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飯田哲也のエネルギー・フロネシスを求めて

グリーン・ニューディール――オバマ次期米大統領が担う大変革への期待(08/11/12)

米フロリダ州ウエストパームビーチの集会で民主党のオバマ氏への支持を訴えるゴア前副大統領夫妻=10月31日〔AP Photo〕

米フロリダ州ウエストパームビーチの集会で民主党のオバマ氏への支持を訴えるゴア前副大統領夫妻=10月31日〔AP Photo〕

■「新アポロ計画」

 「ブラック・ケネディ」とも呼ばれるオバマは、たんに同じ民主党の若きリーダー像が重なるだけでなく、勝利演説に見られるとおり、理想と理念に裏付けられた新しいビジョンを提示し、国民を鼓舞する「言葉」の力を持っている。そのケネディにちなんで、オバマが期待されているのが、「新アポロ計画」である。

 「これから10年で人類を月に送る」。1961年にケネディがぶち上げたアポロ計画の結果、確かに1969年7月20日、アポロ11号は月面に着陸した。同じように、ブラック・ケネディにこれから10年間のグリーンエネルギー変革を期待するグループがある。発起者は、サンフランシスコに本拠のある「アポロ同盟」である。「クリーンエネルギー経済」に今後10年で500億ドルを投資して、500万人の「グリーンカラー雇用」を生み出すというもので、民主党関係者も多く、オバマの環境エネルギー政策にも重なって見える。極めつけは、「今後10年でアメリカの電力を自然エネルギー100%に転換しよう」という、今年7月21日のアル・ゴアの「リパワー・アメリカ」の呼びかけだ。ゴアは、当選後のオバマにも、さっそくこの「10年で100%」を目標とするよう提案している。

 オバマ自身は、大統領選向けに「New Energy for America」というエネルギー政策を発表している。クリーンエネルギーに今後10年で1500億ドル(約15兆円)を投資して500万人の雇用を生み、輸入石油を減らし、2015年までに100万台のプラグイン・ハイブリッド車を走らせ、自然エネルギー電力を2012年までに10%、2025年までに25%を達成し、温室効果ガスを2050年までに1990年比で80%削減する、というものだ。数字は異なるが、内容は「新アポロ計画」にほぼ重なって見える。

 勝利演説でも「Yes, we can !」のフレーズで月面着陸に触れたオバマは、アメリカの成功物語に裏付けられた「新アポロ計画」が期待されていること、また自身もそれを意識していることは間違いない。

■『グリーン・ニューディール』にシンクロする世界

 オバマへの期待を一気に押し上げたのは、アメリカ発で未だに進行中の金融崩壊であろう。世界全体の株式市場は3000兆円を失い、急速かつ大規模な信用収縮がグローバルに進行する中で、実体経済の縮みも始まっている。誰もが1929年の大恐慌を思い出し、今後の世界経済の展開を不安な思いで眺めながらも、同時に、ルーズベルト大統領(当時)が行ったニューディール政策を世界中の人が思い出している状況だった。

 そうした中で、「グリーン・ニューディール」の登場は、必然でもあった。オリジナルは、英国を中心とする「グリーンニューディール・グループ」が今年7月に発行したレポートである。このレポートは、市場原理主義や無限成長を前提とする資本主義とは異なる、持続可能で公正な経済社会のあり方を求める「ニュー・エコノミック財団」(NEF)が事務方として取りまとめたもので、金融・気候・エネルギーという「3つの危機」(Triple crunch)に対して、新エネルギーを中心とした「グリーン・ニューディール」を求めたものだ。

 その後、気候変動やエネルギー危機に対処するだけでなくグローバル経済を引き上げるために国際エネルギー機関(IEA)も、今後2050年までの温室効果ガス半減に向けて、45兆ドル(約4500兆円)もの、空前の規模の投資を行う「グローバル革命」を求めたのに応えて、ブラウン英首相やサルコジ仏大統領もこれに賛同した。10月には国連(UNEP)が「グリーン経済イニシアティブ」というレポートを出し、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長がこれを引いて、「グローバル・グリーン・ニューディール」(GGND)を米国の新大統領に期待する考えを表明した。オバマの勝利を受けて、シュタインマイヤー・ドイツ外相も、オバマに「ニュー・グリーン・ディール」を求める期待を表明している。

 こうして、世界で3つの危機が進行するにつれて、「グリーン・ニューディール」を求める声が澎湃(ほうはい)と沸き上がり、オバマがグローバルな政治舞台に登場するタイミングと重なって、オバマへの大きな期待にシンクロしているのだ。

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