民主党政権で税制改正を担当する峰崎直樹副財務相は24日、省内で事務方と初の打ち合わせを行い、10年度税制改正に向けた議論を本格的にスタートした。民主党は政府内に新たな政府税制調査会を設置し、自民党政権時代は党の税制調査会中心だった従来の税制改正の仕組みを抜本的に改める。まず、新政府税調の組織づくりを進めた後、政権公約した揮発油(ガソリン)税の暫定税率廃止など、10年度税制改正を本格化させる。【斉藤望】
「税調と国家戦略局の関係はどうするか。各省からのメンバーは政務官と副大臣のどちらがいいか。詰める点がまだまだある」。峰崎副財務相は24日の打ち合わせ後、こう述べた。政府は10月初旬に新政府税調を設立したい意向だが、従来の税制改正の仕組みを大きく変える試みだけに、手探り状態が続く。
民主党が目指すのは「政府主導による透明な税制改正」(藤井裕久財務相)。自民党政権では、政府税調とは別に、自民党の党内組織である自民党税制調査会が、各業界の要望を一手に引き受け、研究開発減税や保険料控除など税制の細部を詰めてきた。
自民党税調の中でも税制に詳しいベテラン議員数人でつくるインナー(幹部会)の権限は絶大で、財務相はおろか首相ですら議論の主導権は握れなかった。一方、学者など有識者中心の政府税調(首相の諮問機関)は、毎年のように税制のあるべき姿を提言した報告書をまとめるものの、税制改正には実質的にほとんど影響しなかった。
民主党はこうした仕組みを「政府と党の意見がばらばらの権力二重構造。族議員が税制をゆがめる温床になってきた」(藤井財務相)と批判していた。新政権では、民主党税調を廃止し、財務省内に新政府税調を設置する計画で、会長は財務相、メンバーは各省庁の政務官か副大臣になる予定。民間人は入れず、税制改正も政治主導にする予定だ。メンバーは収賄罪などが適用される国家公務員になり、特定の業界に有利な税制改正を直接要望することは難しくなる。また、税調外に民間人による有識者会議を設置する。
議論がまとまらない場合、自民党時代は「インナーが最後はまとめてくれた」(財務省幹部)が、新税調では、誰が最終調整するのかはわからない。歳入を左右する税制改正は予算づくりと密接に絡むだけに、菅直人副総理が担当する国家戦略局との調整も不可欠だ。自民党税調の仕組みを40年ぶりに変えるだけに、仕組みづくりに手間取れば、年末の税制改正が遅れる懸念もはらんでいる。
新政権にとって初めての10年度税制改正は、大型案件が目白押しだ。来夏の参院選をにらみ、民主党マニフェスト(政権公約)で掲げた揮発油税などの暫定税率撤廃に初年度から踏み切る考えで、実現すればガソリン1リットルあたり25円、軽油は17円の値下げになる。自動車購入時、価格に5%がかかっている自動車取得税も3%に下がり、政府全体で2・5兆円規模の減税となる。
ただ自動車取得税や軽油引取税は地方税のため、税収減となる地方自治体への対応も必要。減税実施のための課題は多い。
一方、増税になる項目もある。子供1人あたり年間31・2万円を支給する子ども手当の創設と引き換えに、所得税の配偶者控除や扶養控除は廃止される。増税額は年1・4兆円規模で、民主党の試算では全世帯の4%にあたる200万世帯が負担増になる。
また、企業の研究開発減税や家庭向けの住宅ローン、エコカー減税など、310項目にわたる政策減税(一部は増税)を定めた租税特別措置法の見直しでも1・3兆円を捻出(ねんしゅつ)する予定。藤井財務相は政策減税が業界向けの隠れ補助金になっていると批判し、「透明化に真っ先に取り組む」と表明している。
数十年にわたって続いた減税措置などもあるため、国民生活や企業活動への影響を見極めながら見直す作業は膨大なものになりそうだ。
毎日新聞 2009年9月25日 東京朝刊