総合的な学習によせて

に親しもう〜
自分たちの町にもあるよ
が〜」

〜地域・くらしに根ざした総合学習・国際理解教育の確立をめざして〜

大阪市立北巽小学校5年生の実践から

はじめに

本校は『猪飼野』の南東部に隣接する巽地域の北部にあって、東西に細長いエリアを校区にもち、児童数529名の生野区にあっては大規模校といわれる。外国籍児童数は157名、うち韓国・朝鮮籍児童は156(119名、234名、320名、430名、519名、634名。民族学級入級数は学年が上がるにつれて増加傾向にあって、この数を上回っている)で、依然として全国一の在籍数となっている。1年生から6年生までは「入級原則」に基づいて、韓国・朝鮮籍を持つ子どもは勿論、ルーツを持つ子どもも含めて、民族学級には200名に届く子ども達が入級している。学年別の活動を基本に民族学級実践をすすめているが、なかでも、6年生は41名と最大学年で、1学期末の暑さのなかでの学習はしたたる汗をぬぐいながら、コリアタウンのフィールドワークの事前学習に取り組む姿は印象的であった。

この5年間で、韓国・朝鮮籍の子ども達は、100名ほど減っている。全児童数の30名減に比して、韓国・朝鮮籍児童の減少数が際立っているが、これは近年の在日社会の動向を端的に表現していると考えられる。しかし、毎年のごとく展開される民族学級の活気に満ちた活動や元気いっぱいの民族保護者会のオモニ達とのやりとりにおわれていると、"減っている"という実感は湧いてこないのが正直な気持ちである。といっても、今年度に入って1年生の19名という韓国・朝鮮籍児童数については、昨年度の6年生の入級児童51名の数と比べて"減っている"と感じざるをえない。1年生については、学年当初は毎年のことであるが、ルーツを持つ子どもについては兄弟姉妹関係を除いて、把握できていない。民族学級実践や学年実践、民族講師による課程内実践や給食入り込みをはじめとしたさまざまな子どもたちとの出会を通じて、ルーツを持つ子どもたちの実態を把握しているのが本校の取り組みの現状である。

一方、本校は一貫して「本名を呼び名のる」実践をすすめているが、今年度当初の本名生活児童は10%を越えるにとどまっている。改めて民族学級実践をベースに多民族共生教育・国際理解教育を通じた「ちがい」を認め合い「自分」を大切にする教育の大切さが痛感されている。

本校では、ここ数年「外国人の子どもの教育」に加えて、教育課程内での「民族講師のティームティーチング」の実践をカリキュラム配置して、年間プランのもとに実践をすすめている。特に、昨年度から「総合学習」に位置づけることによって、民族学級実践と学級・学年実践との交流・連携をはかり、課程内実践・国除理解教育の充実を目指すことを目標に、今回の実践はすすめられている。

"歴史・文化・共生の町猪飼野・コリアタウン"の隣接地域で、朝鮮人多住地域の本校区にあっても、民族学級に入級している子ども達にとって、民族名ましてやハング表記の民族名については自分のイルを書く読むことでいっぱいでの状況である。仲間の民族名についてさえ、充分に覚えていない現状におかれている。学校としても、「本名を呼び名のる」実践をすすめていくことを基本的に確認して日々の取り組みがすすめられ、民族の子どもたちの中には、学習プリントやテストのイル欄にハングで民族名を書く子どももいるが、まだまだクラスに中でハングを身近に感じるまでには至っていない。このような中で、民族の子どもはもちろん日本人の子どもにとっても、もっと身近に「ハング」を学習し、地域の暮らしの中で「ハング」に出会うことによって、民族名はもとより韓国・朝鮮の文化に親しみを実感してもらいたいという意図で、民族講師と相談しなから実践内容を創ることに心がけてきた。校区をくまなく歩きながら、「ハング」を見つける作業は、思った以上の収穫で、大変楽しくいろんな出会いや発見もあって自分自身にとっても大きな学習成果であった。この学習を子ども達と分かち合うことができればとの一心で今回の実践を始めることとした。

1.課程内実践から、総合学習・国際理解教育に位置づけて

 総合的な学習として、実践ブランにそって隣国の言葉である朝鮮語・ハングの表記や身近な単語の意味を学習した。特に心に留めたのは、友だちの民族名・本名を正しく呼べるようになるためにも、地域やくらしの中にあるハングをできるだけ取り入れ親しみを感じさせながら実践をすすめることであった。ここでは、5年生の実践を紹介する。

5年生は、学年児童は82名、3クラス。韓国・朝鮮籍児童は34名で、本校にあっては比較的多い学年である。ルーツを持つ子どもは14名。民族学級には、ルーツを持つ子どもを含めて44名が入級している。

2.実践のねらい(4時間)

◎自分たちの町の様子を知り、(ハング)に親しみを持つ。

◎友だちのイルを正しく読む。

  ※学習活動 第1時 ・の成り立ちについて知る。

    ・自分たちの名前をで書く。

   第2時 ・友だちの名前を読む。

3.子どもたちのようす

@1時間目では、「の成り立ちを知り、自分たちの名前をで」書き表した。成り立ちについては、5年生の1学期に民族学級で学習していることもあって、覚えていることを学級で発表できたりする場面ができ、民族学級での様子を学級の友だちに伝えることができた。

 自分たちの名前をで書き表すときには、民族学級の子どもたちはいつもより丁寧にそして、じっくりと自分の名前に向かい合い書いていた。また、学級の友だちは、初めて自分の名前を、??で書き表すことに緊張していたが、50音別のカギャピョ(表)から探しだす表情では「本当に書けるのかな?」と感じていた子どもたちが、書き上げた時には、緊張が解けて「書けた!」と満足感に浸っていた。

 日本語で考えた単語をで書いて発表する時には、学級の子どもたちみんなで少しは「読めた」「書けた」ということを共有できたように感じた。

A2時間目では、前時のまとめに、子どもたちに問いかけた宿題からスタート。

 「さぁ、みんなのお家の中にも、??の書いてあるものがあった?」の問いかけに

「あるあるが・・・」

 「冷蔵庫を開けるとキムチやのりそれに、コチュヂャンの容器。」

 「韓国の親戚の人からもらった、これノート、鉛筆。」と差し出して見せてくれる子ども。

「ジャンバーのタグにがあった。」

 「お母さんが持っているビデオに、が書いてあった。」

など、自分たちで見つけてきたものを、民族学級の子どもたちもまた、学級の子どもたちもいっしょになって自慢げに答えているのが印象的だった。

 そんな雰囲気の中、「ユヂャチャ(ゆず茶)」の容器やのり、ラーメン、コチュヂャン、鉛筆、CDなど1つずつ実物を取り出すと「あっ知っている」「食べたことある」「飲んだことある」と活発な意見がかえってきた。そんな様子を見て「さすが北巽の子どもたちだな〜」と、思った反面、想像以上の反応に嬉しく感じた。

 「こんなにたくさん、みんなの身の回りに??があるね。なんでかな?」

 「韓国人が住んでいるから」と次への展開。

 「では、どんな所にがあったらいいかな?」

 公共施設である駅や区役所、図書館など考えての意見。もう少し自分たちの近くを考えていくと、コリアタウンそして、私たちの校区・・・お店の看板やメニューにあると。「あ〜○○さんの家の近くや。」「この前そのお店に食べに行ったよ。」また、場所を説明していくと「右に曲がったら、そう言えばある。」と、特に校区の写真を提示すると興味深い意見が返ってきた。

B3時間目は、写真で見たお店の看板などのを読んでみることにした。学習を始めると、「あの○○お店の前に、友だちと見に行ってきたよ。」「こんな近くにあるとは思わなかった。」と、自分たちで校区探検をしてきた様子を伝えてくれた。

 次に、お店の自分たちでカギャピョを使って読んでみようと、隣同士のグループで取り組んだ。“スラスラと読めていくグループ”“一文字ずつ探すのに手間取っているグループ”と様々ではあったが、時間をかけて読めていくことで「ソこうでいい?あっている?」と、聞いてくる子どもたちの元気な声が、教室を賑やかにしていきました。 

C4時間目は、今回の学習のまとめです。考えたことや思ったことをだれもが伝えられるようにと、感想文にまとめた。

子どもたちの感想から

私は、総合でキムハオク(ソンセンニム=先生=民族講師)と一緒にをべんきょうした時は、写真を見て読んでみじかい時間で(510分くらい)67個あるのメニューを全部読んでちょっと(いっぱい)ほめられてうれしかった。土、日曜はお姉ちゃんにやノート、ちょうせん学校のきょうかしょを見してもらったり、でかいているプリント見してくれて二人でをよみながら、算数の問題をおしえてもらったりかんこくのうたをおしえてくれたりして、でもまだまだおぼえていないから、こんどもおしえてもらいます。

アボヂがかんこくでは、ロッテがゆうめいだと言っています。ロッテのあめが家にあります。(かんこくの


私はをいっぱいしっています。なぜかと言うと、おばあちゃんが何回も友達と「かんこく」へ行ったことがあるからです。私は、おばあちゃんとその友達からをいっぱいまなべました。でも学校で教えてもらう方が分かりやすかったです。に教えてもらえてほんとうに「よかった。」と思っています。あと、おばあちゃんとよく行くのが、コリアタウンでおばあちゃんとキムチの材料を買いに行ったり、プールに入ったり、コリアタウンで「かんこく」の料理も食べました。そして、たぶん、みんなはしらない所に「かんこく」の町とも言っていい所があるんです。夏で「かんこく」の「ちょ一から」のレーメンを食べました。チョゴリも買ってもらいました。学校でみんなに「じまん」したいです。すごく「かわいかった」です。ちなみにすごくあつかったです。

民族学級未入級児童より


私は、はじめて「」の勉強をしました。最初、私の名前のだけでもおぽえれるかなあ〜と心配でしたが、ちゃんとおぼえれるようになっただけでもうれしかったです。色々な形でおもしろいので興味をもちました。そして、生野区の中でも韓国の食べ物とか「コリアタウン」など色々なお店などもあり、私は「この町には韓国の人がいっぱいいるんだなあ〜」と思いました。そして、いろいろなをおぼえたら、また書いているのを、読んでみたいです。を読めるようになると、もし韓国に行ったら便利なのでおぼえたいです。私は、日本人だから民族学級で勉強できないけどまた、といっしょに勉強をしていきたいので、またやりたいです。私は、コリアタウンに行ったことがあります。いつも、ごまの葉っぱ・キムチなど買いに行きます。私の家族は、ごまの葉っぱが大好きなのでまた行きたいと思います。

日本人児童より

4.実践を終えて

 「自分たちの町を知り、に親しみを持つ」をねらいにおいてきたように、〜(カギャコギョ〜、日本語のあいうえお〜に当たる)としての文字を知る・ローマ宇の仕組みと同じ……としてだけの学習にとどまらない実践を念頭において進めてきた。の学習をローマ宇式に読み・書くという実践だけには終わらせたくなかった。確かに、導入の場面では、「50音図」に準じたを用いの仕組みや読み方のルールについては指導をしたが、生活の場面での学習においては、民族学級で使用しているカギャピョを使用し、それを基にして子ども達にはの読み・書きを指導した。

今回の実践で一番こだわってきた「親しみをもつ=友だちに親しみを持つ」ということが、実際の授業の中で、子どもたちの声から出てきたように、ひとりひとりに持つことになったように感じることができた。子ども達は、毎日の暮らしの中に地域の中に、これほどたくさんのがあることに驚いていたし、逆にこのことに気がつかなかったことに「へえっー」と不思議そうな表情さえ見せていた。また、家のすぐ近くにの屋号の店があって、そこの経営者の元へ友だちの用事でよく行っていたことを思い中すなど、日ごろ学校では出てこない子ども達の生活も浮上してきた。文化に囲まれて生活をしていることが、この実践をきっかけにして教室の中ででてきたことも、わたし達にはうれしいことであった。

また、友だちのイルムを学級で学習し、正しく読むことによって、なかなか本名を呼び・名のれていない子どもたちにとっても、自然に自分のことが言え、また、受けとめてくれる仲間がいるということを改めて感じことができた。なによりも民族学級の子ども達が本来の姿・元気な姿を出せる場が学級にもあるという「自信」へとつなげることができた。

ありきたりになるかと思うが、民族学級で実践してきたものを学級につなげていく大切さを、子どもたちの様子を通じて痛感できた。充分とはいえないが、今回の実践が民族学級と学年・学級とをつなげるもののきっかけとして、今後も実践を展開していきたいと思う。

今回の実践では、子ども達の暮らしの中に、思った以上に、韓国・朝鮮文化が溢れており、日本人児童にとっても韓国・朝鮮の食文化が生活の中に根ざしていることが見えてきたと感じている。ただ、子ども達自身がそのことに気づき、そのわけについても思いをめぐらしてほしいと願っていたが、この点に関しては、正直に言って子ども達の側からの反応は弱かった。

この点に関しても、課題整理をしながら、今後の実践の中で解決していきたいと考えている。

国際理解教育での民族講師のティームティーチング

目標

◎ ちがいを認め合い、自分を大切にする学級・学年集団づくりをすすめる。

◎ 民族学級実践と学級・学年実践との交流・連携をはかる。

実践内容

学年

学  習  材

実施時期

時間

学級数

1年

「わたしと民族学級」

「韓国・朝鮮のあいさつ

「韓国・朝鮮の民話を聞こう」

「こんなこと できるようになったよ」

4月〜5月

5月

9月

1月

1

1

1

1

学年で

3

3

3

2年

「わたしと民族学級」

「世界のいろいろな楽器を楽しもう」

「大きくなったわたし」

4月〜5月

6月

2月

1

2

1

学年で

3

3

3年

「わたしと民族学級」

「ハングルって、どんな文字」

「わたしたちの町『生野』を知ろう」

「みんなで『カンガンスルレ』を踊ろう」

4月〜5月

6月

10月

1月

1

2

3

1

学年で

3

3

3

4年

「わたしと民族学級」

「ハングルって、どんな文字」

「カルタ遊びをしよう」

「大阪、生野区に韓国・朝鮮人がたくさん住んでいる理由を調べよう」

4月〜5月

10月

12月

1月

1

3

2

(3)

学年で

3

3

(3)

5年

「わたしと民族学級」

「ハングルって、どんな文字」

「韓国・朝鮮と日本文化とのつながり」

「チヂミ作り」

4月〜5月

6月

10月

1月

1

3

2

2

学年で

2

2

2

6年

「わたしと民族学級」

「ハングルって、どんな文字」

「日本と韓国・朝鮮からみた『豊臣秀吉』」

「日本と韓国・朝鮮からみた『第二次世界大戦』」

「キムチ作り」

4月〜5月

6月

10月

11月

2月

1

2

2

2

2

学年で

3

3

3

3

             北巽小学校 「外国人の子どもの教育について」より