無題
- 『ミカちゃん。』
『なあに、ケンちゃん?』
『ボク大きくなったら魔法使いになる!』
『じゃあねーあたしはお姫様になる。』
『うん、魔法の馬車で迎えに行くよ!』
『魔法の馬車?』
『うん。ミカちゃん、大きくなったらボクのお嫁さんに…』
「もう終わりにしましょう、健太郎。」
「美夏!…本気なのか?」
魔法使いになりたい。
子供じみた夢想と笑い飛ばしていたその言葉を、幼なじみの健太郎は実現しつつあった。
人間の意思を機械的に強化し、世界のあり方さえ捻じ曲げる量子言霊。
常識では有り得ないオーバーテクノロジーを生み出したこの男は、今や紛れもなく世界最大の火種だ。
「本気よ。あなたの研究は危険すぎるの。ただ存在するだけで人の心を脅かすほどにね…」
「しかし、これは必要なことだ!一刻も早く新しい生き方を見つけ出さなければ人類は…」
「そのために、一体どれだけの人を不幸にしたの!?必要な犠牲だった、では済まされないわ!!」
震える手で掴んだ凶器を、しっかりと健太郎の額に向ける。
どうしてこうなってしまったんだろう?
家族、友人、同僚…大切な人を守りたい気持ちに偽りはない。
なのに、私の一番大切な人は、こうして私自身に武器を向けられている。
「ねえ、もう一度だけ言うわ健太郎…私と一緒に来て。あなたが研究を中断してくれさえすれば…」
「残った資料を元手に君の飼い主が大もうけできる、か?」
「…ッ!」
「君だって気づいているんだろう?連中の本当の狙いは…」
「それでも!あなたにこんなことを続けて欲しくないのよ!」
おびただしい数の死体。
そして人間の魂を燃料に動く機械。
誰の魂で?
分かりきっている。
その魂はみんな…あのズタズタに刻まれた人間の中身だった物だ。
あんな悪魔の所業を許すわけには…
いや、それは違う。
そんな正義感はただの建前。
私は、健太郎が…最愛の人が汚れていく事に耐えられないだけ。
この人がどこか遠くへ行ってしまうのが怖いだけだ。
ならばいっそ…!
引き金に指をかける。
この距離ならはずさない自信があった。
弾は二発で足りるだろう。
健太郎と、私に一発づつ
あなたが汚れてしまう前に…
- 「健太郎、最後だから言うね…私…」
「美夏。」
「…なによ?」
「俺はこの技術を生み出した者としての義務がある。まだ法規制もできていない今、君のお仲間みたいなハイエナどもに魔法を渡すわけには行かないんだよ。」
「…」
「だから、美夏。寂しいけど、お別れだ。」
「なッ!?」
全く予備動作が無かった。
バネ仕掛けのように跳ね上がった右手から青白い光が放たれる。
一直線に伸びたそれは私の額を照らし…
「きゃあああああああ!?」
「忘却の魔法だ。もう俺の事は忘れてくれ…もうこんな事には関わるな。」
消えていく
消えていく
消えていく
消えていく
健太郎の顔が、健太郎の声が、健太郎の言葉が、健太郎の記憶が
「あ…あぐ…ぁ…」
「美夏、君とすごした時間…すごく楽しかったよ。」
いや!
やめて!
それに触らないで!
私の健太郎に触らないで!
「やめ…や、めてぇ…」
「もうお休み。目が覚めたら…全て終わっているから。」
やだやだやだ!
思い出がなくなっちゃう!
私と健太郎の思い出が!
大好きな健太郎との思い出が!
『大きくなったらボクのお嫁さんに…』
やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!
それだけは!それだけはゆるして!
わたしの宝物なの!
おねがいだから!
もうしないから!
ケンちゃん!ケンちゃん!ケンちゃん!
それこわしちゃやだぁぁぁぁぁ!
- 「いやああああああーーーーーーッ!」
「ぐぁッ!?」
「はッ…はーッ…はーッ…」
どうしよう、ケンちゃんに嫌われちゃった…
「つッ…み、美夏!大丈夫か?」
「う…うぇ…ぐす…うぇぇぇぇぇ…」
「どうした!?どこか打…何やってるんだ!!」
もうダメ
ケンちゃんにきらわれちゃった
死にたい
「も…イヤ…死…だ……が…」
ちょうどてのなかにピストルがあった
つかいかたは知ってる
あたまにあてて、ひきがねを
「やめろバカッ!」
「きゃ!?」
ぶたれた
やっぱりきらわれちゃったんだ
もう生きていけない…
「何やってるんだよ…」
「だって…ケンちゃん、ミカのこと…き、嫌いに…うわぁぁぁん」
「嫌いになんかなってない!俺は美夏を嫌ったりしないよ。だから…そんな物下ろせ。」
え?
嫌われてない?
ケンちゃん、ミカのことキライじゃないの?
「本当…?」
「ああ、誓って。」
「じゃあ…約束…」
約束、まもってくれる?
私のこと、お嫁さんにしてくれる?
ねえ、健太郎
「約束?」
「うん…あのね、ミカのこと…ミカのこと…」
- お嫁さんにしてください
そんなこと言えない。
言えるはずが無い。
だって私は、健太郎に銃を…
彼を…殺そうと…
ぅぅぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!
「あ…あー…あー…」
「お、おい!しっかりしろ!美夏!たのむよ、おい!」
どうしようどうしようどうしようどうしよう!
すてられちゃう!
ケンちゃんにすてられちゃう!
そんなのヤだぁ…
やだ…
やだ…そうだ!
「あ、あのねケンちゃん!ミカね!」
「ああ…なんだ?」
「ケンちゃんのペットになりたいの!」
ペットだって家族だもん
お嫁さんが無理ならペットになればいいんだ!
ペットだって死ぬまでいっしょにいられるもんね!
あはははははっ、頭いいなあ私。
ねっ健太郎?
「何を言ってるんだ美夏!おい、しっかりしろよ!」
「…ダメ?」
「ダメも何もペットってお前…」
「…そう。やっぱり私…捨てられちゃうんだ…健太郎に嫌われて…捨て…ぅぇ…」
ピストルはとられちゃった
そうだ床があるじゃない
いっぱいぶつければそのうち死ねるよね
すごくいたいけど
ケンちゃんにすてられるよりは…
「ま、待った待った!分かったよ!ペットにでも何でもしてやるから!」
「ほんと?」
「ああ、本当だ。」
「ほんとにほんと?ミカのこと死ぬまで飼ってくれる?」
「う…わ、分かった!ミカの気が済むまで俺が飼い主だ。だからもう止めてくれ…」
「わぁい!ケンちゃん大好き!」
やったやった!
何でも言ってみるものね!
健太郎が手を引いて立たせてくれた。
ああ、あったかい手。
もう何があっても離さない…絶対に
- 「健太郎。」
「…!正気に戻ったのか!?」
「首輪つけて。」
「…は?」
「首輪。」
実験動物用の大きな首輪を取り出して、首に巻いてくれた。
これが健太郎と私の絆。
お嫁さんにはなれないけど、私は十分だよ。
だって、これでもう殺しあったりしなくてすむもの。
「ねえ、健太郎。」
「なんだ?」
「呼んでみただけー」
「な、なんだよそれ!」
「えへへ、健太郎!けーんたろぉっ!あっはははっ。」
「…すまない、美夏。おれがあんな物を使わなければ…」
「んー?なんで謝るの?」
「自分では気づいてないかも知れないけど、お前は今おかしくなってるんだよ。俺のせいで…」
おかしくないわよ!
むしろ前がおかしかったの!
健太郎に銃を向けるなんて…ああもう、さっきまでの私をひっぱたいてやりたい!
よりによって健太郎を殺そうとするなんて!
気でも違ってたんじゃないかしら。
「謝るのは私のほうよ。ごめんね健太郎、あんな物向けたりして…驚いたでしょう?」
「いや、もういいんだ…君の言うとおりかもしれない。魔法は俺の手には余る技術なのかも…」
「そうそう魔法!すごいよねえ健太郎って。本当に魔法使いになっちゃうんだもん!」
「え?あ、ああ…うん…まあな。」
「ね、覚えてる?ちっちゃいころさ、健太郎ってば私のこと魔法の馬車で…」
むかえに来る。
私をお嫁さんにするために。
でも、お嫁さんにはなれない。
なれない
- 「魔法の馬車?あー…ええと、いつの話だっけ?」
「…お…よめ…あたし…およめさ…ぁぅ…ぁ…」
「あー、思い出せそうで思い出せない!…美夏?おい、美夏ッ!」
「およめ、さん…イヤ…だめ…ダメ…」
あたしはペットでいい
でも
ケンちゃんに本当のお嫁さんができたら…?
きっとあたしは捨てられちゃう
およめさんとペットの違いって何?
どうすればいいの?
どうすればケンちゃんはミカで満足してくれるの?
一緒にくらして
いっぱいおはなしして
それから、それから…
「えっち」
「…え?」
「えっち、したい…」
そうだ
お嫁さんはえっちして赤ちゃん作れるんだ
じゃあ、あたしもそうすればいい
ケンちゃんがお嫁さんをもらわなくていいように
ミカがしちゃえばいいんだ!
「ケンちゃん…チューしよ!」
「美夏…」
「むー…ちゅっ!えへへへー」
「ごめん…ごめんな美夏…俺ちゃんと責任とるからな。」
「んん?」
「ちゃんと美夏のこと元に戻すよ。そしたらこの研究は止める。」
「えー、もったいない!」
健太郎が弱気になってる
こういう時リードしてあげるのも女のたしなみよね!
「ケンちゃん?しよ!」
「…ああ。」
健太郎が抱っこしてくれた
あったかい
「…脱がせるよ。」
「うん、ケンちゃんも脱がしたげるね」
ああ、裸にされてる…
大好きな健太郎に抱かれるために…
私も健太郎を裸にしてあげる
わあ、お肌キレイ
でも私だってお肌は自信あるもん
スリスリしちゃえ
- 「ん、んっ…ケンひゃぁん…むちゅ…じゅぶ…」
チューされちゃった
へへ、おいしい
ケンちゃんおいしい
「美夏…こっちに。」
「うん」
「かわいいよ…」
「ケンちゃんも」
「…」
「…」
「…」
「ねえ」
ああ、最後の決心がつかないのね
まったく情けない男!
これは一生私が面倒見てあげるしかないわね!
結婚なんかしてる場合じゃないわよ、健太郎?
「繋がりたい。」
「…ああ。」
「ケンちゃん…」
「…」
「…入れて?」
「ああ、分かったよ!」
ヤケクソ?
いきなり大声出すからビックリしちゃったわ。
健太郎の手が私の足にかかる。
健太郎の目が私の中を覗き込んでる。
健太郎が私を欲しがってくれてる。
ああ、幸せ
見られてるだけでこんなに幸せなのに、一つになったら…
私どうなっちゃうんだろう?
狂っちゃうのかな?
楽しみぃ
「入れるよ、美夏。」
「うん…ッ!」
きた!
ケンちゃんが!
あああケンちゃんがあああああ!
ひろげられてるよぉぉぉぉぉ!
おなかがぁぁぁぁ!ミカのおなかがああああ!
ケンちゃんのモノにされちゃったよおおお!
うああああああ!
イタい!イタい!おまたイタいぃぃッ!
- 「あぎぃ!?い、イタい…」
「美夏、これがセックスだ。お前が思ってるようないい物じゃ…」
「う、れし…」
「…美夏…!」
ああああああ!しってるよコレぇ!
ショジョマクっていうんでしょ?
いまブチブチいってるの!
ケンちゃんがやぶいてるの!
やった!
ケンちゃんにうばわれた!
ミカのはじめて!ケンちゃんにうばわれたぁ!
うれしいぃぃぃ!
うあああああーーーー!!!しあわせだよおおおおおお!!!!!!
「ケン、ちゃん…ケンちゃん…あぐ…あっ…ケンちゃん…」
「最後まで…するか?」
「う、うんっ!もっとして!イタいのいっぱいして!」
「わかった。もう少しだけな。」
「あッ、あッ、あッ、あ…ああああ!」
イタぁ〜いぃぃ!
イタいのってこんなにうれしいことだったんだぁ!
こまるよぅ…
ミカ…イタいの大好きになっちゃうよぉぉぉぉ!
あぎゃ!
う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!
そこ!きず!
イタいとこぉぉぉぉ!
うわああああ!!もっとおおおおおおおおお!!!
もっとブチブチしてッ!!!
こ、殺してぇええええええええええっ!
ケンちゃん!ミカのことコロして!コロして!コロしてぇぇぇぇっ!
ケヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ
- 「はがッ!あー!あぁぁぁーッ!」
「…ッ…だ、出すよ美夏!」
「だ、す…?」
せーし?
ミカにせーしだしてくれるの?
ミカのおなかに?
ケンちゃんのせーし、だしてくれるの!?
わぁぁ、夢みたぁい…
「う…ッ!」
「ああああああああああああ!!!!」
急激に意識が覚醒する。
気持ちよさそうな健太郎の顔が見えた。
私の中で射精するのがそんなに気持ちよかったんだ。
うれしい。
彼の顔を見ているだけで、他の事なんてどうでもよくなってしまう。
こんな、かけがえの無い物を自分の手で壊そうとしていたなんて…本当に私は馬鹿だった。
何のためにそんなことしたんだっけ?
「…健太郎。」
「ふぅ…なんだ、美夏?」
「邪魔者の情報…教えるわ。」
家族、友人、同僚…私に健太郎を傷つけさせた奴ら。
許さない。
健太郎は優しいから、私が黙っていればきっと彼らを見逃してしまうだろう。
でも私は許さない。
みんな壊れればいいんだ。
ケンちゃんをイジめる奴はみんな死んじゃえばいいんだ!
「美夏…?邪魔者って」
「あなたの研究を掠め取ろうとする奴らよ。まあ、数が多いだけの烏合の衆だわ。」
「と、突然どうしたんだ?いや、助かるけど…」
「だって、ケンちゃんを悪魔って言ったんだよ?死んで当然だよ、あんな奴ら!ううん、私がこの手で殺してやる!」
「…美夏、おまえ…本気で言ってるのか?」
「私気づいたの!正しいのはあなたの方。怖がるあいつらの方こそおかしいんだって!そんなおかしいモノはこの世に有っちゃいけないのよ!」
- ホント、バカみたい!
バッカみたい!
こんな当たり前の事に気づかなかったなんて…
きっと、下らないモノのために脳ミソ使ってたせいだよね。
ケンちゃんの魔法でぜんぶ消してもらおう。
ケンちゃんのことしか考えられない、ケンちゃんだけのペットにしてもらおう!
そのアトは、みんなホントウにコロしちゃおう!
ヒャはハはははハはは!
ああ、タノしみだなぁ…
ケンちゃんと、ミカだけのセカイ…
そウナったらマイにちミカのカラダ、つカってモらエるノかな…
キッとシぬホどしあワせなんだロうなァ!
ホントウニ タノシミ ダヨ