第3話「物事は見方を変えるだけで価値観が180°変わる」
あれから何度か帰ることを遠回しに勧めたが双葉は入る前に見た老婆が気になるらしい。
真夜中の廃病院に妹一人残して帰ることもできない。というより怖いから銀時は一人じゃ帰れない。
「コラ!怖くねェつってんだろうが!!」
「兄者誰と話している?」 「あ、いや電波が…」 「は?」
“プルルルルルル
プルルルルルル”
突然、廃病院に電子音が鳴り響きドクンと銀時の心臓が跳ね上がった。
二人は音のする方へ行くとある個室の机の上に電話を見つけた。 電子音に合わせて電話のランプが光っている。
「で、電話!?なんで鳴ってんだ、おかしいだろ。ココ廃病院だぞ」
「確かにそうだな。知らないで掛けてきたのかもしれない」 「へ?」
銀時が聞き返す前に双葉は何の躊躇いもなく受話器を取った。
「とんなァァァ!」
「おい、お主間違っているぞ。ココは十年前から閉鎖されている廃病院だ。助けが欲しいなら119番にかけ直せ」
廃病院の電話と真面目に話している。相手は誰であれ、それはある意味スゴい姿だった。
銀時の口はぽっかりと開いたままふさがらない。
「落ち着け。聞いているのか」
「どうした?」 「かなり錯乱しているようだ」
双葉の耳から離れた受話器を銀時は手に取ってみる。
もしかしたら本当に間違い電話かもしれない。いくら無表情無感情な双葉でも不気味な電話だったら同様するはずだ。 そう考えながら銀時は恐る恐る受話器を耳に当てた。
【…助けて…助けて…【苦しいよ痛いよ痛いよ】【キャー【グエッ】…だずげで………オマエモミチズレ】
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
受話器は銀時の絶叫と共に勢いよく投げ捨てられた。強い衝撃を受けた受話器からはもう相手の声は聞こえない。それでも電話の悲鳴がまだ耳に残り、荒い息が止まらなかった。
「兄者まで錯乱してどうする」
「錯乱せずにいられるかァァァ!怪奇ボイスのオンパレードじゃァァァ!!お前こんなのと話してたんかァ!!」
一人喚く銀時を半ば呆れた様に冷めた眼で眺め、双葉は深々と溜息をもらした。
「……やはり兄者は帰った方がいい」
「一人で帰れるか!大体よぉなんで俺ばっかビ、ビビ…。決めたァ!オメェのビビり顔見るまで絶対ェ帰んねーからな」
銀時はビシッと双葉を指差して断言した。カッコよく決めているつもりらしいが、言っていることは何とも情けない。そんな外見と中身がミスマッチしている銀時の主張に対して双葉は少しはにかんだ笑みを見せた。
「なら二度と帰れないな」
「なんだ。その余裕っぷり超ムカつくな。チクショー次行くぞ!」 「この先で失神するなよ。背負って帰るのだけは御免だ」 「誰がブッ倒れるかァ。俺の心にはバズーカあんだよ。悪霊退散できる威力持ってんだよ。それで一発ブチこんでやるよ」
幽霊って実体ないだろ、と直後に双葉のツッコミが入ったのは言うまでもない。
次に出くわした怪現象は『血だらけの階段』。 真っ暗でその先は見えないが上から子供の不気味な笑い声が聞こえる。
「コレ!」
「声だけではな。しかし姿も見せないとは臆病で情けない腰抜けな奴だ」 「………」
何か言いたいが言葉が出てこない。
口を噛みしめて先に進むことにした。
「次!」
お次の階は廊下の窓の外に出現した。
赤い人魂と舌をベロベロ出して眼がイっちゃってる物体が空を浮遊している。 完全にお化けとしか思えず銀時は逃げたいくらいだが「フラフラ飛んでるだけか」と双葉は冷静に見つめるだけだった。
「可愛い…」
「あ?」 「いや、なんでもない」 「…次!」
そのまま歩き続けようとしたが、非常階段に通じるドアの下で黒い『何かが』うごめいた。銀時の心臓がドキリと高鳴り、自然と足が止まる。何事かとソワソワしていると双葉の懐中電灯がうごめく正体を照らした。
「なっ!」
それは厳つい形相の洋風子供人形だった。その人形が手にするエグいナイフが懐中電灯の光によってキラリと輝いた。
「チャイルドォォォォォォォォォォォォ!?」
【ハァーーイ♪待ってたよ〜】
裂かれた口を目元まで引きつらせ、洋風人形は兄妹に向かって刃をむき出しに突進してきた。そして表情を変えることなくそのまま跳躍し、銀時に鋭いナイフを向ける。銀時は反射的に腕を顔面に据えるが、それでは攻撃を防ぎきれない。
その様を見た洋風人形の口元がさらに歪み、ナイフが振り下ろされ―
“バコッ”
人肉を引き裂く代わりに別の異様な音が廊下に響いた。疑問に思いながら目を開けると、洋風人形を踏みつけている双葉が映った。銀時に飛びかかった瞬間に蹴り落とし、そのまま身動きをとれないようにしたらしい。
その足でぐいぐいと押さえつけ、双葉は洋風人形を見下ろした。
「おい、ガキ。そんな見かけ倒しのナイフで何がしたいんだ。あと『待ってた』と言ってたがいつからだ?私たちがここに来た時からか。まさか、私たちがここに来るまでずっとそこで座っていたのか。くだらない。お主、待っているだけでは何も始まらないぞ。待つだけの人生は何も生まない、空っぽで退屈だ。何より待っている間の時間が無駄だ。無駄にするくらいなら私は誰かを堕としに行くな。これ以上お主が時間を無駄にするなら私が有効に活用しよう。さぁ、どんなふうに堕とそうか」
マシンガンの弾丸の如く降り注ぐツッコミに洋風人形は弁解する隙すらなかった。
軽やかな口調とは裏腹の黒い笑みというギャップのせいで、洋風人形より双葉の方が怖い。 『堕とし方』をあれこれ語り始めたころにようやく銀時のツッコミが入り、双葉の長々しいツッコミが中断された。
「コラァァァァァ。チャッキーになに長ったらしい説教してんだ。つか最後のってお前の願望だろーが。子供相手に大人気ねェよ」
「大人がガキの指導をするのは当然のことだろ。兄者は怠り過ぎだ」 「何言ってやがる。いざって時は無垢な子供を汚らわしい大人の階段へ導いてるだろ。理想と現実は違ェってことを教えんのが大人の役目だ」 「その前にコレは人形だがな」
『人形』。
そうチャッキーはホラー人形なのだ。子供相手に説教とか言ってる場合ではない。
「つーか、これチャッキーだよ。あのチャッキーだよ。チャッキー知ってる?」
「知っている。自分の顔があまりに醜いから、美人を妬み襲っている惨めな人形だろ」 「全然違ェェェェェェェェェ!!それ見た目だけで連想したお前のイメージ。チャッキーはな、殺人鬼の魂が乗り移った人形だって。さっきみてェにズガズガ襲ってくだんよ。怖ェだろ」 「というよりここまで酷くひん曲がった顔を見ると哀れさを感じる」
ホラーに容姿求めてどうする、と言い返そうとした時すすり泣く声が廊下に響き渡る。思いがけない正体に銀時は目を丸くしてそれを確かめた。そう、泣いていたのはさっきまで置いてきぼりにされていたチャッキーだった。
【グスン、グスン。…俺だって、俺だって好きでこんな顔になったんじゃないやい】
「あれ、チャッキー泣いてる?」
不気味な笑みは依然として変わらない。だが頬にはいくつもの水滴が流れ落ち、顔はくしゃくしゃに濡れていた。加えて駄々っ子のように泣いてるせいでホラー的な雰囲気は一切なくなっている。
【別にキ○タクみたいなツラに憧れてなんかねーよッ】
そう涙でぐちゃぐちゃになりながらチャッキーは走り去り悲痛な泣き声も暗闇に消え、再び廊下には銀時と双葉の二人だけになった。
「結局妬みか。お前そんな理由で人襲ってたのか。チャッキィィィィィィィィィ?!」
もはやホラーの威厳もかけらもない、ただの泣き虫になってしまったチャッキー。
そんな姿にさせた張本人の感想はただ一言。
「露骨だな」
「それだけか!」 |
双葉ちゃんもしかしなくても天然ですかwwwww
とりあえず哀れなチャッキーに合掌・・・(爆)(なんで笑ってんだ!)
傑作ポチ☆
2009/8/15(土) 午後 10:28 [ 閑古鳥 ]
コメントありがとうございます!
傑作ポチまでしてくれて感謝感激です。
詳しいコメ返信はこちらでさせて頂きました
→http://blogs.yahoo.co.jp/doraemonffandkh2/20647562.html
2009/8/29(土) 午後 11:00 [ Karen ]
おもしろいwww
傑作ポチッ
2009/8/30(日) 午前 11:19