きょうの社説 2009年9月23日

◎マクベス公演 「能登限定」の手法生かしたい
 七尾市中島町の能登演劇堂で始まった無名塾のロングラン公演「マクベス」は、演劇フ ァンの注目度の高い舞台が、能登でしか見ることができないところに意味がある。

 今回は、能登そのものの観光地としての魅力も手伝って、県内外からチケット予約が相 次ぎ、11月15日までの50公演は売り切れとなっている。演劇や音楽の大型公演といえば、全国各地の拠点都市を回るのが通例だが、能登限定のマクベス公演は、内容が上質で話題性があれば、大都市圏を巡回しなくても、地方の舞台へ全国のファンの足を向かわせる力があることを示したと言えよう。

 ここに至るまでには、無名塾を率いる仲代達矢さんと、旧中島町を中心とする能登の人 たちの地道な交流があり、そこから厚い信頼関係が生まれたことも大きい。

 今回は、屋外舞台で能登の自然を実感できる行軍シーンを取り入れ、地元のエキストラ も多数参加するなど、仲代さんの能登に対する並々ならぬ愛着があふれており、演じ手と地域が呼応した舞台という点でも特筆できる。

 公演に合わせて、七尾市の青柏祭の呼び物の「でか山」にマクベスにちなむ飾りが登場 し、演劇堂の地元商店街も期間中の集客を図るため、統一感のある景観づくりに乗り出した。マクベスが、にぎわい創出の面からも地元を刺激したことになるが、今後は行政もさらに支援し、「演劇のまち」を発信する地域限定公演を企画していきたい。

 「限定」という意味では、富山県黒部市でも今春、過去40年間で一度しか上映されな かった映画「黒部の太陽」の完全ノーカット版が披露され、定員2500人のところへ全国から4万人近い鑑賞希望が寄せられた。テレビドラマ化された影響もあったのだろうが、映画の舞台での希少映像の上映企画が、地域を超えたファンの誘致につながった。こうした追い風を受けて、地元の魅力を発信するする動きも出てきている。

 これらの手法を参考に、地域レベルで「限定」を武器にした振興策を練り上げ、地域が 文化の送り手としての主体性を持ち、一期一会の縁を創り出していきたい。

◎国と地方の協議機関 法制化待たずに始動を
 鳩山政権のスローガンである「地域主権」に沿い、国と地方の在り方にかかわる政策変 更も矢継ぎ早に打ち出されている。民主党はマニフェスト(政権公約)で国と地方の協議機関の法制化を掲げたが、今年度補正予算の見直しなどは地方に大きな影響が及ぶ緊急の課題であり、法成立を待っていては手遅れになりかねない。政策や予算の司令塔となる国家戦略室(国家戦略局の前身)や行政刷新会議の始動に合わせ、地方の声を確実に反映させる仕組みづくりも急務である。

 国と地方の協議機関は、地方の意見を国政に生かす正式な場として、全国知事会など地 方6団体がかねて設置を求めてきた。法的な裏付けがあれば協議結果は政策により反映されやすくなる。国と地方の対等な関係を確立するうえでも必要な仕組みである。

 だが、組織の形態やメンバーなどは白紙の状態で、国家戦略局や行政刷新会議との関係 もはっきりしていない。まず制度設計の段階から地方が参加する必要がある。

 原口一博総務相は会見で、国出先機関の原則廃止や国直轄事業の地方負担金廃止、さら には国からの「ひも付き補助金」をやめ、使い道が自由な一括交付金にすることなどを明言した。自公政権では前進しなかった難しいテーマばかりである。地方からは歓迎の声が挙がる一方、三位一体改革で財源を減らされた苦い経験から拙速なやり方にクギを刺す指摘もある。

 中央省庁の抵抗は根強く、改革が一気に動き出すとは思えない。「政治主導」が結果的 に「中央主導」になれば、地方に新たなしわ寄せが及ぶ恐れもある。「地域主権」を地方のペースで進めるためにも協議機関の役割は極めて重要である。

 正式な協議機関ができれば、地方からの政策提言はより重みを増すことになる。全国知 事会にしても、消費税増税につながる地方消費税の拡充や道州制などでは意見が分かれ、個別の政策テーマでは決して一枚岩とは言い難い。個人の思いを超え、地方全体の利益になる政策をしっかり打ち出してほしい。