第5話[怖いものは人それぞれ」
「……ん」
ゆっくり目を開けると少し眩しい光が射しこみ、意識と同時にさっきまでの記憶が蘇る。
廃病院の調査を依頼され、双葉と周り、それから…。
(俺どうしたんだ…)
ゆっくり横を見ると紅く染まった瓦礫が頭の後ろにあった。夥しい量の血は地面まで赤く染めていた。
―なんでこんな真っ赤?
(ああ、そっか。落ちたんだっけか)
すると動かしそうとした身体に激痛が走る。その痛みで直前の出来事をようやく思い出した。
頭の打ちどころが悪かったのか身体が思うように動かない。それどころか半端でない量の出血をしているのに痛みすら感じない。
(…俺まさか…)
「兄者っ!」
声がする。
自分を呼ぶ声。 おぼろげな視界の中に崩れる瓦礫の上を登って急いでこっちに向かってくる双葉がいた。
「兄者!兄者!しっかりしろ!!返事を…いや、しなくていい。動くな」
(双葉…。お前…なんでそんなビビってんだ。……駄目だ。まぶたが重てェ…)
また頭がぼんやりしてきた。眼の前にいる双葉の声に答えたいができそうにない。
自分の意思とは反対に重たいまぶたが目を覆っていく。銀時の目が閉じていくほど双葉の不安は膨らんでいく。
そして―
「………」
銀時は動かなくなった。
「やだ…いやだ…。兄者…。兄者ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
双葉の悲痛な叫びに応えるものは誰もいなかった。
=終=
「?」
手のひらにべっとりとついた赤い液体に違和感を感じ双葉は指でなぞってみた。
血にしては少し粘着がある。いや、血というよりこれは…
「絵の具?」
「…うぇ」
その一言で途端に目が覚めまぶたがパッチリ開いた。確かに血の独特な臭いもしない。
なら、なぜこんな所に絵の具が?
「うわぁ、派手に崩れたな〜」
「あの〜大丈夫ですか?」
さっきの血まみれの少女と男の子が心配そうに上から銀時と双葉を見下ろしていた。
それから子供たちは謝りながら事情を話してくれた。どうやら一連の怪現象はこの子たちの仕業だった様だ。
「つまりオメーらはこの爺さんのために脅かしてたんだな」
廃病院のある角部屋はきれいに掃除され、明るい照明と生活に困らない程度の家具が並んでいた。そこには銀時と双葉以外に数人の子供と坊主頭の老人が座っていた。
ホームレスでこの廃病院に住んでいたが普段から優しい老人で子供たちはこの人のため幽霊話をデッチ上げていたという。
「うん。若いカップルが遊び半分でココに来てお爺さん怖がらせるから」
「実際効果はテキメンじゃったよ。カップルは殆ど来なくなったからの」 「へっ!だと思ったぜ。俺最初からわかってたよ。幽霊じゃないって。騒いでたの、アレ、盛り上げてただけだから」
銀時の白々しい言い訳に、もはや双葉は冷めた視線を横目で送るだけだった。
「あの〜ココのことなんだけど…」
「安心しろ。適当に誤魔化してココには立ち入らないようにしておく」
上目遣いの男の子に双葉の態度は無愛想だったが、その返事に子供たちと老人は嬉しそうに顔を見合わせた。
「けどバアさんだけで神楽帰しちまうたァ、お前らガキのくせに手ェこんでんな。マネキンでも立ててたのか」
銀時のその言葉に子供たちは首を傾げ、互いに顔を見るが頷く者はいない。
「お婆さん…知ってる?」
「ううん。お婆さんなんて知らないよ」 「へ?」 「ああ。あのお婆さん今日も出たんじゃな」
その一言に双葉以外の全員が硬直し、視線は老人に集中した。
この先はとても嫌な予感がするという銀時の不安をよそに老人の話は続く。
「いやね、十年前の大火事に巻き込まれたお婆さんが今もこの病院を歩き回ってて…」
老人が恐ろしい事実を穏やかに語った途端―子供たちが悲鳴を上げ逃げるよりも先に銀時は気絶した。
「……ん」
ふと目が覚めたが、何かおかしい。自分は歩いていないはずなのに風景が勝手に動いている。
まだ夢見てんのか、とまだおぼろげな意識で考えていると―
「やっと起きたか」
「情けねェな。妹におんぶされるなんて」
「全くだ」
少しはフォローしろと思ったが図星なので反論できない。
気がついたのに双葉は銀時を下ろそうとしないでまだ背負い続けている。 妹におんぶされている兄の姿というのはみっともない。 夜道には誰もいないとは言え気恥ずかしい。それに身長差のせいで足がズルズル引きずられている。
「おい。もういいって」
「腰が抜けてるんじゃないのか?」
双葉は皮肉げに笑った。正面を向いてるせいで見えないがきっと蔑んだ表情をしてるんだろう。
「抜けてねぇっての!!」
降ろされた銀時はスクーターにまたがりヘルメットをつけ、もう一つのヘルメットを双葉に投げ渡した。
双葉が座ったのを確認すると銀時はスクーターを走らせた。それからしばらく時間が流れ、その間は風をきる音しか聞こえない。
「なぁ。双葉」
不意に口にする。
「なんだ」
言うまでもない冷めきった妹の声。
「お前さ、ビビったか?その、俺が落ちてベトベトの血だらけになった時…」
自分に駆けつけて来た時の双葉の表情(かお)を覚えている。
焦りと不安が入り混じった声で何度も自分を呼んでいた。 ただ意識がもうろうとしていたから思いこみかもしれない。 聞いてみたが双葉は多分答えないだろう。 横目でチラリと伺うが顔を伏せていて分からない。 待ってみたが返事はなく目線を戻した時だった。
「……少し」
本当に、本当に小さな声だった。
頬が赤く染まった双葉はそれ以上口にしなかったが、それを知ってか知らずか銀時は意地悪な笑みを浮かべる。
「ああ?なんだって?よく聞こえねェからもっかい言ってくれ」
「なんでもない」 「今ビビったつったろ」 「言ってない」
否定している双葉の頬はさらに紅潮する。銀時はその様子を面白そうに眺め、答えがわかっている事をあえて質問してみる。
「ホントかぁ?」
「うるさい。私は兄者の心配なんてしてないんだからな。誰が泣きそうになんか…」 「へいへい」
気のない返事をして運転に集中する。だが、一人だけ得した様な軽々しいその態度が気に入らないのか今度は双葉が念押しをし始めた。
「本当だぞ」
「わーってるよ」 「本当にわかってるのか!」
ムキになった双葉は勢いよく銀時に寄りかかった。その反動で手元が少しぐらついたが、その直後に起きた予想外の出来事の方が手元をさらに狂わせた。
“もにゅ”
(げっ!胸が…!!)
双葉の豊満な胸を背中で感じたのも束の間―急にバランスが崩れハンドル操作が狂いスクーターはあらぬ方向へ行ってしまう。
「おわっ。バカ!危なッ!オィィィィィ!!」
悲痛な叫びと共にスクーターは夜道を走り去って行く。
左右にぐらつきながらも二人を乗せて。
=終=
〜あとがき〜 『病院編』は今回で完結です。いかがだったでしょうか? 前書きに書いた通りこれは「フルメタル・パニック」を参考にアレンジしたお話です。 でも銀魂風なギャグもオリジナルで入れてみました。 ちなみにオリジナルネタは、「双葉のBGM(第2話)」と「チャッキー(第3話)」です。 あと夢小説の中にあった「高杉が万事屋に来たお話」は今後書く予定です。どうぞお楽しみに。 楽しめた方もそうでない方も1か月間お読み頂きありがとうございました! それでわ、また〜!(^^) |
すごく楽しかったです!!
ありがとうございましたo(*^▽^*)o
傑作ポチッ
2009/8/30(日) 午前 11:28