なぜスーパー銭湯の乱立が起こったのかプレジデント9月19日(土) 23時57分配信 / 経済 - 経済総合
国道を車で走っていると「スーパー銭湯」「日帰り温泉」といった看板をずいぶん目にする。いつの間にこれほど増えたのだろうか。 「スーパー銭湯が急速に増えたのは1990年代後半から。2000年代前半にピークを迎え、これまでに全国で約770施設が開業した」 そう語るのはレジャー産業の市場調査などを行う綜合ユニコム企画調査部の岡庭峰夫課長だ。 スーパー銭湯は「健康ランド」に比べると飲食や娯楽設備は簡素だが、自動券売機の設置やセルフサービスの導入で省力化されているうえ、高い利用回転数による大量集客が見込める業態だ。初期投資を早期に回収できる「軽装備・低投資」のビジネスモデルとして店舗が急増した。 「健康ランドの入館料が2000円程度だったのに対し、スーパー銭湯は500円程度で参入してきた。これは銭湯料金に100円程度上乗せした金額を基準にしたから。原型は80年代半ばには現れていたものの、『安・近・短』のニーズにマッチして一気に脚光を浴びた。しかも参入障壁が比較的低いので、遊休地の活用ビジネスとしてブームになったようだ」(岡庭氏) スーパー銭湯が初期投資を回収するためには1日1000人の来客が目安となる。客単価800円で1000人が来店すると年間売り上げが約3億円で、利益は売り上げの3割弱の約8000万円。敷地面積1500坪、延床面積400坪程度だと総投資額は約4億円となるが、約5年で初期投資を回収できる計算だ。 幹線道路沿いの土地活用としては、ほかにもゴルフ練習場やフィットネスクラブ、チェーンストアを含めた複合開発などが代表的だが、5年以内という早期の回収は難しいのが実態。そうなるとスーパー銭湯は魅力的に映った。 しかし、現在このビジネスモデルで新規に開発されるスーパー銭湯はほとんど存在しないのだという。 「00年代に入って競合が激しくなった。このため各店舗は、客の滞在時間を延ばそうと休憩・仮眠スペースの拡張や飲食施設のフルサービスへの転換を図った。ここ数年では平均で敷地面積2500坪、延床面積750坪程度にまで拡大した。さらにライバルとして登場してきた『日帰り温泉』に対抗するため、温泉の導入を強いられた。現在では約6割のスーパー銭湯が温泉を使用している。温泉の掘削費も上積みされた結果、初期投資額は約7億〜10億円に膨張し、回収には10年近くかかるようになった」(岡庭氏) こうなると、「軽装備・低投資」が武器だったはずのスーパー銭湯は、あらゆる面でかつての健康ランドと大差なくなる。しかし、入館料まで健康ランド並みに上げるわけにもいかない。 現在、多くのスーパー銭湯の入館料は一人600〜700円。利用者には一人1000円以内という心理的な壁があるようだ。実際に1000円超という強気の価格設定を行った施設もあったが、想定通りの来客が見込めず、値下げせざるをえなかったという。 さらに、ここ数年の燃料費高騰の影響などから、温浴施設全般も約2年前から下降期に入っている。綜合ユニコムによれば、累計771施設開業(09年内予定も含む)したスーパー銭湯のうち、これまでに114施設が閉店などに追い込まれている。 そもそも水回りの施設は傷みやすく、長くても10年以内に取り替えなければならず、儲けの相当分が吐き出されてしまうという。長期的に見れば決しておいしい商売ではないのだ。 ----------------------------------------------------- 西川修一=文 【関連記事】 ・ 「粗利4割超!」独立開業なら「一坪×粉もの×地味立地」 ・ 立ち食いソバ屋の“大野耐一”に学ぶ商売のコツ ・ 「1対5の法則」〜リピーター獲得と売上高営業利益率向上の関係 ・ 48歳で開業〜「小麦消費量」が教えてくれた将来性 ・ なぜ、最大60円値上げしても客数が増えたのか:マック式ファイナンス論
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