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【直葬 〜消える弔い〜】(上)消えてしまいたい (1/2ページ)
「消えてなくなりたい」。鈴木三保子さん(74)=千葉県市川市=は、自分の死後についてそう考えている。
「葬式も戒名もいらない。死を知らせる親族は最小限。親しい知人らには納骨後に知らせて。家は取り壊して更地にしてほしい」
今年8月、遺言にそう書いた。7年前に母=当時(95)=を亡くしてから一人暮らし。でも旅行仲間も多いし、頼れる親戚(しんせき)もいる。孤独ではない。
「葬式をすることで、親族や他人の時間を拘束したくない。誰にも迷惑をかけないで、消えるように死にたいの」と笑う。
大畑枝美さん(75)=仮名、東京都北区=も、同様の遺言を2年前に書いた。30年前に離婚、一人で暮らしている。
「死後に若い人たちに迷惑や負担をかけるのは耐えられない。自分は十分幸せに生きてきた。最期は高温で火葬してもらい、灰になって消えてしまいたい」
世話になった人の宛名を書いた10通の封書を、遺品として本棚に用意している。
「簡単な手紙と、再婚話があったときに撮った写真が入っているの。私の人生のベストショットよ」
2人が火葬や遺品整理などの事務を託すのが「NPO法人りすシステム」(東京都千代田区)だ。平成5年の設立以来、約2200人と死後事務の契約をしている。多くが子供がいなかったり、子供や親族の世話になりたくないという人たち。夫婦での契約もあれば、1人での契約もある。
杉山歩代表は、「8割が『葬式はいらない』という人」と話す。「周囲に迷惑や負担をかけたくない」「葬式に呼びたい人がいない」「何もされたくない」「肉親がいない」「寺と付き合いがない」…事情は人それぞれだ。
通夜や葬式をせず、火葬と納骨だけ。参列者はごく少数。セレモニーも簡素。
「直葬」と呼ばれる葬送スタイルが10年ほどで急増している。統計はないが葬儀関係者らの間では、東京の都心部では2〜3割になるという話が交わされる。
ニーズに合わせ、多くの葬儀社が「直葬プラン」を打ち出すようになったのはこの5年ほど。インターネットには、「火葬のみ」「心温まる直葬」「直葬のコツ」などの文句が並ぶ。