第2話「BGMは場の雰囲気に合ったのを選曲しろ」
暗闇の廃病院の中はほんのわずかな月明かりと双葉の持つ懐中電灯しか光がない。
廊下には壊れた医療器具や錆びれた自転車に首のない人形などが散らばっている。医療器具以外は遊び半分で入った若者たちが持ちこんだ残骸だろう。 双葉の後ろにくっついて歩いてから数十分くらい経つが何も起こらない。いや、何も起こらない方がいいんだが…。
“カサカサ”
「!」
と願ったとき廊下に小刻みな音が響き小さな影が銀時たちの足下を横切った。
双葉はそれを懐中電灯で追い謎の影を照らすと―
“ヒヒヒ”
一つ目の蜘蛛のような紫色の生物が笑ったような不気味な声を上げて素早く角を曲がった。
それを見た銀時は声がひっくり返り、無造作に謎の物体を指差した。
「ななななななんだありゃ?!」
「突然変異だろ。天人どもが来たせいで地球の生態系が狂ってるそうだからな」
ビクつく所か冷静に分析する妹に銀時は別の意味で驚愕した。
「はぁ!?お前それだけ。それだけか」
「何が?」
双葉の態度に銀時は口が引きつった。
全く変化しない表情からは真意が読み取れない。本気(マジ)で怖くないのかそれとも…。
「ハハハ。やせ我慢してんだろ〜。やめとけやめとけ。『怖い』って言っていいんだぞ。飛びついたっていいんだぞ。俺のそばにいろよ」
「ぜってーヤダ」
無表情に即答し双葉は銀時を置いて歩いて行く。
自分の胸に何かがグサリと刺さったのを感じつつも慌てて先に歩く双葉を呼び止めた。
「ちょっとォォォ!『ぜってーヤダ』ってなに?!俺今スッゲー傷ついたんだけどォ!!んな、やせ我慢は身体に毒だよ。それでもいいんだったらもういいよ、お前だけとっと行けよ」
「そうか。兄者気をつけて帰れ」
双葉と銀時の距離がさらに離れ、唯一の灯りが遠ざかり銀時の周囲は暗くなり始めた。
「待ってー今の嘘!嘘だよ!!双葉ちゃんお願い、歌うたってェ。俺がココから出るまで歌い続けてェ!!」
前にもこんなセリフを言ったようなデジャブを感じながらも自分から離れていく妹に叫ぶ。銀時の頼みを聞き入れたのか双葉は立ち止まった。
そして―
「♪コンコン コンコン 釘をさす」
「……え?……」
深く沈んだ歌声が廃病院の闇に溶けていく。
しかも低音―アルト調で歌っているので余計暗さが増し、銀時の背筋に寒気が走った。
「♪コンコン コンコン 釘をさす 藁人形が笑ってる コンコ「やめてェェェェェ!何その歌スッゲー怖いんだけどォォォ!ゴミ捨て場で神楽が口ずさんでたのより数千倍怖いんだけどォォォ!『♪』なんて可愛いマークとミスマッチじゃァァァァ!!てか何だよその歌ァ!?」
「山崎ハコの『のろい』」 「なんつーとんでもねェ歌うたってんだァ、空気読め空気!!ギャグで流れる歌じゃねェっての!」 「何を言っている、兄者。『のろい』は国民的アニメ「ちび○子ちゃん」で流れた歌だぞ」 「なぬぅ!…とにかくそんな歌ダメ。別の歌。それ以外ならなんでもいい」
少し考える素振りをして双葉はこう口ずさんだ。
「♪大江戸は〜自殺する奴がい「やめろォォォ!!何ちゅうネガティブな歌選曲してんの!!もういいよ。お前といると余計怖ェから。マジどっか行って」
「そうか。兄者頑張れ、来世でな」 「コラァァァァ!来世ってなんだ?俺このあとどうなるのォ!?嘘嘘嘘ォォォ!双葉ちゃんどっか行かないで。一人が一番怖いからァ!俺のそばにいてくれェll!」 「ぜってーヤダ」 「なんかループしてるゥゥゥ!これってデジャブ?地獄の無限ループだァァァ!!」
こんなやりとりを数回繰り返したが、一人で帰れるはずもなく結局銀時は双葉と一緒に奥に進むしかないのだった。
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2009/8/30(日) 午前 11:13