<ニッポン密着・政権交代>諫干開門、深まる溝 「調査容認」民主にも賛否

毎日新聞2009年9月20日(日)13:00

 ◇入植者「反対」/漁師「早く」

 目の前に広大な畑が広がる。「もともと海だったからミネラル分が豊富なんですよ」。長崎県・諫早湾の奥部。荒木一幸さん(32)は、国営諫早湾干拓事業(諫干)で造成された農地に熊本県から入植した。「土地は広くて、水はけもいい」。6区画計36ヘクタールの畑でカボチャやキャベツ、ジャガイモ、ハクサイを育てる。営農開始から1年半。将来設計ができたところで、政権が代わった。

 「農業はやりやすくなるのか」。16日、新政権誕生を伝えるテレビを見た。焦点は、干拓地と有明海を隔てる潮受け堤防にある水門の開門調査。「開門で営農に影響が生じないよう万全の対策を講じる」。民主党は衆院選マニフェストの原案となった「政策集」でこう調査に触れた。

 だが、民主党長崎県連は「開門調査」に反対する。地元長崎2区で初当選した福田衣里子氏(28)は「即時開門」には反対の立場。一方、隣の佐賀県には即時開門を主張する衆院議員もいて、党内でも賛否はまだら模様だ。

 97年、海は分断された。巨大な鋼板が水しぶきをあげて次々と落下する様子は「ギロチン」と、環境破壊の象徴のように呼ばれた。あれから12年。堤防ができ、ムツゴロウなど多様な生物をはぐくんだ干潟は消えた。だが、一度水門が開けば、内側の調整池に海水が流れ込む。「そうなったら、農業用水として使えん。仕事できんですよ」。将来を考えると不安になる。

 実家は、熊本県天草地方で農業法人「アラキファーム」を営む。荒木さんは地元の商業高校を卒業後、父に反発してホテルマンや長距離トラックの運転手をしていた。「おれにやらせて」。30歳になる前に家へ帰り、諫早干拓に「支店」を出す計画を任せてもらった。

 41個人・法人の営農者の中で、県外からの入植は荒木さんだけ。「単身赴任」だったが、昨年11月、干拓地内に自宅を新築して妻と2人の子供を呼び寄せた。将来を懸けて、大規模化のため8000万円近い設備投資もした。環境保全型農業を進め、「諫早干拓産」をブランドとして売り出すのが夢だ。

     □

 「水門閉鎖で有明海全体が壊れた。ひと月ひと月を越すのもやっとで、国民年金も納めきらん」。潮受け堤防の外側に位置する諫早市小長井地区。地元の漁協理事、松永秀則さん(56)は漏らした。開門を求める訴訟の原告団長を務める。

 16歳から海に潜り、特産の二枚貝タイラギ漁で生計を立てていた。最盛期は3時間もあれば、漁船に褐色の山ができた。タイラギだけで年間2000万円の水揚げがあった年もある。

 魚の産卵場所として知られた諫早湾はかつて「有明海の子宮」と呼ばれた。だが、干拓事業が進むにつれて漁場は傷つき、16年前からタイラギの休漁が続く。アサリ養殖と定置網漁で稼げるのはせいぜい年間300万円。生活のためにやむなく干拓事業の作業員として働いたこともある。後を継がせるつもりだった長男(31)も数年前に海を離れ、福祉施設で働く。

 「漁にさほど影響は出ない」。休漁前、農水省の説明をうのみにして2000万円の漁業補償を受け取った。宝の海が失われたのは、自分たちが事業に同意したからではないのか。「罪の意識」すら感じている。

 「海を戻してくれ」。衆院選投票日。自民党員の松永さんは、思いを込めて民主党に1票を託した。国の補助事業に頼っているために声をあげられない仲間たちも、同じ思いだという。

 17日、佐賀県の古川康知事は「民主党方針は開門が前提と理解している」と述べ、赤松広隆農相に開門調査の早期実現を求める考えを示した。調査を巡る動きは熱を帯び始めた。

 新天地を求めて入植した営農者、海とともに生きてきた漁師――。それぞれの暮らしを分断する潮受け堤防は、静かに海にそびえ立っている。【立上修】

………………………………………………………………………………………………………

 ■ことば

 ◇国営諫早湾干拓事業

 農地造成と防災を目的に、諫早湾を潮受け堤防で閉め切り、湾奥に二つの干拓地(計約700ヘクタール)と淡水の調整池を造成した。事業は86年に始まり、07年完成。総事業費は2533億円。08年4月から干拓地で入植者による営農が始まった。有明海沿岸4県の漁業者ら約2500人が国に堤防撤去や常時開門を求めた訴訟が福岡高裁で係争中。1審の佐賀地裁は、漁業被害と堤防閉め切りの因果関係を一部認定し、国に5年間の開門調査を命じた。

過去1時間で最も読まれたライフニュース

ライフニュースで話題になったコトバ

富士山 鳩山

注目のトップニュース
新政権に迫る「市場との戦い」
市道で「通行料払え」トラブル
健保連赤字3千億 現役の負担重く
都心ホテルで健康改善サービス
サンマ早くきれいに食べる競争も
桑田佳祐、12月にソロシングル
滝川クリステルがキャスター交代
岡ちゃん、連休中も人材探しの旅
注目のライフニュース
40歳でミニスカ、どう思いますか
敬老の日 超高齢社会を考える
女性の4人に1人が高齢者に
最近流行りの「オトナの部活」
他人の貧乏ゆすり止めさせるには
全国人気の「お土産スィーツ」は
都心ホテルで健康改善サービス
夢は叶う、子供たちがゾウ求め…
写真ギャラリー
写真ギャラリー
ナショナル・ジオグラフィックの迫力
鮮やかな自然、迫真の世界
goo辞書とのコラボ企画「ニュースな英語」
ニュースで使われた英語フレーズを月水金にご紹介
ニュースな英語コラム一覧
今週のトピックス
gooランキング
教えて!goo 新着質問(流行・カルチャー/929)
昔の電気機関車にデッキが付いているのは何故ですか?
貨物列車でディーゼル機関車は今でもデッキついてますね
苗字(last name)で呼ぶ?
英語圏の文化に詳しい方にお答えいただけたら助かります。 最近映画やドラマの...
BLの定番(時代別)
普通の人に比べたらややオタクな青春を送ったことを明らかにしているので、「B...
環境goo 新着&オススメ記事
スウェーデンのエコライフ・レポート
レポーターが環境への取り組みでも話題になる国“スウェーデン”についてお届け
安心楽しいトレッキング
日常の喧騒を離れ、ゆっくりのんびり山を歩いてみませんか?
My Life,My Style
orange pekoe ベランダ菜園 夏の陣の結末
goo ヘルスケア:健康コラム・レシピ
鮭の包み焼き - レシピ
健康と美容に話題の抗酸化物質アスタキサンチンを含む鮭を、酸味の効いたソースでたっぷりいただきます
自分を否定することを言われたとき - メンタルヘルス
あなたの強みを認識しましょう!
テーマで探す今週のレシピ - gooグルメ&料理
旬の味覚レシピ旬の味覚レシピ脂ののったさんまは、塩焼きのほか、身が柔らかいので、蒲焼き、竜田揚げなど、しっかり熱を通して身を引きしめる調理法がオススメ
おすすめメルマガ
最新ニュースを、メルマガでお届け
 
おすすめコンテンツ
goo旅行
国内旅行のクチコミ情報をチェック
goo住宅・不動産
気になるあの路線・駅の家賃相場は
goo天気
生まれた日の天気・気温を見てみよう
goo自動車&バイク
新車ニュース&コンパニオン画像
gooダイエット
痩せる方法100種類
goo求人&転職
起業家インタビュー好評連載中
goo進学&資格
三日坊主も安心!まずは体験講座
gooヘルスケア
家庭の医学 病気検索
gooのお知らせ
派遣で働くことのメリット・デメリットgoo求人&転職派遣で働くメリット・デメリットを知ってますか?
新型インフルエンザ特集gooニュース“新型インフルエンザ”に関するニュースやQ&Aを特集
gooニュースサービス説明