きょうの社説 2009年9月26日

◎高峰博士の調査 地元が担ってこそ顕彰になる
 金沢ふるさと偉人館が乗り出した高峰譲吉博士の調査は、博士の足跡を「郷土が生んだ 偉人」という視点から見つめ直す意義ある取り組みである。消化薬「タカジアスターゼ」開発やアドレナリンの結晶化など、世界的な功績を科学者や技術者がそれぞれの立場で光を当てた書物がいくつかあるが、一部の専門家だけに任せず、地元も率先して実像を明らかにし、それを内外に発信していくことは何よりの顕彰といえる。

 金沢ふるさと偉人館には、高峰博士の研究者やゆかりの人から寄贈された遺品や資料な ど200点以上が所蔵されている。それらを宝の持ち腐れにはしたくない。調査を通して新たな事実が掘り起こせれば、この地域が研究拠点としても広く認知され、博士の情報や資料もさらに集まりやすくなる。

 高峰博士の半生を描く映画のロケが10月から始まる。来年に公開され、博士への関心 はますます高まっていくに違いない。調査の成果については分かりやすく地域にも還元してほしい。博士は生まれ故郷の高岡市の偉人でもあり、調査の進展次第では両市が連携する発想があっていいだろう。

 金沢ふるさと偉人館の調査は、高峰博士の晩年の手帳や書簡などが対象になる。日々の 出来事を記録した手帳からは、帰国時の幅広い交遊関係がうかがえ、当時の富山県知事と面会していたことも分かっている。博士は黒部川の電源開発や高岡でのアルミ産業構想提言など郷土とのつながりを深めたことでも知られる。その詳しい足跡はぜひ知りたいところだ。

 高峰博士が活躍した主たる舞台は米国であり、明治・大正期に日本が輩出した巨人と評 されるその偉業に比べれば、人物像は必ずしも十分には伝えられていない。全国の経済人らによって昨年設立されたNPO法人高峰譲吉博士研究会(東京)などと協力し、資料の収集にも取り組む必要がある。

 2年後に顕彰施設が開館する鈴木大拙や、すでに記念館のある金沢三文豪などと違って 、独立した中核施設が地元にないのは残念だが、今後の調査を通じて高峰博士のふるさとにふさわしい情報発信をしていきたい。

◎鳩山首相の対米外交 「対等な関係」次回説明を
 鳩山由紀夫首相が各国首脳との会談や国連演説をそつなくこなし、まずは無難な外交デ ビューを飾った。鳩山首相が「対等な日米関係」を唱えていることについて、オバマ政権内には「米国離れ」を懸念する声もあっただけに、オバマ米大統領に対して対米関係を外交の基軸とする姿勢を自ら伝え、日米同盟の一層の強化を確認した狙いは良かった。

 日米首脳会談では「核なき世界」の実現や北朝鮮問題など、日米協調に支障のない課題 を確認し合っただけで、インド洋での海上自衛隊の給油活動や在日米軍の再編見直しといった個別案件は先送りした格好だが、今はあまり先を急ぎ過ぎず、信頼関係の構築に努める時期と考えてよいのではないか。

 政権交代によって日米関係にどんな変化が生じるのか、米側の疑心暗鬼が解消されたと は言い難い。鳩山首相が目指す同盟のかたちとはどういったものなのか、いまひとつ明確ではない。11月に予定されるオバマ大統領の初来日に向けて、「対等な日米関係」の具体像を説明し、米国側の警戒感を解く努力をしてほしい。

 給油活動の撤退や在日米軍の再編、日米地位協定にかかわる問題は、なかなか一筋縄で はいかないだろう。いかなる場合でも、日米同盟の強化につなげるという基本線から逸脱しないバランス感覚が求められる。首脳同士が相互理解を深め、腹を割った話し合いができる関係をつくりたい。

 岡田克也外相とクリントン米国務長官との会談では、岡田外相が提起した在日米軍再編 見直しに対し、クリントン国務長官は話し合いの余地があることを示唆しながらも「現在までの日米合意の実現が基本」と強調し、今後の交渉の難しさを印象付けた。

 核兵器を積んだ米国艦船の日本寄港などを認める「核の密約」問題に一切触れなかった のは、信頼関係の構築を優先したかったからだろうが、岡田外相は外務省に密約の全容解明に向けた調査チームを指示するなど、準備を着々と進めている。こうした行為が日米の相互不信を高める結果を招かぬよう十分注意する必要がある。