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日本語にしにくい英単語がある。「イニシアチブ」は率先、主唱、主導権などと訳すが、どうもしっくりこない。そういう振る舞いは私たちの柄でないのかもしれない。とかく「出るクイ」を疎む国民性である▼ゆえに新鮮、かつ胸のすく姿だった。国連の気候変動サミットで、温暖化ガス削減の新目標を打ち上げた鳩山首相だ。前政権の3倍超という野心的な数字は、喝采の中で国際公約になった▼大排出国の米国、中国は牽制(けんせい)し合い、大した約束をしていない。新首相のスタンドプレーで国民や企業が不公平に泣くことはないか。そんな懸念もあろう。外交舞台では人気者より、ずる賢い嫌われ者が国益を守ることがままあるからだ▼だが、人類の存亡にかかわる危機は切迫している。主要国のどこかが「地球益」を抱えて駆け出さなければ何も動くまい。そして日本が走るなら、政権交代に世界の目が集まる今である。途上国支援を鳩山イニシアチブと自称したのも、日本の型を破る自己主張だった▼もちろん、欧州勢は絶賛だ。海千山千たちにハシゴを外されないよう用心しながら、これからも得意の「非軍事」で汗をかくのが日本の正道だろう。そうして蓄えた国際社会の尊敬と信用は、いずれ国を救う。目先の、ちまちまとした損得よりよほど意味がある▼この国が、慣れぬ手で握りかけた主導権だ。かくなる上は米中や途上国を動かし、国内の説得に努めるしかない。「格好よさ」に見合う責任が鳩山政権にのしかかる。追従しない外交とは、本来そういうものである。