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きょうの社説 2009年9月25日
◎パリにアンテナ店 多面的効果が期待できる
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の創造都市ネットワークにクラフト(工芸)分野で
登録された金沢をアピールするため、山出保市長が、パリに工芸品を扱うアンテナ店を開設することを検討する考えを示した。世界の流行をけん引する都市の一つであるパリに拠点を置けば、店内での売り上げ以外にも多面的な効果が見込めよう。コスト面などの課題はあるだろうが、ぜひ実現してほしいアイデアだ。パリのアンテナ店に並んだ商品が好調な売り上げを示せば、そのこと自体が、日本でも 大きなセールスポイントとなる。「パリで話題になった」ことをうまく宣伝すれば、国内での売り上げ増にもつながるに違いない。欧州のほかの国や米国、アジアなどに販路を広げる際にも、この「売り文句」は役立つだろうし、パリでも評価された技にあこがれ、継承したいと志す若者も増えよう。 金沢の工芸とパリに本拠を置く有力ブランドとの連携を探る拠点としても、アンテナ店 は機能しそうだ。商品が関係者の目に触れる機会が増えるだけでも、チャンスは大きくなろう。一昨年、大反響を呼んだ輪島塗とルイ・ヴィトンのコラボレーションの再現に期待がかかる。磨き抜いた技を世界に向かって発信するアンテナ店を最大限に活用し、藩政期より培われてきた工芸土壌を、より分厚いものにしていきたい。 もちろん、アンテナ店は観光都市・金沢の売り込みにも大いに生かせるはずである。今 年3月に仏・ミシュラン社が発行した観光ガイド本で兼六園が三つ星を獲得し、仏国内で金沢の注目度が高まっていると予想されるだけに、パリでの発信力を強化することは、国際観光振興の観点でも時宜を得た取り組みと言えよう。 アンテナ店で金沢の工芸に間近に接し、「完成した商品だけではなくて、それを作ると ころも見てみたい」という思いを抱く人も少なからずいるだろう。ただ「物見遊山」的な観光コースを紹介するだけでなく、工芸の魅力を通じて旅の感動を与える「クラフト・ツーリズム」のPRにも、大いに工夫を凝らしてもらいたい。
◎返済猶予制度 地方にもプラスにならぬ
亀井静香金融相が法案づくりを指示した中小企業や個人への融資の返済猶予(モラトリ
アム)制度は、金融恐慌などよほどの非常事態に緊急避難的にのみ許されるもので、平時の資本主義国家には、なじまない。中小・零細企業の取引先は、地方の中小金融機関に集中しており、地銀などは、返済猶 予によって収益機会が奪われ、業績悪化の懸念がある。法案づくりが動き出せば、銀行株は低迷し、経営側は融資の引き揚げと新規融資の中止に動くだろう。地域経済を混乱に陥れることはあっても、プラスになるとは思えない。 そもそも国が銀行経営に介入し、個別の融資契約を強制的に変えさせて、借り手に利益 を、貸し手に損を押し付けることができるのか。返済を猶予してもらえる対象の範囲をどうやって決めるのか。本来なら淘汰されるべき企業が安易に延命されたり、借り手が経営改善努力を怠る「モラルハザード」の懸念もある。 金融庁は長らく、不良債権の重しに苦しんできた銀行の経営健全化を後押しし、債務超 過企業を市場から退場させ、早期の不良債権処理を積極的に促してきた。その努力のかいあって、地方を含めた金融機関の経営がようやく健全化してきた時に、金融行政を転換すれば、不良債権が増加し、再び信用不安を招きかねない。リーマン・ショック以降、金融機関の経営健全化に懸命な世界の大勢にも逆行するだろう。 亀井金融相は、金融機関の経営が悪化した場合、国が支援する考えを示したが、それも 「悪手」というほかない。銀行はこれ幸いとリスク無しで利益を上げようとするだろう。行き着く先は、貸し手のモラルハザードである。 貸し渋り・貸しはがし対策は、民主、社民、国民新の与党3党による連立の政策合意に 盛り込まれている。だが、中小企業の資金繰りを助けたり、個人の住宅ローンを政策的に支援する方法は、ほかにいくらでもある。金融機関に負担を背負わせ、融資の返済を強制的に止める「徳政令」のようなやり方は、避けるべきだ。
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