最悪の事態となる前に、助けるすべはなかったのか。その思いを強くする。福岡市東区で、夫から日常的にドメスティックバイオレンス(配偶者らからの暴力、DV)を受けていたとみられる女性(35)が変死した事件のことだ。
自宅マンションで亡くなった女性は顔や上半身に複数のあざがあり、暴行を加えた疑いが強いとして、福岡東署が現場にいた夫(41)を傷害容疑で逮捕した。夫は「飲酒のうえ口論となり、暴行を加えた」と容疑を認めているという。
警察庁によると、昨年の配偶者からの暴力事件認知件数は前年比20・1%増の2万5210件に上り、2001年の約7倍に増えた。被害者の性別をみると、女性が98・4%と圧倒的に多い。年齢別では、30歳代が被害者(36・2%)、加害者(33・2%)ともに一番多い。
配偶者の暴力から被害者を守るため、01年10月にDV防止法が施行され、警察や裁判所への通報、相談、保護、自立支援の手続きなどが定められた。被害者からの申し立てで裁判所が接近禁止などの保護命令を加害者に出し、違反した場合は罰則も適用されることになった。
その後、2度の法改正で子どもや元配偶者らも保護対象となった。無言電話による執拗(しつよう)な脅迫など、生命・身体に対する脅迫的な言動などでも、保護命令の申し立てができるようになった。
亡くなった女性も2年前から計5回、夫のDVを福岡東署に相談していた。署は女性の被害申告を受けて今年5月には傷害容疑で夫を逮捕したが、女性が被害届を取り下げて釈放になっていた。
夫の釈放後も、女性は暴力を受けたとして「避難したい」などと訴えた。そのため、一時的に保護されることが決まったが、その直後に「携帯電話を忘れた」と自宅に戻ったのを機に、再び夫と暮らしていたという。
DVの専門家は「被害者が『逃げても無駄』『自分が悪い』と思い込み別れられないケースが多い」と指摘する。夫婦間の感情は他人が思うほど単純ではないだろうが、それにしてもやるせない。
児童虐待と異なり、DV被害者は分別のある年齢だ。男女間の問題に、他人が「どこまで立ち入れるのか」というジレンマがあるのも事実だが、年々深刻になる被害の状況は看過できない。
専門家は「DVは愛情ではなく犯罪だと、被害者自身が認識することが重要」と訴え、「相談を受けたときは孤立させず、家族や友人などが、しっかりと話を聞くことが必要だ」と言う。
身体的暴力だけでなく、精神的な虐待なども考えれば、現代では誰もがDVの被害者にも加害者にもなり得ると自覚すべきだろう。DVは相手を傷つけるだけでなく、人権侵害であるという意識も持つ必要がある。DV被害根絶には、被害者支援にとどまらず、男女が異性を尊重し合う社会へ意識変革も不可欠だ。
=2009/09/24付 西日本新聞朝刊=