【北京・西岡省二】毎日新聞は、北朝鮮が金正日(キム・ジョンイル)総書記の三男正雲(ジョンウン)氏を後継とするための体制固めを進めていることを示す北朝鮮当局の内部文書を複数入手した。正雲氏を後継者と位置づける動きは、これまで関係者の証言や情勢分析を基に伝えられていたが、北朝鮮の公式文書で裏付けられたのは初めて。正雲氏を神聖化する作業を急ピッチで進めている様子が具体的に書かれており、4月のミサイル発射(北朝鮮は「人工衛星」打ち上げと主張)でも、正雲氏が重要な役割を果たしていたとしている。
文書は、北朝鮮の国防省に相当する「人民武力省」や秘密警察「国家安全保衛部」などで使われているとされる「尊敬する金正雲大将同志の偉大性教養資料」など3種類。国家幹部たちが正雲氏の「ほめたたえ方」を学ぶための「教科書」に当たるとみられる。
作成日は明記されていないが、5月1日のメーデー慶祝祝砲夜会(花火大会)を「正雲氏が構想し、成功裏に開かれた」との記述があり、その後に作られたと推測される。
「教養資料」は「正雲氏の偉大性について」「継承問題がなぜ革命の最も重大事なのか」など5項目で構成。「命題解説」の項目に、金総書記の「金正雲大将は軍事的眼目が広く、実力が非常に高い」という発言が紹介され、これに対する解釈として「尊敬する金正雲大将同志は……我が軍隊と人民をお導きになる唯一無二の後継者」と明記されている。
また、正雲氏を「だれもが一度会ってみれば、魅惑されるお方だ」「天才的英知と知略をお持ちの軍事の英才」「容貌(ようぼう)や風貌が偉大なる将軍様(金総書記)とこれほどそっくりとは……」と最大限の表現で称賛している。
4月のミサイル発射に日米などで迎撃論が高まった際、正雲氏が「逆襲の司令官」として空軍を指揮し、金総書記が「(敵国は)金大将の逆襲で大変なことになるだけだ」と笑ったと記している。
一方、国家安全保衛部などがまとめたとみられる別の文書では「一日も早く金大将同志を、敬愛する将軍様の後継者として推戴(すいたい)し、将軍様のご苦労を軽くできれば良い」と記し、後継作業を迅速に進めるよう求めている。
毎日新聞 2009年9月8日 15時00分(最終更新 9月8日 15時00分)