現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

JAL再建―最後の機会を担う新政権

 政権交代が、日本航空の再建計画にどう影響するかが注目されている。

 経営の悪化で資金繰りが行き詰まる恐れのある日航は、自公政権下で国土交通省がつくった有識者会議との間で再建計画のとりまとめを進めてきた。

 ところが、前原誠司国土交通相が記者会見で「有識者会議を白紙にしたい」と表明したため、再建計画が変更される可能性が出てきた。

 ただ、前原国交相は「破綻(はたん)という事態は絶対にあってはならない」「(日航と全日本空輸の)2社体制を維持していく」とも述べている。日航再建に対する基本姿勢については、前政権と大きな差がないということだろう。

 その基本姿勢とは、日航に身を削るような抜本的なリストラを進めさせるとともに、親方日の丸の経営体質から脱却させることだ。繰り返し政府支援を求めるような事態を防ぐためには、当たり前のことだ。

 新政権が、有識者会議のあり方やこれまでの国交省の指導ぶりをチェックするのは当然だ。だが、空路の安全を担う主要航空会社の経営状態が、いつまでも中ぶらりんのままではいけない。重要なことは、再建計画のとりまとめを急ぐことである。

 日航の経営が悪化した原因には、世界同時不況や新型インフルエンザもある。このため日航は6月末に政府の支援を受けた。一部に政府保証をつけてもらうことで、日本政策投資銀行と民間銀行から計1千億円の協調融資を受ける契約にこぎつけたばかりだ。

 それなのに、今期中にさらに必要とされる1千億円以上の融資も再び政府の支援頼みの状態だ。だとすれば、経営改善計画の実効性について政府や銀行団の理解を取り付けねばならない。

 今後3年間で6800人の社員を減らすほか、賃下げや年金給付の減額をする。さらに、国内線の29路線、国際線の21路線の廃止を検討し、神戸や静岡、松本など国内7空港から撤収する方針を固めたのもその一環だ。

 利用者や地方空港の経営に与える打撃はたしかに大きい。だが、日航が生き残るためには、徹底的なリストラを優先するのはやむをえまい。

 日航は現在、世界1位の米デルタ航空や、世界2位の米アメリカン航空と資本・業務提携の交渉も進めている。

 歴史と伝統ある日航に外国の航空会社の資本が入ることに、抵抗を感じる人が社の内外にいるかもしれないが、企業の国際化の中にあって、もはやこだわっている場合ではなかろう。

 むしろ深刻なのは、日航が再三にわたって再建計画を立てながら、いずれも抜本的な再建を成し遂げられなかったことだ。

 これが最後の機会というほどの認識に立って臨む。新政権になにより求められることだ。

伊勢湾台風50年―警戒心が緩んでないか

 明治以降、最大の台風災害だった伊勢湾台風から26日で50年になる。

 戦後まだ、災害対策の制度や設備が十分に整っていない時期だった。超大型台風は、5メートルもの高潮を海抜ゼロメートル地帯にたたきつけた。

 死者・行方不明者はじつに5千人を超した。ところが、当時、避難を徹底させていれば、犠牲者は250人に抑えられたのではないか。こんな衝撃的な報告書を、中央防災会議の専門調査会が昨年まとめている。

 当時の気象台は台風の進路や上陸時間をほぼ正確に予測し、警報も上陸7時間前の午前11時過ぎに出していた。これを受け、三重県の旧楠町は午後4時までに避難を指示した。そのため、町の半分が水浸しになっても、死者は1人も出さなかった。

 策が遅れたため最大の被災地となったのが名古屋市だ。警察が独自に一部の地域に避難を指示したのは、暴風雨さなかの午後8時になってからだった。海の近くで暮らしながら危険地帯という認識がなかった住民らは、津波のような高潮にのみ込まれていった。

 このことをいま私たちは、「半世紀前の失敗」と片づけられるだろうか。今年8月の豪雨で兵庫県佐用町は夜、道路の冠水が始まってから避難を指示し、住民は逃げる途中で水に巻かれた。米国ではカトリーナ災害で千人を超す犠牲者が出た。

 いまやインターネットで手軽に気象情報や川、海の水位を知ることができる。だが、そうした情報を、一人ひとりが避難に生かせるだけの防災の知識を持っているだろうか。

 伊勢湾台風の2年後にできた災害対策基本法で、避難勧告・指示は市町村長がすることになっている。総務省は勧告のガイドラインもつくったが、安全に慣れた住民が逃げようとしない、という新たな問題にも直面している。

 この半世紀、堤防が整備され、行政も住民も警戒心が緩んではいないか。

 三大都市圏とも地下水のくみ上げで地盤が沈下している。ウオーターフロント開発も進み、潜在的なリスクを高めた。さらに、地球温暖化で今世紀末には海面が最大約60センチ上昇し、台風も強大化するといわれている。

 先月には駿河湾を震源とする震度6弱の地震に肝を冷やしたばかりだ。台風や地震に遭遇するのは、この列島に住む私たちの宿命である。

 自分の身を、街をどう守るか。まず土地の被災の歴史を知り、自分の危険度を把握することだ。防災や避難に責任を持つ自治体は、住民や土地利用の実態を把握し、避難などの計画を常に見直さなければならない。

 半世紀前のあの夜、濁流の中で子どもの手を離したことを高齢の母たちがいまも悔やんでいる。伊勢湾台風の悲劇をしっかり胸に刻んでおきたい。

PR情報