サイゾースタッフ
パブリッシャー/揖斐憲
プロデューサー/川原崎晋裕
エディター/佐藤彰純
デザイナー/cyzo design
Webデザイナー/石丸雅己※
広告ディレクター/甲州一隆
ライター(五十音順)
竹辻倫子※/田幸和歌子※
長野辰次※/平松優子※
※=外部スタッフ
広告収入減の各社にダメ押し! あらわになる"押し紙"タブー(前編)
大手メディアの間で長年タブーとされてきた新聞社各社による"押し紙"問題。6月に「週刊新潮」が報じたのを皮切りに、そのタブーが破られ始めた。広告収入も減る一方の新聞社にはまさに泣きっ面に蜂のこの事態、新聞総倒れの契機となるかもしれず──。
いま、こういう噂が流れている──新聞に全面広告を頻繁に出している大手メーカーが、広告代理店に強硬な質問状を送りつけてきた。それはこういう内容だった。
「本当に押し紙というのは存在するのか。もし本当に存在するのであれば、これまで我々が支払ってきた広告料金は、過剰請求ということになるのではないか。これは詐欺と呼んでも差し支えない事態であり、場合によっては訴訟も辞さない」
これに対して広告代理店サイドは火消しに必死になっており、クライアント側に広告料金のダンピングも含めてさまざまな交換条件を提示しているようだ。これでいったん騒ぎは収まりそうな雲行きではあるものの、しかし一度暴露され始めた問題は、もう元には戻らない。
いよいよ新聞社の押し紙問題が、新たな段階へと入ってきた。
最初に突破口を開いたのは、「週刊新潮」である。6月11日号で、「『新聞業界』最大のタブー『押し紙』を斬る ! ひた隠しにされた『部数水増し』衝撃のデータ」という記事を掲載したのだ。執筆したのは、かねてよりこの問題を追及し続けているフリージャーナリストの黒薮哲哉氏。「『押し紙率』を見てみると、大手4紙については読売18%、朝日34%、毎日57%、産経57%だった。4紙の平均でも、公称部数の実に4割以上が『押し紙』」という衝撃的な記述だった。
押し紙について、簡単に説明しておこう。押し紙とは、新聞社が販売店に売る新聞のうち、読者に届けられない売れ残りのことだ。たとえば、ある販売店が5000部しか読者に販売していなかったとしても、新聞社からは6000~8000部と余計に販売店に届けられる。そしてこの余計な1000~3000部の仕入れ代金は、販売店側に押しつけられる。そうやって新聞社から押しつけるから、押し紙と呼ばれるのだ。
なぜこのようなことがまかり通っているのかといえば、2つの理由がある。まず第1に、新聞社側が部数を減らしたくないから。だから部数減の分を、販売店に押しつけている。
第2に、部数が減ると広告単価に影響があるから。見た目の部数をなんとか維持することによって、広告料金を高止まりさせることが可能になるというわけだ。
新聞販売店からすると、押し紙は一方的に損失を押しつけられる以外の何ものでもない。しかし押し紙を断ったりすると、販売店契約を解除されてしまう恐れがあるため、新聞社に対して従属的な立場にある販売店は、このひどい慣行を受け入れざるを得ない。
とはいえここ数年、新聞の部数はますます減少してきており、経営に行き詰まる販売店もどんどん増えている。
そこで「窮鼠猫を噛む」じゃないけれども、販売店の側が新聞社を相手取って訴訟を起こすようなケースも現れてきている。しかしこうした問題を、新聞社の側は、まったくといっていいほど報じていない。メディア界のタブーのひとつだったのだ。
しかし、もう押し紙を隠し通すことはだんだん不可能になってきている。そもそもこれだけ新聞を定期購読する人が減り、周囲を見渡しても「新聞をとってます」という人がものすごい勢いで少なくなっているのにもかかわらず、いまだに読売新聞が1000万部、朝日800万部、毎日380万部という公称部数がまかり通っているのは、あまりにも無理がありすぎる。本当にそんなに新聞は読まれているのか? 実はかなりの部数は、押し紙で維持されているだけじゃないのか?
そういう状況の中で、「週刊新潮」が大手メディアとしてはほとんど初めてといっていいぐらいに、本格的に押し紙問題に切り込んだのだった。
そしてこの記事を見て驚愕したのは、新聞社に広告を出稿しているクライアント企業だった。これまで押し紙問題はメディア業界の一部で細々と語られるだけで、大きなメディアで正面切って取り上げられることはあまりなかった。だから新聞の広告クライアントにも実は押し紙問題はあまり認知されていなかったのだが、「週刊新潮」によって、とうとう衆目にさらされることとなってしまったのである。
(後編につづく/文=佐々木俊尚/「サイゾー」9月号より)
ささき・としなお
1961年生まれ。毎日新聞、アスキーを経て、フリージャーナリストに。ネット技術やベンチャービジネスに精通。近著に『仕事するのにオフィスはいらない』(光文社)、『2011年新聞・テレビ消滅』(文藝春秋)ほか。
部数至上主義はもう時代遅れ!
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