「献血で右腕麻痺」の問題点

投稿者: 霜山龍志 投稿日時: 2009/05/21 8:51:58

大上段に構えるとコメントがつきにくいので(それがいいという人もいるようで)、ふだんはわざと突っ込みどころを用意しておくのですが、今日はできるだけ精緻に論理を積み重ねてみたいと思います。

朝日新聞によると、なぜ朝日しか報道しなかったのかも疑問ですが、2003年に血液センターで献血した中年の女性が、採血による神経損傷から、反射性交感神経性萎縮症(RSD)という病気にかかり、日赤に補償を求めたところ、心理的要因だなどといわれて十分な補償が得られなかったため、大阪地裁に提訴し、このほどやっと7200万円の支払いで和解が成立したとのことです。

こん問題にはすくなくとも4つの疑問点があります。一つはなぜ献血のような善意の行為に無過失補償制度がないのか、それから日赤はなぜ補償を出し渋ったのか、なぜ裁判なぜ和解内容を秘匿し、また謝罪会見を開かないのかということです。

まず第一点ですが、2007年10月まで、献血事故や副作用は各血液センターの対応として、日赤の負担で私費診療を受けていた場合と、健康保険におんぶして自己負担分だけを日赤がだしていた場合とがありますが、ともかく、日赤の負担は医師賠償保険で補填されていました。

しかし厚生省がこの見直しを行い、同年10月からいわゆる無過失補償制度ができましたが、その実態は健康保険におんぶする方式を黙認したもので、事実上無過失補償制度は確立されませんでした。その原因はおそらく、審議会に医療と法律の両方に詳しい専門家がいなかったためだと思います。

なぜ無過失補償が必要かといえば、患者と献血者では立場がまったく違うからです。

患者さんが採血を受けたり注射をするのは病気をなおすという自己目的があり、その副作用は病気治療という主作用との比較香考量のうえで評価すべきものであり、たとえば、10万回に一回こうしたRSDという重大な副作用がおきたとしても、ある意味いたし方のないこと、つまり法律的にいえば受忍可能でありましょう。

しかしながら、献血者には採血を受ける義務も自己目的もなく、単に利他的な気持ちで献血をしているのであり、100万回に一回でもかような重症な副作用は許されないと考えます。

この点については医師の間にも混同があり、患者の採血でRSDが生じて7000万円も補償するのが先例になってはかなわないという意見がありますが、的をはずれた意見です。

ですから、一旦そうした副作用がおきれば速やかに治療はもとより補償すべきなのであります。政府の制度がなぜだめかといえば、本件に適用されたとしてもせいぜい270万円がしはらわれるだけだからです。

これでは到底補償とは呼べないのです。日赤は輸血副作用については血眼になって防止しようとしていますが、献血事故については血眼になっている様子がみえません。

本件でもうまく血管がさせずに20分間もぐりぐり探っていたというのですから、なにをかいわんやでしょう。そうした態度がまったく先の基準と反対を向いており、またその誤謬に気づいてないのです。

すでに第二の問題の回答はしめされました。つまり日赤がしぶったのは現行制度では中途半端な補償しかできないからです。しかし、RSDの原因を献血者のせいにしたのがなんともおろかなことでした。

献血者が激怒したのも無理からぬことです。RSDという病気はたしかにむずかしいものです。その正確な発症メカニズムもわかっていません。その症状は疼痛や異常発汗、知覚異常、麻痺などにわたっており、その原因が血管を支配する交感神経にされているだけなのです。

つまり、疼痛というもっとも主観的で医師が客観的に評価できないものが前景に出ており、加害者としては被害者が詐病をしているのではないかと疑うことがあるわけです。その点追悼事故における鞭打ち損傷に似ています。

しかしこれは鞭打ち損傷を体験した人にはわかることで、症状が遷延するのは一般的なことなのです。RSDをわずらった人は少ないので、まだその点の分析ができていないといってもよいでしょう。

第三の問題ですが、これは裁判所の態度の問題です。個人対政府、個人対大企業の紛争において裁判所が後者のかたを無視し気的にもつということは何人も否定できないといって過言ではありません。

それは手間をはぶきたいのと、裁判官自身が独立の専門職でありながら、公務員にすぎないからです。大きな団体を敗訴させればその後の控訴や上告で面倒なことになります。

しかし、実際はそうした不公正な態度が裁判制度に対する国民の信頼を失わせるものなのです。おそらく裁判所が判決でなく和解勧告をえらんだのは、東京地裁の判例が念頭にあったからでしょう。

たしか平成17年に、東京地裁は採血による神経損傷についてその過失を否定し、したがって不法行為性がない、つまり日赤に損害賠償債務不存在の判決を出しています。

しかしこの判決がいかにおかいしなものかは、先ほどの献血の概念で明らかでありましょう。献血は一種の契約であり、不法行為という過失有責論によって被害者が過失を証明する必要はなく、債務不履行という債務者側に無責性の証明を必要とするものなのです。

つまり、患者に輸血するために採血をさせるという無償の契約を締結し、その債務をはたせなかった日赤には債務不履行の責任があるのです。本件採血に過失がなかったということを日赤は証明しなければ免責されませんが、それは後述のように無理な話です。

最後の論点は日赤の態度に問題があります。赤十字の7つのスローガンは人道奉仕中立公正単一世界性なのですが、奉仕の精神が忘れられている、だから官僚主義と秘密主義の牙城、いいかえれば企業防衛が前面に出ているのです。

その原因が厚生省からの天下りにあるのか、元々の体質なのかはわかりませんが、日本赤十字は政府の監督が厳しく、政府の支配を禁じた国際赤十字憲章の立場からは鬼子といってもよい立場にあります。

このような重要な問題を秘匿して、謝罪会見を開かない居丈高な態度は赤十字のブランドイメージを毀損するものであり、内部の危機管理システムが機能していないことを如実に示すものでしょう。


これまでのコメント

  1. 修正 :

    10行目「なぜ裁判」のあとに
    では結審に6年もかかり、判決ではなく和解になったのか、また日赤は
    を挿入してください。
    ほかの細かな誤字脱肛についてはお許しを。

  2. 匿名 :

    赤十字に危機管理ができないのはよくわかります。
    四国や北海道でもそれが問われる事件が起きてますもね

  3. 匿名 :

    はっきり言って献血に行くのは命がけで行くってことですよ
    事故があっても日赤はマトモニ保障もしないし僅かの治療費だけで
    文句があるなら裁判を起こして下さい、と言う態度です
    彼らは献血者をまともに相手にしてないんです。献血者は日赤にとってお菓子やジュースなどの撒き餌に集まってきた
    雑魚で血液さえ搾り取れば後は関係ないんです。又次の獲物をあさればいいんです
    詐欺師以下赤十字のマークを隠れ蓑にした悪魔の吸血鬼集団です

  4. 匿名 :

    115 名前:傍聴席@名無しさんでいっぱい [sage] :2009/09/05(土) 22:53:23 ID:advVVUuS0
    >一つはなぜ献血のような善意の行為に無過失補償制度がないのか、
    ドナーが自分の意志で献血しているので日赤は補償の義務はありません

    >それから日赤はなぜ補償を出し渋ったのか、
    義務がありません

    >なぜ裁判なぜ和解内容を秘匿し、
    なぜあなたにお話しなくちゃいけないのか

    >また謝罪会見を開かないのかということです。
    悪くないのに謝罪会見?

  5. 匿名 :


    日赤関係者だろうが
    こういうことでは命がけで献血をせということで
    献血者が減少傾向なのも納得できる
    実に腹立たしい

  6. 匿名 :

    95年ころに久留米一番街(福岡県久留米市在住)にあった献血ルーム(現在、撤退し更地)で献血を時たましていた。
    私の血液型がRH-だったから。
    最後に行った時のナース(中年女性)が私の腕に針を刺すときにヘマをしナカナカ血管へさせず、挙句に血管より血が噴出した。
    服は血だらけでショックを受けている私にナースは
    『よくあることですから、もう一度刺しますね!』
    腕についた血は拭くが服の事は無視した。
    あまりヘタなので中止して帰宅した。
    帰り際に免許持っているのですか?と尋ねた。
    持っていると回答された。

    以前知人が言っていた。
    『医者の常識は、一般の非常識』の言葉を思い出した。

  7. 匿名 :

    実はこのことを医師用掲示板に書いたら袋叩きにあいましてね
    不可抗力のような神経麻痺に損害賠償払えるかっていうんですよ
    しかし患者と献血者は違いますからね
    献血者は自分のために採血されている訳じゃありません
    そこを理解できないのなら脳軟化症といっていいでしょう

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