2009年04月06日

春ですね−−「論点」についての一考察

41歳の春だから(挨拶)。




わが中央大学法科大学院では、WBC連覇の日に3年生が卒業(修了)し、テポドン発射の日に入学式が行われました。それぞれ、修了者・入学者にとって忘れがたい日になったのではないかと思います(ちょっと苦笑)。

新司法試験まで1ヶ月強になってしまいましたが、どうか受験生の皆様は、受験勉強でも、本番でも、良い意味でのびのび頑張ってほしいと思います。

で、それと関係があるのかないのか良く分かりませんが、今日は「論点」の話をしようと思います。

1.事例問題を解くとき、普通は、前提として解答者の側にいわゆる論点に関する知識があって、事例の中に埋もれている論点を発見することが必要になります。

ただ、司法試験はどうもそれだけではないみたいです。

具体的には、予備校本にも教科書にも書かれていないけど、その場で条文を頼りに考えればそれなりに論じることができる、という能力も試されています。

つまり、日頃「論点」を勉強しているときには、「事例から論点を発見する能力」を養うことに加えて、「物事を法律的に考える力、作法」を身に付けることが大切だと思います。つまり、当該論点だけではなくて、他の問題についても応用が利くような「法的思考力・表現力」につなげるような勉強をすべきです。

これは当たり前で、実務家になれば常に新しい問題に遭遇します。その時には、「どの法律が関係ありそうか」「どの資料(教科書・解説書・ウェブ等の情報)が役に立ちそうか、どうやって手に入れるか」をまず考え、しかる後に、自分の頭でその問題に取り組むことになります。「既存の論点を書かせたら超一流だけど、知らない論点を出されると1行も書けない」ような人は、実務家になれませんからね。

2.私の経験でいえば、旧司法試験を受けていた頃(約20年前)、民法で盗品についての即時取得が出題されたのですね。今はどうか知りませんが、当時は即時取得の原則規定(民法192条)にかかわる各種問題はいわゆる受験論点でしたが、193条・194条が出題されて頭が真っ白になったことを覚えています。

その後のこと(何を書いたか、民法の成績はどうだったかetc.)は全く覚えていないのですが、試験委員が「暗記の量だけでなく、その場でしっかり考えること」を求めていたことは痛感しました。

ところが、その後、193条・194条はいわゆる受験論点に分類されて、予備校本で解説されるようになりました。

このように、「裏を掻きたい」出題者と「あらゆる論点を網羅しようとする」予備校とのいたちごっこが続いたようです。私は、その後割りと早く受験を断念してしまったので、その間の状況を身近に体験したとはいえないのですが。

3.最近、あらゆる分野で法改正等が相次いでいます。このような「法化社会」においては、「論点を外されたときにも、法律家らしく論じる能力」の重要性が増しています。

司法試験の出題の内容が新司法試験において事案重視になったことは、時代の必然であったと思われます。旧試験が悪かったとは思いませんが、「思考力のなさを暗記量でカバーする」という悪弊を是正できなかったことは確かですから。

4.さて、最後に対応策について考えて見ます。

(1)「論点」を勉強するとき、「典型的紛争パターン」を意識する。

これで、論点落としが減ります。

(2)「論点」の細かいところだけに目を奪われずに、「そもそも何についての論点なのか」を意識する。

たとえば、契約当事者の間で意図の齟齬があるっぽい時に、それは「契約の成立(意思表示の合致)」の問題なのか、錯誤の問題なのか、分析的に事実を読む必要があります。両者は法律論としては別の問題なので、両方を混ぜて一緒くたに論じてしまっては低い点数しかもらえません。

このように、法律の大まかな地図を意識する上で、「論点」だけを解説した「論点集」は落とし穴になります。ローの教員が「教科書を読め」としつこく言うのは、このためです。

また、いうまでもなく条文が大事です。論点を論じるときに、条文の文言に基づいた解釈のほうが説得力がありますし、そのような能力であれば、他の論点においても応用が利きます。

そして、最も声高に叫びたいのが、次。

(3)事案を読むときは、直感を働かせる。

判例を読むときなど、複雑な事案を無視して判例の規範だけをマーカーで塗る人がいますが、勿体無いです。

事実のうち重要な部分をノートに抜き出して、「事実関係をまとめ」れば、法律論とは別に、「こっちが可哀相かな」とか「この事実は当事者の不注意を示している」とか、いろいろ直感的に思うところがあります。

法的思考力は、このような直感と無関係ではないのです。もちろん、法的正義は日常的肌感覚とずれることも多いので(両者のズレは、私の研究者としての関心事の1つです)、直感だけで法律を語られても困るのですが、法律を離れた直感と、法律家が行う議論(論点)を橋渡しするような学習を心がけていれば、「大きな論点落とし」は避けられます。

あとは、持ち時間との関係で、事案にどこまで深入りした勉強を行うかは、各自の置かれた状況に照らしてご判断下さい。

(ではまた)



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コメント一覧

1. Posted by 受験生    2009年04月06日 23:45
この時節らしい題目を
有難うございます!

はい!
頑張りやす!!
2. Posted by もう一人の受験生    2009年04月07日 00:28
あと1ヶ月でどこまで出来るか分かりませんが、論点を見つけようとするだけでなく、事案から自然と疑問に思われる点を拾い出し、法的に議論する意識で分析する姿勢を、総仕上げとして身につけたいと思います。ありがとうございます。
3. Posted by おおすぎ    2009年04月07日 09:05
>2人の受験生さま

なかなか言いたいことを文章にするのは難しいのですが、私の意図はお二人には伝わったのだと思います。どうか、伸び伸びと頑張ってください!
4. Posted by mame    2009年04月07日 17:08
ありがとうございます。
知識や暗記で勝てない分、
粘って考えたことをきちんと表現して、
勝ちに行きたいと思います。

バカボンのエンディングテーマは、
いい曲ですよね。
最近いつも、頭の中をぐるぐるしています。
5. Posted by おおすぎ    2009年04月08日 08:31
>mame さま

子供の頃はただ面白がっていましたが、今にして、赤塚ギャグのナンセンスとか、あの歌の哀愁とか、分かってきたように思います。「40にして惑わず」でしたっけ。

ところで、今の20代のロー学生には、この会話は通じているのでしょうか・・・
6. Posted by 受験生3    2009年04月09日 01:31
30代のロー修了生には通じておりますwww
7. Posted by 受験生X    2009年04月09日 03:07
空気読まずに非法律ネタを続行しますと。。。
今年華麗に「ミ・ソ・ジ」に突入した私は知りません!

小学校高学年でバブル時代を迎え,塾でランバダ踊りながら野球拳をやり〜(ただし,男同士)

中1で101回目のプロポーズを見て〜
(ちびまる子ちゃんが始まったのも,たしかこの年)

高校ではコムロサウンドが大流行しました

まだまだ若いつもりが〜(泣)
あ,「火曜日のサザエさん」は知っています!
8. Posted by おおすぎ    2009年04月09日 08:14
ふっ、「30にして立つ」ですか、って年齢比べてどないすんねん。
バカボンのパパのエンディング・テーマは(意味不明ですが)いい曲ですよ。受験直前のはずの皆さんが、このブログを見てくれていて、嬉しいようなそうでないような(笑)。
9. Posted by mame    2009年04月10日 13:47
思いのほか、バカボンのパパで盛り上がって、嬉しいです。

最後のシメが、
「冷たい目で見ないで~♪」
ってのがいいんです。
授業中の先生のギャグにも通ずるところが…(失礼!)。

受験生は、今日は模試の中日でお休みです(笑)。
少しは、会社法でも見直します。
10. Posted by おおすぎ    2009年04月10日 15:36
模試だそうですね。体を壊さないように気をつけて下さい。
mameさんの第2段落は、悔しいですが、その通りです(笑)。バカボンネタがなかなか途切れないのが、このブログの良いところです。
11. Posted by mame    2009年04月10日 19:05
たびたびすみません。

昨夜、模試で多くが出払った市ヶ谷から、
寂しそうに肩を落として?帰られる先生の姿を目撃した
という話を聞きまして(苦笑)。
折角の出張質問コーナーが、なんと勿体ない!
次回はみんな居るので、宜しくお願いします。

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