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通信・放送分野の行政にも、政権の交代によって変革の兆しが出てきた。
原口一博総務相は記者会見で、言論と表現の自由を重く見る姿勢を強調し、通信・放送行政については、総務省から独立した行政委員会をつくり、そこにゆだねる方針を示した。
放送などへの政治介入をなくしていくには、米国の連邦通信委員会(FCC)や欧州主要国の機関のように、独立性や中立性が高い組織をつくって監督を任せることが重要になる。
民主党は日本版FCCの設置を政策集に掲げている。その方針に沿って改革を進める意欲を総務相が示したわけだ。関連する法案を早期にまとめ、ぜひ実現させてもらいたい。
それと並行して取り組むべき別の課題もある。通信・放送の法体系の見直しだ。昔の技術体系を引きずったまま九つもの法律が現在あるが、日進月歩の技術革新に対応できていない。
たとえば、放送局が電話サービスをしたり、電話局がインターネットでテレビ中継をしたりすることが技術的には可能になっているのに、実現させるには現行法の整理が不可欠だ。
総務省の情報通信審議会が先月出した答申も、時代に合った法体系づくりを求めた。
答申では、電話局や放送局を「伝送設備」、通信・放送サービスの送り手を「伝送サービス」、番組やネットのホームページなどの作り手を「コンテンツ」と、役割によって分ける案を示した。電波利用の弾力化が進み、地域や時間帯ごとにきめ細かな放送や電話サービスが生まれる可能性がある。
審議の過程で論議を呼んだのは「コンテンツ」分野の規制だった。放送とネットをひとくくりにして、社会的影響力が大きいメディアを政府が規制する案がいったんは浮上した。これには反対意見が噴出し、結局は立ち消えになった。当然のことだ。
結果的に答申は、コンテンツ規制のうち放送に当たる分野はいまの放送法を踏襲して、(1)規制が最も厳しい地上波放送と衛星放送の一部(2)規制の緩い衛星放送(3)ネット放送、という3段階に分ける内容となった。
他のコンテンツ規制では、有害サイト削除を規定した「プロバイダー責任制限法」と、有害サイトへのアクセスを制限する「青少年インターネット環境整備法」の現行法で対応できる。
新しい法体系ができれば、放送局は設備会社と番組会社に分けることができる。経営の苦しい地方局が設備を共有するといった再編も容易になる。
ただ今回の見直しでは、NTT、NHKという通信・電波の「巨人」が枠外に置かれた。両者が現状のままで果たして業界の枠を超えた情報通信産業の発展が促されるのか。見極めが必要だし、課題もまだまだ多い。
宇宙飛行士の食料などを積んだ日本の無人宇宙船「HTV」が国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングした。国際的な約束に基づく初の輸送任務を無事に果たしたことになる。
HTVを軌道へ打ち上げたのは国産の大型ロケット「H2B」1号機だ。こちらも初仕事をこなした。ドッキングのやり方も、ISSへの影響の少ない日本独自の新手法だった。
自前の宇宙船を自前のロケットでISSに送り届ける。この一連の大仕事をきちんと成し遂げたことで、日本の宇宙技術は世界に向けて存在感を示したといってよい。
宇宙開発はいま日米とも政権交代によって転機を迎えている。オバマ大統領は有人計画の見直しを進めており、有識者の独立委員会はISSの運用を2020年まで延ばすよう促した。火星探査はかなり先になるだろう。
日本では、新任の前原誠司・宇宙開発担当相が宇宙行政を一元化する方針を明らかにした。その先には、米航空宇宙局(NASA)にならった「日本版NASA」をつくる構想がある。日米それぞれ様変わりしそうだ。
そんななかで、日本の技術力が生きる戦略を考えていく必要がある。
HTVは直径約4.4メートル、長さ約10メートルの円筒形をしている。ISSへの補給物資や実験装置など、約6トンを運ぶことができる。今後、毎年1機ずつ打ち上げる予定だ。
いわば大型の輸送トラックで、それ自体に華々しさはないかもしれない。しかし、その意味は大きい。
まず、NASAのスペースシャトルの引退が来年にも迫るなか、ISSに物資を運ぶ手段としての役割だ。
シャトル引退後の運搬手段には、ロシアのプログレスと欧州のATVもある。荷物の積載量が7.5トンと最大なのはATVだが、ISSとの結合部は直径0.8メートルしかない。HTVは1.2メートル四方と大きく、大型の装置を運び込む唯一の手段となる。今回の打ち上げにNASA高官が立ち会ったことからもわかるように、宇宙国際協力への日本の貢献に期待が集まっている。
一方で、HTVは将来、有人宇宙船に発展させることも想定されている。地上と同じ1気圧に保たれた部屋があり、重要な部品は3系統を備えて安全性を高めている。
HTVは約1カ月後にゴミを積み大気圏に突入させて燃やすが、高熱から機体を守って地上に安全に戻す技術などが備われば、有人宇宙船にもなる。
今回の成功によって、日本の宇宙政策の選択肢は広がった。自前の技術での有人飛行にまで踏み出すのかどうかについても、幅広い観点からの議論が必要なときだろう。
日本ならではの宇宙開発とは何か。新政権はその将来像を示してほしい。