さよならピュアエンジェル

1.
ゆっくりと意識が戻ってきた。
(…っ?)
ピュアエンジェルこと鹿島雪菜は、最初自分がどこにいるか分からなかった。
あたりは暗闇に包まれていて、まったく視界が利かない。
その闇の中から不気味な声が響いた。
「ふふふ…。目覚めたか。ピュアエンジェル」
「…その声はっ」
雪菜は反射的に立ち上がった。紛れも無い、宿敵・ダークスカルの声だ。
「ダークスカル!…お前か?どこだっ」
記憶が戻ってきた。学校からの帰り、一人の道で、不意に衝撃を背中に受けた。
そうか、闇討ちを受けて、今まで自分は気を失ってしまっていたのか。
(油断した…)
だが、正義の女子戦隊・ホーリー・エンジェルズのリーダーである雪菜はすぐに
その持ち前の冷静さを取り戻していた。身体にどこも異常は感じない。
「卑怯者。出てきて正々堂々と勝負しろ、ダークスカル!」
言い放ち、雪菜は右手を高々と宙にあげる。
「ホーリーストール!」
美しい虹色の閃光が走り、次の瞬間、雪菜は颯爽としたブルーの戦闘スーツに
身を包んだピュアエンジェルへと変身していた。

2.
「くふふ…」
不気味な笑い声がとともに、闇の中からぬうっとダークスカルが姿を現した。
「ダークスカル!」
「ピュアエンジェル…ようやくお前とこうして二人きりになれたなぁ…」
名前の通り、漆黒のマントに身を包み、血のように赤い眼をした魔族だ。
「苦労したぞ。我が仔の母親となるお前を、この魔結界に連れてくるには…」
「…なに?わけの分からないことをっ…」
舐めるようなダークスカルの視線に、ピュアエンジェルは最大の嫌悪を感じる。
だが、魔結界に連れ込まれたのは事実のようだ。早く抜け出すに越したことはない。
ピュアエンジェルは腰のベルトからサイキック・ソードを手にした。
「行くぞっ、ダークスカル」
だが、次の瞬間、ピュアエンジェルは思わず動きを止めた。
彼女のサイキック能力に呼応して、いつもは強力なレーザー光を放つソードは
全く無反応のままだった。
「…これは?」
次の瞬間、ダークスカルはけたたましい哄笑をあげた。
「ヒイッヒッヒッヒッ!!…どうした?ピュアエンジェルぅ…」
「貴様…何をしたっ」
ピュアエンジェルは強い怒りを瞳に滲ませ、ダークスカルを睨みつけた。
「気付かないかぁ?ピュアエンジェル…。その首輪に」
「?!」
ピュアエンジェルは思わず自分の首筋に手を当てた。
全く自分の身体に異常はないと思っていたが、そこには明らかに見も知らぬ
黒い首輪が嵌められていた。

3.
「こ、この首輪は?」
さすがに動揺を隠せないピュアエンジェルに、ダークスカルの声が響いた。
「それは、我が魔族の最強の呪文首輪よ…エンジェルぅ」
「…呪文首輪?」
ピュアエンジェルは首輪を取り外そうと試みたが、継ぎ目も何も見当たらない
黒い金属製の首輪を、どうにもすることは出来なかった。
「この呪文首輪をしている限り、お前が持っている能力はすべて喪失するのだ。
お前はもはや、鹿島雪菜という、ただの15歳の少女に過ぎん。
それでもかかってくるか?…試してみろ。クククク!…」
「この首輪のせいで?…こ、こんなのにエンジェルの力が封じ込められるなんて…」
ピュアエンジェルはしかし、持ち前の強い精神力でダークスカルをキッと睨み付ける。
「そんなの信じないっ!」
ピュアエンジェルは跳躍すると、卑劣な魔族の幹部をめがけ、膝蹴りを試みた。
「くくく…甘い、甘いッ!ハハハハ!!!」
ダークスカルは、飛んできたピュアエンジェルの膝に、魔族の容赦のない膂力をもって
拳を振り下ろした。
拳と膝がぶつかる。そして、
グシャッ。
ピュアエンジェルの膝の骨の砕ける音がした。
「…きゃああああああぁぁ!!!」
ピュアエンジェルの悲鳴が闇の結界に響いた。

4.
あまりの激痛に、砕けた膝を抱えて床を転げまわるピュアエンジェル。
「あああぅう・そんな・そんな…」
「ククク! エンジェル…よくも今まで…我が同族を次々に滅ぼしてくれたな。
我が兄もお前に抹殺された…その恨み、今こそ晴らさせてもらうぞ」
ダークスカルはそう言うと赤い目を輝かせ、床に倒れるピュアエンジェルに近づいた。
「ううっ…うっ…」
膝を抱えて倒れているピュアエンジェル。
ダークスカルは、もう一度、その潰れた膝を、思い切り足で踏みつけた。
グシャッ! 
「えっ…うっぎゃああああ!痛い!!痛いいぃ!!!
ピュアエンジェルは床の上でエビのように身体を弓なりにそらして絶叫した。
その表情が、苦痛と恐怖で歪んだ。
歴戦の勇士、正義の女戦士・ピュアエンジェルが初めて見せる表情だった。
「うぐううっ…本当に・私の力が……足が…」
「フハハハ!その悲鳴、最高だ、正義のヒロイン、ピュアエンジェルが情けない
悲鳴をあげているぞ…くくく、だが、まだまだだ…」
ダークスカルはそう言うと、マントの内からエレキック・ホイップを取り出した。
ビィイィィン……!!電気の鞭が発する赤黒いレーザーの炎が伸びた。
「…くらえっ!」
電気の鞭をピュアエンジェルの身体に振り下ろす。
バチイイ!!
激しい火花と、火の燃える匂いがし、ピュアエンジェルの戦闘コスチュームが
無残に引き裂かれ、その下の少女の肌が見えた。
「きゃぁ!ああぁぁぁぁ!!」
全く力が入らず、焼付くように痛む膝。必死で上半身を起こそうとしたところに
電撃鞭が振り下ろされては、避けようもなかった。
ピュアエンジェルは哀れな悲鳴を上げて、床をのたうつ。

5.
ダークスカルの攻撃は容赦無く続く。
電撃鞭は、三度、四度とピュアエンジェルの幼い身体に振り下ろされ
そのたびにピュアエンジェルは悲鳴をあげて、床を転げまわった。
彼女がこれまで魔族を畏怖させてきた青と白の戦闘スーツは無残に引き裂かれ、
エンジェルの精神がサイキックエネルギーを維持できなくなると、その身体から
消えた。もはやそこにいるのはピュアエンジェルではなく、鹿島雪菜という
15歳の少女に過ぎなかった。
「どうした、どうした、エンジェル…いつもの凛々しい姿はどこへ行った?ククク…
ほら、なんなら、この鞭をお前にくれてやるぞ?」
ダークスカルは卑劣な笑みを浮かべると、電撃鞭を、雪菜の前に放り投げた。
誇りの戦闘コスチュームを無残に切り裂かれ、露出した素肌も傷ついて、雪菜は
悔しそうにダークスカルを見上げた。
だが、まだ負けてはいない。仲間たちもきっと自分を探してくれているはず。
まだ戦わなくては。
「う。う…ひ・卑怯者っ…」
雪菜は、それでも、ダークスカルが投げ捨てた鞭を取ろうと、必死に足を
ひきずりながら床を這い始める。
「ふふふふ…ほらほら、がんばれ…あと5秒待ってやる…5,4,3,2,1…ゼロ。
ああ、惜しかったなぁ……」
どこまでも卑劣な魔族の幹部は、ニヤニヤと笑いながら、あと数センチで
鞭に届こうとした雪菜の右手を……グシャッ!と踏みつけた。
「ぁ・あ…ああっぐうああああああ!!手が…!!うぁぁ・卑怯者ぉおおお!!」
雪菜が悔し涙を流しながら、絶叫する。
「卑怯者?おいおい…この誇り高いダークスカル様を、卑怯者呼ばわりとは……。
お仕置きが必要だな」
ダークスカルはニヤリと雪菜を見下ろし、靴の踵で雪菜の細い指を思い切り踏みつけた。
グシャ。
雪菜の指の中指と薬指、小指の骨が複雑に割れる音が響いた。


6.
「ああ!ああッぎゃあああああ!ひああああ!!」
雪菜は、踏まれたのと反対側の左手で、ダークスカルの足首を掴んで、
悲壮な声で絶叫する。
「…うああ・やああ・やめてやめてええ!」
図らずも、ピュアエンジェルが悪の魔族に許しを求めてしまった瞬間であった。
だが、ダークスカルの歪んだ欲望は、それでも満足しない。
「やめて?モノを頼む時は「やめてください」だろう?それくらい教わらなかったか?」
そう言うと、さらに踵の重心を移動させ、残った人差し指の骨を踏み砕いた。
「 ぎゃああああ!あぁぁぁ!!く・くぅうう…」
だが、ピュアエンジェルの精神はそこで踏みとどまった。
涙をいっぱいに溜めた目でダークスカルを睨み上げる。
それだけが今のピュアエンジェルに出来る抵抗だった。
「いいね、いいねえ〜…その強気の表情。それでこそ、我が永遠の宿敵、ピュア
エンジェルだよ。ククク……もっともっと俺を楽しませてくれ」
激痛に耐えるピュアエンジェルの脳裏に、4人の仲間たちの姿が浮かぶ。
クリスタル、パール、アメジスト、アクア。
きっと、必ずみんなが来てくれる。もうすぐ。
それまで耐えるのだ。
「っう……う・う…こんな・卑怯な手段でしか…勝てないクセに…。
お前など……みんながきっと…」
だが、ダークスカルの攻撃の本領は、これからが本番であった。
「ククク…そうかそうか。仲間たちを信じる心。美しいなぁ…」
ニヤリと笑うと、ダークスカルはピュアエンジェルに向かって手を伸ばし、呪文を唱えた。
「…ベホマーダ!」
赤い凶悪な閃光がブラックスカルの手から迸る。
バリバリバリバリッ!!!
ピュアエンジェルの戦闘コスチュームは遂に全て引き裂かれた。
痛々しい傷だらけの全裸姿で、ピュアエンジェルは吹き飛ばされた。

7.
「あううっ…!」
魔族の結界の中、吹き飛ばされたピュアエンジェルは、ふらふらと
上半身を起こし、ようやく自分が全裸であることに気付く。
「…?いやぁっ…!」
剥き出しにされた身体を、思わず手でかばってしまう。
それはもはや戦士ではなく、ただの哀れな少女の姿であった。
だが、そんなピュアエンジェルの姿を見ても、魔族の残虐な心は
哀れを覚えることなどない。徹底的に叩き、嬲り、虐げ、屈服させる。
それが魔族の戦い方だ。
「…ニードラ!」
さらなる攻撃呪文を、ダークスカルは唱えた。
何万本というミクロ単位の細く鋭い針が、その掌から飛び出す。
いつものピュアエンジェルであればたやすく跳ね返せるが、今の彼女に
それだけの力は残っていない。
必死で防御の姿勢を取ろうとするピュアエンジェル。
だが、それも空しく、何万本の細い針がピュアエンジェルの
繊細できめ細かい肌に突き刺さり、そのまま身体の中へ入っていった。
「ああ!あぁぁあ!!…」
絶望の悲鳴。
そして、身体の中で暴れだした針は、どれほど肉体を鍛え上げた戦士でも
耐えることの出来ない激痛を、身体の中から与えるのだ。
「あ・あ…っきゃああああぁぁああ!あああぁぁぁ!!」
ピュアエンジェルは、白い裸身をくねらせ、身悶え転げる。
「痛い.痛い…!あぁぁ・熱い・ああああ!!!死んじゃう・あううう!」
ダークスカルは、わざと優しげな声を出し、のた打ち回るピュアエンジェルに
声を掛けた。
「さぞ痛いだろう?…身体の中で、たくさんの針が暴れまわっているからなぁ…。
可哀そうに」
しかし、その表情は残虐な笑みに満ちている。これほど楽しいゲームがあるだろうか。
「針を消してやることも出来るぞ?…ダークスカル様、おゆるしください…と
一言言えばいいんだ…どうだ?…ククク……」
「うぅう・あうううう…だ・誰が・あなたみたいな・卑怯者にそんな・こと…
言うもんですかっ…」
耐えられぬ激痛に顔を歪めながら、正義の戦士・ピュアエンジェルは
必死に言い切った。絶望的な闘いの中で。

8.

「フフフ…そう言うと思っていたよ…まだまだ楽しませてもらわないと、
これまでのお返しには全然足りないからなぁ」
ダークスカルの赤い目に、さらに激しい炎が宿った。
この美しく気高い最高の少女を、何としても屈服させ、支配してみせる。
「さあ、次のステージだ」
倒れ付すピュアエンジェルに歩みより、その前にしゃがんだダークスカルは、
無造作に、ピュアエンジェルの右の乳房を鷲づかみにすると、凶暴な力で、
幼い乳房をグシャア…!!と揉み潰した。
「いやああ!!うぎゃあああああああああああ!!!」
耳を裂くような悲鳴。
揉み潰される乳房の痛みと、身体の中の針が中から肉に突き刺さる痛み。
この世のものとも思えない激甚な苦痛がピュアエンジェルを襲った。
そして、次の瞬間、信じられないことが起きた。
15歳の少女にはあまりに無慈悲な激痛は、ピュアエンジェルの肉体の機能を
麻痺させてしまったのだろう。
白目を剥いて絶叫するピュアエンジェルの股間から、
ぷっしゃぁぁぁあああああ…
と、激しく水が迸った。
ピュアエンジェルが、失禁したのだ。
「おやぁ?…ハハハ……これは驚いた!」
ダークスカルの眼が歓喜に満ちる。
「正義のヒロイン、民衆のアイドル、ピュアエンジェルが…おしっこを
漏らしたぞ、アハハハハ……」
笑いながらも、ダークスカルは乳房を握りつぶす力を緩めない。
ギリギリ、ギリギリ……
乳房が赤黒く変色してきていた。
「さあ、エンジェル、女の命である乳房が…俺に引きちぎられてしまうぞ?…
いいのか?ククク!」
失禁を嘲笑われても、もうピュアエンジェルに羞恥の気持ちは湧かなかった。
ただ、真っ黒な恐怖が湧いてくる。女性の命である乳房を引きちぎられる…。
「ああぐうぅあああああ…イヤ・いやああぁあああ…助けて・みんな……イヤよぉ」
ピュアエンジェル、いや、少女・鹿島雪菜は、ぼろぼろと涙を流した。

9.

恐怖にまみれ、戦士であることを忘れ、ひたすら助けを求める雪菜。
「ムダだよ、エンジェル…結界を張ってあるこの場所まで、お前の信頼する仲間たちも
さすがにたどり着くことは出来ない」
嘲笑うように雪菜を見下ろし、冷酷に告げるダークスカル。
ギリギリギリ……と乳房を握りつぶす手にはさらに力が加わり、雪菜の乳房からは
とうとう、血が滲み始めていた。
「強情を張っていていいのかな?…本当に、乳房をひきちぎってしまうよ…。
どうかゆるしてください、…それさえ言えば、手を緩めてあげるよ…ククク…さあ、
どうする…?」
ギリギリッ、ギリギリッ…雪菜の乳房は根元から潰され、悲惨な形にへしゃげている。
それに耐えろというのは、あまりにも酷な要求だった。
身体の中の針と、乳房の激痛に屈し、ついに…ピュアエンジェルの精神は、折れた。
「ひぎぃいいいい・あ・・あぃううう…うぅう・う。う…ゆる・ゆるし・て…
許してくださいッッ…やめてぇぇええぇぇぇ!」
ダークスカルの口が耳元まで裂けた。
ダークスカルはこれまでの生涯で味わったことのない喜びを感じていた。
「もう一度ッ!お願いするんだ、ピュアエンジェル!…」
ギリッ、ギリッ、ギリッ……・
乳房に廻る血は止まり、乳房は真っ黒に変色してきている。
要求に応じ、ピュアエンジェルの哀願が、魔族の結界の中に響き渡った。
「うぐぁああああ!あああああ…ひ・ひぃい…ひぃいいい…許して・許して…
どうか、許して下さいッ!!お願いですうッ!!!」


10.

正義の戦士・ピュアエンジェルは、魔族ダークスカルに屈服した。
ダークスカルは紅く長い舌を出して笑い、己の頬をぺろりと舐めた。
そして…約束どおり、乳房を握りつぶしていた手を、緩めてやった。
少女の乳房は、真っ青に変色してしまっていた。
「そうかそうか…ピュアエンジェル、今、お前は確かに…この魔族の王、
ダークスカル様に、屈服したのだね?…」
まず、乳房の激しい痛みから解放された雪菜に、その言葉に逆らう気力は
もう残っていない。
「ううっく・う…ぅうう…ひっく…は、はい…」
泣きじゃくりながら、雪菜はうなずく。
あのピュアエンジェルが…魔族にとって、恐るべき存在だった戦士が、
今、確かに敗北を認めて項垂れている。
そう思うだけで、ダークスカルの精神はどこまでも高揚していく。
「ようし、いい子だ。そうかそうか…」
卑劣な笑みを浮かべながらも、一転して泣きじゃくる雪菜の髪を撫でてやる。
「分かればいいんだ…さあ、俺をダークスカル様と呼んでみろ…針の傷みも
消してやるぞ?」
この痛みを消してやる、という誘惑に、もう雪菜は逆らうことが出来ない。
(ここまで頑張ったんだもの…)
思考力を失った中でぼおっと思う。みんなは来てくれなかった。
これだけ耐えたのに。…みんなは、間に合わなかった。
雪菜は、ゆっくりと、そのつつましい口を開いて、言葉を口にしていった。
「ダークスカル…さ・ま…………」
ダークスカルの興奮しきった高笑いが、闇の結界の中に響いた。
だが、それを聞いても、もう雪菜の心に抵抗の闘志は甦っては来ない。
自分は悪に負けたのだ。正義は敗れたのだ。
そして、身体の中の針の傷みが、すう…と消えていった。
またも、ダークスカルは、自分との約束を守ってくれたのだ。
「よくここまで頑張ったな。ピュアエンジェル。だが、もういいだろう。
さあ、俺に忠誠を誓え……そうすれば、殺さずにおいてやる…断れば、さっき以上
の苦しみ、地獄が待っているぞ…」
さっき以上の苦しみ。いやだ。もうそんな辛い目には会いたくない。
「さあ、ピュアエンジェル…俺に忠誠を近い、魔族に堕ちろ…」
雪菜は、いや、ピュアエンジェルは、涙をいっぱいに溜めた目で、新しい主人を見上げた。
そして、誓いの言葉を口にしていった。
「…ダ…ダークスカル様に、忠誠を…ち、誓い…ま・す」

11.

戦いは終わった。
一方的なダークスカルの勝利だった。
あとは、仕上げの儀式が待っている。
ダークスカルは自分に忠誠を誓った新たなしもべに言い放つ。
「ピュアエンジェルよ!お前の忠誠を受け容れてやる。その証をこれから
お前に刻む…。口を大きく開けよ!」
「っぁああ…う…ハイ…」
おそるおそる、正座をして、雪菜は口を開けていった。
自分がこれからどうなってしまうのか怯えながら。
「ネクローム…出でよ!」
ダークスカルがそう言うと、その掌に、ねばねばした粘液にまみれ、
身体じゅうに細い触手のある黒い不気味な、3センチ大ほどの蟲が現れた。
ダークスカルは指でそのおぞましい蟲を摘み上げると、開かれた雪菜の口に
持って行き……口の中にそれを、落とした。
雪菜の口の中で、キューキュー…と鳴きながら不気味にうごめく蟲。
「さあ、ネクロームを飲み込め。ピュアエンジェル。この蟲はお前の身体に
棲み付き、お前の身体を魔族の精液で妊娠できる身体に作り変えるのだ」
「ひっっ!!うぐうう!うううう!!」
雪菜の目の中に大きな恐怖の色が宿った。
この蟲を飲んでしまったら…もう自分は、戦士どころか、
人間ですらなくなってしまう…。
恐怖に目を見開き、口の中で暴れる生物に吐き気を催しながら、雪菜は涙を流し
救いを求めるように、虚空を見上げる。
「っぉう・ぇえ…う・う…」
しかし、どこからも救いの手はやってこない。
「さあ!ごくりと、飲み込め!…魔族に堕ちろ!ピュアエンジェル」

12.

鹿島雪菜の、最後の恐怖を、ダークスカルは全身で感じていた。
あの凛々しかったピュアエンジェル。そのエンジェルが、いまやこれほど
哀れな姿を晒していることに、征服感を感じて満足する。
「どうした、飲み込めっ!ピュアエンジェル。お前はもう俺に忠誠を誓ったのだ!」 
ブルブルと恐怖に震えるピュアエンジェルに、ダークスカルは主の威厳を帯びた
声で、命じた。
「ひぅ・うう...ぐうう…」
…ゴクン。
ピュアエンジェルの喉が、大きく動いた。
「……フハハハハハ!…」
ダークスカルの、完全勝利を告げる高笑いが、虚空に響いた。
屈服の証として蟲を飲み込んだ瞬間、ピュアエンジェルの額には、
ダークスカルと同じ魔族の黒いおぞましい蛇の紋章が浮かび出た。
ピュアエンジェルは、魔族に堕ちた。
蟲は、すでに雪菜の身体を犯し始めている。
数日かけて、雪菜を魔族の精液で妊娠できる身体に作り変えていく。
そうしたら、この最高の奴隷に種を付け、己の仔を産ませるのだ。
ピュアエンジェルという最高の母体に、魔族最強の戦士である自分の精液を
注ぎ込んでやることで、至高の強さを秘めた魔族最強の戦士が生まれるはずだ。
「私…もう…元に戻れない………みんな、ごめんなさ・い……」
ダークスカルの耳に、雪菜のつぶやきが届いた。
蟲に犯されるうちに、そんな思いは消え去り、魔族への忠誠心だけが
雪菜を支配していくだろう。
強大な敵が恐怖する表情。
それを見ることほどダークスカルにとって、最高の愉悦はなかった。
しかし、それも終わってしまった。
あれほど魔族を恐れさせてきたエンジェルズのリーダー、ピュアエンジェル。
彼女も、もうその愉悦を味あわせてくれることはない。
哀れにも全裸で正座をしたまま、ピュアエンジェルは自分を見上げている。
次の命令を待つだけの奴隷となって。
(つまらないな)
…しかし。そうだ。
まだ、あと4人も、女戦士はいるではないか。
クリスタル、パール、アメジスト、アクア。
いずれも、ピュアエンジェルに負けず劣らず、気高く美しい戦士ばかりだ。
(…お楽しみは、まだまだこれからというわけか)
ダークスカルの中に、また、新たな愉しみを求める心が甦ってきた。
彼はニヤリと笑い、心細げな雪菜に一瞥をくれると、大股で結界を出て行った。

(おわり)