政権交代:識者はこうみる

2009年 08月 31日 10:24 JST
 
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 [東京 31日 ロイター] 第45回衆院選は、民主党が300議席を超す議席を獲得して圧勝し、同党中心の連立政権を樹立することになった。市場関係者のコメントは以下の通り。

●株式市場は当面歓迎ムード、組閣後は政策実現力を見極めへ

 <三菱UFJ証券 投資情報部長 藤戸 則弘氏>

 選挙結果はほぼ事前の情勢調査通りとなり、株価にある程度は織り込まれているが、閉塞感を打破したいという国民の意思の表れであり、株式市場では一応の歓迎ムードで始まりそうだ。前週末には米インテルINTCが第3・四半期の売上高見通しを引き上げていることもハイテク株には追い風となろう。景気や企業業績は底打ち傾向がみえてきており、株価は当面、緩やかな上昇・下値切り上げとなりそうだ。

 ただ歓迎ムードも組閣のときがピークだろう。その後は民主党のマニフェストに掲げられている政策がどの程度実現できるのかを見極められる段階に入る。財源問題があるほか、国家戦略局をベースにした予算編成も12月までには時間が乏しく、官僚の出してきた案をやや修正する程度になる可能性も大きい。そうなれば期待が大きい分、失望も大きくなるだろう。

●変化受けた海外勢の日本株買いで円高も

 <JPモルガン・チェース銀行 債券為替調査部長 佐々木融氏>

 総選挙での民主党勝利は予想通りで、足元の為替への影響は限定的。ただ、これが大きな変化であることは確かで、海外勢は日本をみるにあたって変化に注目する。選挙をきっかけに海外勢が日本株への買いを強める可能性がある。これまでは日本株を含めた株価の上昇は円売りだったが、 ここにきて関係が弱まってきたこともあり、新政権誕生による日本株買いが円高につながることもありそうだ。

●短期的な政治空白で目先は円高投機のリスクも 

 <野村証券金融調査部 外国為替アナリスト 池田雄之輔氏>

 9月半ばの組閣まで、短期的には「ポリティカル・エアポケット」になるため、目先、投機筋が円高を仕掛けるリスクがあるだろう。現在の政局は、かつて自民党の宮沢政権が過半数を取れず、細川政権に移行した時期に似ており、当事はドル/円相場が108円台から101円台まで下落した。

 中長期的には、財政面からの景気押し上げ効果が鈍り、失業率のさらなる上昇も見込まれ、国内投資家のリスク許容度が低下するだろう。このため資金は国内に滞留しやすく、円高のインプリケーションがある。

 また、過度な米国依存を脱却するという民主党のこれまでの方針を貫徹するのであれば、為替市場では、外貨準備の構成比率を変える等の思惑を招きやすい。

 中央銀行との関係では、民主党は日銀の独立性を支援していくという立場であり、中長期的にみて、民主党政権のほうが利上げのタイミングは早まるだろう。

●短期的には株価の反応注視

 <バークレイズキャピタル証券 チーフストラテジスト 森田長太郎氏> 

 政策変化に対する期待が強まるようであれば、株式市場がある程度今回の選挙結果をポジティブに受け取る可能性がある。債券市場は、選挙直前に出てきた鳩山民主党代表の「国債発行は増やさない」という非常に「曖昧な」表現をポジティブに受け取るムードもあった。しかし、どの時点での国債発行額対比で国債発行を増やさないと言っているのか、実際にはかなり曖昧さを残す発言内容であったのも確かだ。

 選挙結果判明直後の鳩山代表の発言は、「国債発行は極力増やさない」というように既に微妙に軌道修正されており、今後、より具体的な予算編成プロセスを注視する必要がある。ごく短期的には、今週の債券市場の動きは株式市場の動きをにらんだものにならざるを得ない。

●財政政策変更、見極めに時間

 <ドイツ証券 チーフ金利ストラテジスト 山下周氏> 

 民主党は、年末の第二次補正予算や来年度予算に、政権公約の支出を具体的に組み込んでいくことになるだろう。問題は財源のねん出であり、第一次補正予算の速やかな執行停止や経費節減などを、どれだけ具体的に実行できるかを見極めたいが、時間のかかる話だ。民主党の鳩山由紀夫代表は30日、「国債発行を極力抑えるように努力しなければならない」と述べていたが、具体的にどう実行するのかが問われる。

 民主党政権の誕生が、財政規律や国債需給をどう変えるかを見極めるには時間がかかる。そのため、目先は、政治の安定が円高や株高につながるかといった他の市場への影響を通じて、円債の動きは左右されそうだ。

●当初懸念より円債にネガティブではない

 <みずほ証券 チーフマーケットアナリスト 三浦哲也氏> 

 円債マーケットには、民主党が勝つことは織り込まれていたので、さほど驚きはないとみている。ただ、当初、民主党主導による政権は「バラマキ」で「国債増発」だという見方が強かったが、鳩山民主党代表の言い方によれば、「それはない」ということだ。財政が野放図に悪くなることは考えにくい。全体をあわせて考えると、円債マーケットにはネガティブではないはずだ。考えられる政策内容も少しデフレに傾くような施策が目に付く。円債市場ではややデフレ意識が働くので、これもサポートになるとみている。民主党への政権交代は当初懸念されてよりはネガティブではない。

●従来と異なる個人消費中心の経済成長が可能に

 <カリヨン証券 チーフエコノミスト 加藤 進氏> 

 民主党は単独で絶対安定多数を獲得した。安定的な国会運営を経て、子育て・教育といった消費者支援の政策を打ち出し、政権公約が実施に移されれば、従来とは異なる個人消費中心の経済成長が可能になってくる。

 これまで日本経済はあまりにも輸出依存、外需に依存し過ぎていた。内需が非常に弱いという裏返しでもあったわけだが、日本経済が国内需要を中心に成長していけば、従来までは輸出に多くを依存してきた企業も、ある程度国内需要で収益を上げていく方向にシフトしていくだろう。

 ただ、その場合に民主党のどちらかといえば円高容認的、あるいは金利上昇を容認する政策スタンスが、どの程度影響を与えていくかを多少注意しなくてはならない。

 結果的には内需政策による刺激に加え、世界経済が回復し外需が回復していけば、内外需の両輪そろって国内経済を支える姿になっていく。

 したがって、当面は先行きへの日本経済の変化への期待が高まり、新しい局面を迎えるのではないか。民主政権の評価は年末までにまとめられる2010年度予算編成で明らかになるだろう。

●初期反応は「日本買い」で円高に、株高進行なら円売りも

 <東京都民銀行 シニア為替アドバイザー 角田秀三氏>

 ドル/円相場は93円割れまで円高が進行した。日本買いで株高・円高という反応が選挙結果に対する初期反応と言えるだろう。ただ、株高が進行し投資家のリスク許容度が回復すれば、円安気味にぶれる可能性がある。

 今後は組閣に向けて、株価を見ながらの展開が予想されるが、きょうは月末要因の輸出入の決済や日本版HIAにからんだ円買いの可能性もあり、選挙に対する反応のみを抽出することは困難だ。

 現状の外為市場では、日本の政権交代にかかわらず、商品、新興国通貨、株価などが利食い売りに押され、価格の下方調整が進行する状況の中で、円高が徐々に進んでおり、この状況はまだしばらく続くことが予想される。

●想定通りで金利シナリオ修正せず

 <UBS証券 チーフストラテジスト 道家映二氏> 

 衆議院選挙の結果を受け、政権交代が実現した。今回の選挙結果は想定どおりであり、金利シナリオに変更はない。仮に自公政権継続なら、第2次補正予算の編成による追加経済対策の早期実現が予想されただけに、円債市場にとって決して悪い話ではない。次の焦点は組閣となるが、国家戦略局の担当閣僚は直嶋政調会長、財務相が藤井最高顧問と予想する。予想通りなら民主党政権・ばらまき財政との懸念は弱まりそうだ。

 今年度第2次補正予算の編成に伴う国債増発額については、税収の大幅な下振れを主因に7―10兆円程度と見積もっていた。一方、民主党は、今年度予算について補正予算の組み替えを主張している。具体的には、景気対策のための「基金」と、無駄な公共事業について、執行の凍結が検討されているようだ。歳出は数兆円規模で減額される可能性があり、その場合、国債増発額は3―6兆円程度に抑えられるだろう。

●株高の持続性に疑問、政策実行力が問われる

 <東海東京証券 マーケットアナリスト 鈴木誠一氏>

 民主党政権への期待感から当面は株価も堅調に推移しそうだが、政権が本格的に始動する10月以降の株高持続は疑問だ。93年の政権交代期も新党ブームは一時的で、結果的にはマーケットに押しつぶされる形となった。今回も政権が動き出せば、政策実行力が問われることになる。ネックとなるのは財源だ。市場は短いタームでの結果を求める。国債増発は容易でなく、政策が遅れるようなことになれば、市場は嫌気するだろう。

●国家の成長ビジョンに懸念生じる

 <モルガンスタンレー証券・経済調査部長 ロバート・アラン・フェルドマン氏>

 総選挙で民主党は圧勝となったとはいえ、参議院否決後の再可決に必要な3分の2の議席を確保できなかった。現状では参議院において単独過半数を占めていないため、来年の参議院選挙まで混乱が生じる可能性もある。郵政民営化に反対する国民新党や社民党との連立が不可避で、こうした小政党に配慮せざるを得ない点は政策実行がスムーズに進まないことを意味しよう。政治的な安定という点を踏まえると、公明党が接近してくるシナリオも考えられる。

 ただ、いずれにしても、国家の成長ビジョンに関して、懸念が生じる状況にあるといえよう。小政党との連立に加え、選挙期間中、民主党は利益団体に配慮するような動き示した。足元の政策には、その成否や功罪は別にして、真剣に取り組むとみられるが、長期的な成長戦略に関して緊張感を持つと考えにくい。他方、野党に転落して来年の参議院選挙で巻き返しを図る自民党についても、今回の選挙結果で守旧派と改革派が半々で、再生に向けての方向性がはっきりしない。

 本来、政治的合理性と経済的合理性は異なる。これまで民主党は政治的合理性を優先してきた。今後は、いかに経済的合理性に目を向けていくのか注目したい。

 
 
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