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八ツ場ダム交渉不発 意気込む前原国交相、住民「何を今さら」

9月23日21時19分配信 産経新聞

八ツ場ダム交渉不発 意気込む前原国交相、住民「何を今さら」
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八ツ場ダム建設地の視察を終え、完成予想イラストをバックに会見する前原誠司国交相=23日午後、群馬県長野原町の山村開発センター(矢島康弘撮影)(写真:産経新聞)
 「住民の苦労と不安に耳を傾けたい」と意気込む前原誠司国土交通相。「何を今さら」と反発する地元住民。23日に八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)を視察した前原国交相を待ちかまえていたのは、住民らの強硬な反発だった。結局、この日は、地元首長らとは会えたものの、住民の生の声は聞けずじまい。国民の圧倒的な支持を受けて発足した民主党政権だが、政権公約(マニフェスト)の現場では厳しい現実にさらされた。

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 視察中の取材は一部を除いて、一切規制される異例の厳戒態勢の中で行われた今回の訪問。建設予定地や代替地視察は10分間程度、工事担当者の話を聞いただけだった。水没する川原湯温泉の訪問はせず、予定していた意見交換会も住民側から拒絶。戸別訪問など地元住民との接触は一切試みられなかった。

 「10分の視察で半世紀以上の苦悩が分かるはずがない」。すでに水没予定地から代替地に転居した会社員の篠原健さん(33)は不満を漏らした。

 代替地には、完成を見届けずに亡くなった住民が眠る墓地もある。「彼岸に中止を言いにくるなんて不謹慎」と不満を漏らす人もいた。

 23日は大型連休最終日で、川原湯温泉はかき入れ時。旅館「柏屋」の専務、豊田幹雄さん(43)は「とても話し合いに応じる余裕なんてない」と憤った。

 住民側は「中止ありきでは交渉に応じない」と意見交換を全面的に拒否。前原国交相は現地での記者会見で「最後まで努力したが実現しなかった」とだけ説明。川原湯温泉など水没地区が視察予定地になかった点を聞かれると、「また来る」とだけ語った。

 住民らの思いは複雑だ。当初から建設推進だったわけではない。長年の反対運動の末に、治水対策など公共の利益を説く国の説得に応じる形で苦渋の決断をした経緯があるからだ。

 建設計画発表から57年。長い闘争の過程で、疲れ果てた住民は別の地域へバラバラと転居。代替地へ集団移転予定だった約340世帯も結局は約90世帯に。すでに地域社会は大きな犠牲を払ってきたのだ。

 残った住民はダム完成を前提としての街の復興を思い描く。「われわれには時間がない」。唯一の意見交換の場となった自治体側との会合終了後、長野原町の高山欣也町長は前原国交相に歩み寄り訴えた。

 建設中止が降ってわいたことで、住民同士が再び反目し合う事態も想定される。この日も、建設反対派が国交相一行に賛同の意見書を渡す光景があった。

 温泉街で唯一の土産物屋、樋田ふさ子さん(80)。60年近い、ダム構想の推移を一番の現場で見続けてきた。「大臣が来るなら再建の代替案を提示するべき。これ以上、問題が長期化するのはもう耐えられない」。その一言には十分すぎるほどの切実さがあった。

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最終更新:9月23日22時18分

産経新聞

 

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