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借金の踏み倒しをあおる社会(上)

個人破産が急増

 韓国南方に位置する島の村では今年5月、この地域で営業を行っていた農協が別の島の別の農協に吸収統合された。普段から取引を行っていた住民1500人のうち300人以上が「借金を返済できない」と手を上げたため、経営が破たんしたのだ。いったいこの島で何が起こり、住民たちは一気に借金の返済を放棄したのだろうか。その発端は3年前にさかのぼる。

 2006年9月の秋夕(仲秋節)前、スーツを着た40歳代の男3人が島の外からやって来た。3人は村の一角に「借金から解放」と書かれた看板を掲げ、「個人破産を申請してください」というビラをまいた。男たちは家を1軒1軒訪問し、また住民たちが集まる喫茶店や公民館などでも「200万ウォン(約15万円)で数億ウォン(1億ウォン=約750万円)の借金を裁判所がチャラにしてくれる」と宣伝して回った。

 1週間後、彼らは住民から受け取った数百枚の個人破産申請書と信用回復申請書を車に積んで島を出た。

 アワビや昆布の養殖などで生計を立ててきた島民のうち数百人は、台風などで被害が出た影響で、ここ数年の間に農協から数千万ウォン(1000万ウォン=約75万円)から数億ウォンの借金をしていた。この事実を知ったある弁護士事務所が、島民から個人破産・信用回復申請書を集めて回ったのだ。

 その後、数カ月の間にこの島では誰と誰が破産が認められ、数億ウォンの借金がチャラになった、といううわさが広まり始めた。近所での言い争いも増えた。一部住民は保証人となっていた近所の人が破産したため、突然数千万ウォンの借金を抱えるようになったからだ。

 破産申請ブームは海岸線に沿って沿岸部の漁村にも広まり、その後、奥地の農村にも広まった。この島から200キロほど離れた別の島でも、30人の住民のうち25人が破産を申請し、借金がなくなった。この島でも同じように、弁護士が住民一人当たり200万ウォン前後の手数料を受け取って破産申請を代行した。そのため、この直接的な影響を受けた近くの農協や水協(水産業協同組合)など地元の金融機関は、徐々に経営が破たんしていった。

 住民による集団の破産申請で被害を受けているのは地元の金融機関だけではない。経営危機に陥った金融機関が融資に慎重になり審査が厳しくなったため、別の住民が必要なときに融資が受けられず、仕事が困難な状況に陥ったケースもある。この地域の住民代表を務めるAさんは、「破産の経歴がない人でも、最近は担保がなければ新規の融資はほとんど受けられなくなった」と語る。

ソン・ジョンミン記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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