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●危機的な海外の日本語教育、国は戦略的対応を[2007年02月09日(金)]

『朝日新聞』2006.9.16掲載(「日本語熱 海外普及に戦略的対応を」)

 去る8月半ばに里帰りで中国延辺朝鮮族自治州の延吉を訪れた。かつて日本留学した延辺大学教授から「延辺の日本語教育がとっても危機的状況にあるので何とかしたい。ご協力してほしい」との話を聞いて、同行の日本人研究者数人とともに延吉市教育局を訪ねた。局長の説明によると、延吉市に中学校10カ所あるが、外国語として今はほとんどが英語を選択し日本語は疎外されるという。当局はこのような状況は学生にとって不利であると見て、さまざまな宣伝をして日本語を選択する学生を1クラスでも確保しようと懸命に努力したが、応募する人はわずか十数人だったので、やむを得ず日本語クラスを放棄したという。翌日、隣の龍井市の教育局長も駆けつけて同様な状況を説明し、何とかして日本側の協力をお願いしたいと申し出た。
 1990年代半ばまでは、延辺の中学校や高校の第1外国語は9割以上が日本語であったことを考えると寂し過ぎる話である。当局者の話によると、朝鮮族が日本語を選択した場合、英語を選択した学生より大学受験で平均20ポイントの高得点が可能で、それ故に朝鮮族の大学入学率は中国でトップ・レベル。これは日本語が文法的に朝鮮語に近く、さらに中国語(漢語)も必須であるため漢字のメリットも享受できるからである。朝鮮語と中国語に加えて日本語まで駆使すると、東アジアの15億人と言語を切り替えながら交流できるのが朝鮮族の絶対的な競争優位である。中国に進出した日本企業でも朝鮮族は高給取りという。5万人を数える朝鮮族の若者が留学や就職で日本にも来ているのも日本語を身につけているからに他ならない。
にもかかわらず、日本語離れ現象が起きるのはなぜか。考えられる原因は、グローバル化の影響で英語が世界共通語という認識が朝鮮族のなかでも広がっていることと、日本国力の相対的な弱体化だろうと推察する。これはあくまでも抽象的な認識に過ぎず、現実的に日本は未だに世界第2の経済大国であり、東アジア経済のなかで日本の存在力は絶大なものである。「花より団子」という諺があるように、実利の面からすると日本語を選択して高い入学率を確保するのは得策なはずである。英語力が弱くて苦労している朝鮮族も多いようだが、大学入学してからそれを補う事例はいくらでもある。また、英語を優先して習った人たちも、現実的に日本語人材の需要が大きいため、改めて日本語の勉強をする事例も多い。
 中国国内の一角で起きている日本語離れ現象は、日本にとっては他人事ではあるまい。日本語ができる外国人の人材は日本国力の延長線であり貴重な資源であるのみならず、もっとも国際社会と共に生き、存在感を高めるための架け橋なのである。政府のみならず財界も協力して戦略的に対応し、海外の日本語教育支援を強化すべきである。そこでは中国の経験に学ぶべき点が多い。中国語の普及と文化伝播のために政府が支援して海外で「孔子学院」を続々と立ち上げる。日本は世紀のプロジェクトとして「東洋学院」計画でも推進したらどうだ。

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コメント

日本語を勉強するものが減るのは、本当に寂しいですね。

Posted by:アトム  at 2007年02月09日(金) 08:37

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