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【暮らし】

広がるアルコール依存症(上) 定年後の発症が増加

2009年9月23日

 アルコール依存症は治療が必要な病だ。自覚のないまま、自分の健康だけでなく、家庭や人間関係を壊しかねない。最近、人生経験の豊かなシニアが、定年後に陥ることが増えている。 (飯田克志)

 「やることが本当になくて、昼間から飲むようになった」

 六十二歳で会社を定年退職した後、依存症になった東京都内の男性(67)はこう振り返る。

 技術者で、若いころは忙しく平日は寝酒ぐらい。四十代以降は、平日も晩酌をするようなったが、酒で仕事に穴をあけたことはなかった。退職したころ、仕事以外で楽しみだった区民農園も抽選で外れ、若いころやったボウリングも費用を考えると足が向かなかった。

 飲みだすのが朝になった。「常に飲める状態にしていた。おいしいなんてのは関係ない。酔えばよかった」。トイレに間に合わず、漏らしたことも。依存症は言葉として知っていたが、自分がそうだと考ることはなく、妻に連れられ訪れた病院で「医者に言われ、ガーンとなった」。

 アルコール依存症は薬物依存症のひとつで、飲酒を自分でコントロールできなくなる病。断酒などの継続的な治療が必要だ。男性も現在はほぼ毎夜、断酒会に参加。酒を断って四年が過ぎた。

 「入院患者で、六十歳以上で依存症になったと考えられる高齢者の割合がずいぶん増えている」

 国立病院機構久里浜アルコール症センター(神奈川県横須賀市)の松下幸生・精神科診療部長は現状を憂慮する。同依存症患者でつくる全日本断酒連盟(東京)の会員調査でも、入会時に六十歳以上だった会員比率は、二〇〇一年度の14・5%から、本年度は20・9%に増えた。

 なぜ、定年後に依存症になるのか。

 松下部長は「定年による大きなライフスタイルの変化が発症の大きな要因になっている」と話す。例えば▽仕事が趣味だったため時間を持て余す▽配偶者との死別▽稼ぎ手でなくなったことによる家庭内での立場の変化−など。こうした空虚感やストレスを、昼間からの飲酒で紛らわすうちに、依存症になっていく。

 定年前に飲酒していなかった人が依存症になることは少ないが、現在の五、六十代は就職したころから「飲みニケーション」で過ごした世代。飲酒は習慣化していて、依存症になりうる下地ができている。

 飲酒で問題が出ても、松下部長は「本人はなかなか酒の問題を認めたくない。家族も一生懸命働いてきたからと大目にみてしまう」と放置しやすい事情を指摘する。

 さらに、高齢になるほど体内水分は減り、アルコールの血中濃度は高くなり、脳などがダメージを受けやすくなる。松下部長は「中高年になると酒に弱くなり、酒量も減るのが自然なので、若い頃(ころ)と同じ酒量は飲みすぎになる」と苦言を呈する。

 松下部長は、予防には週二日以上の休肝日に加え、年最低一回の健診受診を勧める。「自分で飲酒量を記録することで、問題を認識する足掛かりになる」と飲酒日記も勧める。定年前からの生きがいづくりも大切だ。 =次回は三十日掲載

 

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