<ニッポン密着・政権交代>諫干開門、深まる溝 「調査容認」民主にも賛否
◇入植者「反対」/漁師「早く」
目の前に広大な畑が広がる。「もともと海だったからミネラル分が豊富なんですよ」。長崎県・諫早湾の奥部。荒木一幸さん(32)は、国営諫早湾干拓事業(諫干)で造成された農地に熊本県から入植した。「土地は広くて、水はけもいい」。6区画計36ヘクタールの畑でカボチャやキャベツ、ジャガイモ、ハクサイを育てる。営農開始から1年半。将来設計ができたところで、政権が代わった。
「農業はやりやすくなるのか」。16日、新政権誕生を伝えるテレビを見た。焦点は、干拓地と有明海を隔てる潮受け堤防にある水門の開門調査。「開門で営農に影響が生じないよう万全の対策を講じる」。民主党は衆院選マニフェストの原案となった「政策集」でこう調査に触れた。
だが、民主党長崎県連は「開門調査」に反対する。地元長崎2区で初当選した福田衣里子氏(28)は「即時開門」には反対の立場。一方、隣の佐賀県には即時開門を主張する衆院議員もいて、党内でも賛否はまだら模様だ。
97年、海は分断された。巨大な鋼板が水しぶきをあげて次々と落下する様子は「ギロチン」と、環境破壊の象徴のように呼ばれた。あれから12年。堤防ができ、ムツゴロウなど多様な生物をはぐくんだ干潟は消えた。だが、一度水門が開けば、内側の調整池に海水が流れ込む。「そうなったら、農業用水として使えん。仕事できんですよ」。将来を考えると不安になる。
実家は、熊本県天草地方で農業法人「アラキファーム」を営む。荒木さんは地元の商業高校を卒業後、父に反発してホテルマンや長距離トラックの運転手をしていた。「おれにやらせて」。30歳になる前に家へ帰り、諫早干拓に「支店」を出す計画を任せてもらった。
41個人・法人の営農者の中で、県外からの入植は荒木さんだけ。「単身赴任」だったが、昨年11月、干拓地内に自宅を新築して妻と2人の子供を呼び寄せた。将来を懸けて、大規模化のため8000万円近い設備投資もした。環境保全型農業を進め、「諫早干拓産」をブランドとして売り出すのが夢だ。
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「水門閉鎖で有明海全体が壊れた。ひと月ひと月を越すのもやっとで、国民年金も納めきらん」。潮受け堤防の外側に位置する諫早市小長井地区。地元の漁協理事、松永秀則さん(56)は漏らした。開門を求める訴訟の原告団長を務める。
16歳から海に潜り、特産の二枚貝タイラギ漁で生計を立てていた。最盛期は3時間もあれば、漁船に褐色の山ができた。タイラギだけで年間2000万円の水揚げがあった年もある。
魚の産卵場所として知られた諫早湾はかつて「有明海の子宮」と呼ばれた。だが、干拓事業が進むにつれて漁場は傷つき、16年前からタイラギの休漁が続く。アサリ養殖と定置網漁で稼げるのはせいぜい年間300万円。生活のためにやむなく干拓事業の作業員として働いたこともある。後を継がせるつもりだった長男(31)も数年前に海を離れ、福祉施設で働く。
「漁にさほど影響は出ない」。休漁前、農水省の説明をうのみにして2000万円の漁業補償を受け取った。宝の海が失われたのは、自分たちが事業に同意したからではないのか。「罪の意識」すら感じている。
「海を戻してくれ」。衆院選投票日。自民党員の松永さんは、思いを込めて民主党に1票を託した。国の補助事業に頼っているために声をあげられない仲間たちも、同じ思いだという。
17日、佐賀県の古川康知事は「民主党方針は開門が前提と理解している」と述べ、赤松広隆農相に開門調査の早期実現を求める考えを示した。調査を巡る動きは熱を帯び始めた。
新天地を求めて入植した営農者、海とともに生きてきた漁師――。それぞれの暮らしを分断する潮受け堤防は、静かに海にそびえ立っている。【立上修】
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■ことば
◇国営諫早湾干拓事業
農地造成と防災を目的に、諫早湾を潮受け堤防で閉め切り、湾奥に二つの干拓地(計約700ヘクタール)と淡水の調整池を造成した。事業は86年に始まり、07年完成。総事業費は2533億円。08年4月から干拓地で入植者による営農が始まった。有明海沿岸4県の漁業者ら約2500人が国に堤防撤去や常時開門を求めた訴訟が福岡高裁で係争中。1審の佐賀地裁は、漁業被害と堤防閉め切りの因果関係を一部認定し、国に5年間の開門調査を命じた。
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