネル顕微鏡(STM)を使い、個々の原子を動かして書いた文字は、室温でほんの数秒間しか保存できない[大阪大学の研究者たちは、室温環境下における原子操作に成功している]。

しかし、10億年もデータを保持できる記録装置が実現すれば、この状況は一変するかもしれない。人類はその中に、ありとあらゆるデータ――古代の写本のデジタル版(日本語版記事)から、ついさっき『Twitter』につぶやいたことまで――を収め、遠い未来の地球が、知能の発達した、核融合を動力とするサイボーグの蟻たちに侵略されてしまっても、そのずっと後まで記録を残しておけるようになるだろう。

今回の研究の記録装置は、中空のカーボン・ナノチューブ内部に鉄のナノ粒子を封入したもの。カーボン・ナノチューブは分子レベルの管状物質で、通常、炭素同素体でできている。データの保存には、ナノチューブに小さな電圧の信号を加えることで、鉄ナノ粒子のシャトル[画像参照]を動かし、チューブ内を行ったり来たりさせる。ナノ粒子がチューブの端から端へ移動することで、「1」と「0」の二進状態が作られる。

ナノ粒子の位置は直接読み出すことができる、と研究チームは『Nano Letters』誌の最新号に発表した論文の中で述べている。「ナノ粒子の運動は可逆的であるため、メモリのビット[1か0か]は書き換えることが可能だ」[カーボンナノチューブ内のFeナノ粒子の位置は、電気抵抗の変化という形で読み出し可能という。鉄粒子が移動する動画などを紹介したサイトはこちら]


ナノチューブ・メモリーアレー。「1 0 1 1 0」を表している

この技術は、文書などの保管用として大きな可能性を秘めている、と研究チームは主張する。ナノ粒子を用いた記録装置は優れた永続性を示しているからだ。[永続性記憶装置は、電源が切れてもデータを保持できる機器のこと。EE Timesの記事によると、今回の技術は熱力学的安定性が高いという]

また、小さなスペースに多くのデータを保存できるという利点もある。この装置の記録密度は、1平方インチ当たり10の12乗ビットに達すると予想される。郵便切手1枚分のスペースに、DVDほぼ25枚分のデータを格納できる密度だ。[EE Timesの記事によると、平方インチ当たり1Tビット以上。既存のメモリー技術では、同10G〜100Gビットのデータを10〜30年程度保持]

この装置の優れた点は、ほんの数ボルトの電圧による信号でデータを記録できるところだ、とカリフォルニア大学バークレー校で物理学を学ぶ大学院生で、今回のプロジェクトにかかわっているWill Gannett氏は、学内紙『The Daily Californian』に語っている。

ただし、実現にはまだ遠い。研究者たちは、この技術の理論的可能性を示しただけだ。

[日本語版:ガリレオ-高橋朋子/合原弘子]

WIRED NEWS 原文(English)

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