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社説

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鳩山外交始動―大きな絵柄で課題動かせ

 鳩山新政権の、米国を舞台にした一連の外交が幕を開けた。ニューヨークに到着した鳩山由紀夫首相がまず会ったのは、中国の胡錦濤国家主席だ。

 日中関係は小泉政権時代、首相の靖国神社参拝などで極端に悪化した。安倍政権以降、正常化への歯車が回り出したが、日本側の政権の不安定さが重荷のひとつになってきた。

 この首相はいつまで続くのか。取引する相手としてふさわしいのか。そんな疑問を中国側が抱いたとしても不思議はない。自民党政権の行き詰まりが外交力に影を落とす。東シナ海のガス田共同開発をめぐる条約づくりが進まないのはその典型例ではないか。

 そういう思いもあってのことだろう、会談で鳩山首相は自らの政治理念である「友愛」を説明しつつ、両国の信頼関係構築への意欲を強調した。将来の東アジア共同体構想にも触れ、長期的な視点で取り組む姿勢を伝えた。

 胡主席は「首相の任期中に、中日関係はより活発な成長を示すことを信じる」と応じた。腰をすえてつきあっていこうとの構えを示したものだろう。

 首相は、両国の戦略的互恵関係や対北朝鮮での協力といった、前政権までに敷かれた基本路線を確認した。土台は自民党政権時代と変わらない。だが、その上にもっと大きな絵を描いていこう。そんな思いを込めたメッセージだったに違いない。

 日米同盟関係を基軸としつつも、日本をめぐるこの地域の地政学が今後、大きく変容していくことは間違いない。利害の衝突をどう抑え、調整していくか。外交経験の乏しい新政権が果たして大国中国を相手に渡り合っていけるのか、不安がないわけではない。東シナ海の資源問題ひとつをとってみても、大変な外交力がいる。

 であればこそ、長期的な構想や地域連携の強化の中に日中関係を位置づけるという首相の発想は評価したい。より大きな文脈の中で解決を見いだしていく姿勢を建設的に機能させたい。

 一方、岡田克也外相はクリントン米国務長官と会い、対米外交の一歩を踏み出した。政権発足100日までの重点課題の一つとして、沖縄の米軍基地再編の見直しも含む日米同盟の問題をあげ、協力を促した。

 長官は、これまでの合意を基本としながらも、議論に応じる姿勢を示したという。外交でも政権公約を大原則として取り組む。すべてはこれからの交渉にかかるが、新政権の意欲は米側に伝わったのではないか。

 これから鳩山首相にはオバマ米大統領らとの会談やG20金融サミットなどが待っている。戦後日本で初めての本格的な政権交代を成し遂げて、注目を集める首相だ。日本の外交は変わったのだということを、各国首脳に実感させるような発信を期待したい。

地方分権―住民主役の豊かな社会を

 中国山地の山あい、島根県雲南市大東町の海潮(うしお)地区に「うしおっ子ランド」がある。市立幼稚園が終わったあとの午後2時から6時まで、3歳から5歳までの子どもが、折り紙をしたり絵本を見たりして過ごす。3年前、住民自身の手で始まった。

 海潮地区は約500世帯で人口約2千人。農林業中心の中山間地だが、県庁のある松江市まで車で30分で通うことができ、共働き世帯も多い。

 幼稚園を改築するときに保育所の併設を市役所に要望したが、「幼保一元化は無理」と断られた。そこで住民組織「海潮地区振興会」が、新しい幼稚園の一室を市から借り、会で雇った保育士とボランティアで子どもの面倒をみることにした。

 振興会は40年以上の歴史がある。各戸が年間7500円の会費を出し、小中学校や自治会、JA、消防、郵便局など地域の団体トップも加わる。

 「うしおっ子ランド」の運営には、利用料のほか振興会費の一部と市の補助金をあてる。地域で子育てを支え合う、自治の原点ともいえる仕組みだ。

 地域活動の担い手として雲南市が設けた「地域マネジャー」で、振興会副会長を兼ねる加本恂二(しんじ)さんは「まず自分たちで汗をかき、できないことを行政にお願いする」と意義を説明する。

 5年前、海潮地区がある旧大東町など6町村が合併した雲南市では、こんな住民組織が44カ所に広がった。

 住民が何でもかんでも行政に依存しようとするのではなく、自助、共助、公助の組み合わせがこれからの地域づくりには欠かせない。

 とはいえ住民には手の施しようがない問題も多い。少子高齢化や農地、森林、里山の荒廃といった大きな現実だ。さらに、いかに若者の流出を防ぐのか。独り暮らしの高齢者を支えていく仕組みは築けるのか。地域をめぐる難問の回答は容易には見つからない。

 「地域主権」は民主党の政権公約である。原口一博総務相は、自治体への補助金を11年度から一括交付金に改めることや、国と地方の協議の場の法制化を進める方針を示した。保育所の設置基準が自治体に任されれば「幼保一元化」も実現できるに違いない。

 しかし、それだけで疲弊しきった地方経済や農林業が元気になるわけではない。そもそも分権が進んだときの地域の暮らしの姿はまだ見えてこない。

 あるいは住民には、分権論議が中央省庁と自治体との単なる権限争いとしか映ってこなかったのではないか。

 分権の最終目標は霞が関の解体ではなく、豊かな地域社会をつくり上げることだ。どうやって傷んだ地域を立て直すのか。鳩山政権は具体的な道筋を早急に示し、実行してほしい。

 住民が主役となる本来の自治を築きあげることも、そこから始まる。

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