一迅社 一迅社文庫 著者:十文字青 イラスト:ま@や
あらすじ
よんじょうしいか【四條詩歌】
家が隣同士の幼馴染み。初恋の相手から、歴代の好きな人、初体験の相手まで知っている。
僕の部屋の気の置けない住人。
おのづかなち【小野塚那智】
第九高校電研部部長。かなりの美人だけど、そうとうの変わり者らしい。
クラスでの小野塚那智観賞は僕の趣味。
はぎおきほ【萩生季穂】
ろくに話したこともないクラスメイト……あと伊達眼鏡。
なぜか突然「わたしを手伝ってくれない」と言われた。
ヴァンパイアノイズム[vampire:no:ism]
第九高校を舞台にした、せつなくて、ほんの小さな青春ラブストーリー
【批評】
どうしても書きたくて、書かずにはいられなかった。
十代、二十代の方々に届けたくて書いた物語だとは作者さんの談ですが、
そうおっしゃられるだけのテーマであって、
分かりやすく、同時に伝わりやすいテーマだったと思います。
あっしが真っ先に思い浮かんだフレーズは“命短し恋せよ乙女”。
死というものはいつも隣にあるもので、
突然降りかかることもあれば、ジワリジワリと蝕むこともあります。
とにかく言えるのは、死がいつ訪れるかは本人にはまったく予想できないことです。
死は誰にも等しくもたらされる。それは誰もが分かっていることなはず。
ならば、なぜ人は一生が有限であることを知りながら無為な時を過ごすことができるのか。
逆に言えば、死があまりにも恐ろしいことだと分かっているからこそ、
人は死から目を背け、忘れているからこそ無為な時を過ごすことができる。
だけどいくら目を背けても生は有限であって、
そして青春とも言うべき十代はホントにわずかな時間しかない。
後悔しないように生きる。つまりは死んだときに後悔しないような人生を送ること。
それがいかに難しいか。
でもだからこそ。
あがきもがいてみてもいいんじゃないだろうか、
やりたいことがあったら、とりあえず始めてみてはどうだろうか。
そんなことを改めて教えてくれる物語だった気がします。
ちなみに、死をどれだけ重く受け止めているか。
上中下で分けたようなヒロイン構成なので、挿絵のような展開は期待しないほうが吉です。
いちおうヒロインは萩生さんですが、
十文字青先生らしくある程度のリアリティを含んだ青春はなかなかにシビア。
ヒロインとの恋物語が尊ばれるライトノベルにあっては、
やはりちょっぴり異質な作品かもしれないですね。
ただヒロインとの恋愛についても、
どうもライトノベル読者が好むような直球勝負ではないし、
物語にしてもどこか起承転結が曖昧なので、読後は『おや?』と思うこともあるかとは思いますが、
これは読んで損はない作品だと思います。
一つ一つの言葉といい心理といい、ここまで心に響くものが書けるのはやはり流石です。
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