自衛隊鹿児島地方協力本部の1等陸尉、徳永安成容疑者(46)=行政機関個人情報保護法違反容疑で逮捕=が陸上自衛隊員ほぼ全員に当たる約14万人分の個人情報を漏洩(ろうえい)させた事件。徳永容疑者は「不動産業者に100万円ぐらいで売った」と供述しているが、専門家は「値段が付けられないほど重要な情報。作戦行動ができなくなる可能性もある」と事態の深刻さを指摘している。
防衛省によると、流出したのは「隊員出身地カード」。これには住所や氏名、年齢、家族名、現在の所属先に加え、本籍地や隊員の親の住所、子供の学校まで記載があった。制服組トップの陸上幕僚長を含め、ほぼ全隊員が網羅されていた。
徳永容疑者は鹿児島市内にある募集案内所の所長で、出身地カードから縁故をたどってリクルート活動をしたり、海外派遣の際に家族を支援する仕事を担当。その職権を悪用して昨年11月下旬ごろ、東京に本社がある不動産業者にデータを焼き付けたCD−ROMを郵送した。徳永容疑者は「住宅ローンで数千万円の借金があった」と供述しているという。
事件は7月に「市ケ谷でCDを拾った」と防衛省に連絡が入ったことから発覚。すでにコピーが繰り返され、広範囲に出回っている可能性が高い。そこで気になるのは、この情報にどれだけの価値があるのか、だ。
「たとえば日本に侵入した他国のゲリラコマンドが、流出した情報を利用して隊員の家族を人質に取れば、作戦行動ができなくなってしまう。100万円どころか、値段が付けられないぐらい重要な機密情報です」と断言するのは軍事ジャーナリストの世良光弘氏。世良氏によると、米陸軍特殊部隊「デルタフォース」やロシア軍参謀本部の特殊部隊「スペツナズ」といった世界の最強部隊は、隊員名はおろか顔さえも他人に見られないよう徹底的な情報管理がなされているという。
「顔が知られると隊員本人だけでなく家族にも報復の危険性があるため、任務の際は黒いマスクで顔を覆う。陸自の特殊作戦群も同じです」
陸自はテロ対策や潜入任務などを担う特殊作戦群を千葉県船橋市の習志野駐屯地に配備している。その詳細は部隊そのものが極秘事項のため、今も明らかになっていない。だが、今回流出した個人情報から隊員名簿や組織の編成、隊員の能力などが割り出される可能性もある。
「軍事的に致命的な情報流出になり得る。すべてオープンになれば、部隊員を総取っ替えする必要も出てくるかもしれない」と世良氏は危惧する。
政権交代で防衛費の削減がやり玉にあがりそうな時局の不祥事に、防衛省幹部は苦虫を噛み潰したような思いだろう。