突然ですが、マクロスの英語吹替え版がアメリカで発売されたのはご存知でしょうか。マクロスといえばリンミンメイ。リンミンメイといえばやっぱり飯島真理さんですが、何とこの英語吹き替え版でも飯島真理さんがリンミンメイの役を演じています。
ご存知の方も多いかと思いますが、飯島真理さんは20年近くロサンゼルスに本拠地を移されており、英語もペラペラ。ですので、今回の英語吹替え版でも飯島真理さんが何ら支障なくリンミンメイを演じられるというわけです。
日本のアニメが数多くアメリカに輸出されている中、吹き替えのために声優が変わることで違和感を覚えることは少なくありません。アメリカのコアなファンの中には吹き替えよりも英語字幕の方を好む方が結構いるようです(このあたりの事情はロミさんの専門分野ですね^^)。 こうした状況の下、マクロスのようにリンミンメイだけでも日本語版と同様英語版でも同じ声優に同一キャラクターを演じてもらえるというのは、キャラクターのイメージを大切にするファンからすれば非常にうれしいことです。[1]
それはともかく、今回は声優の権利についてご説明したいと思います。
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1. 著作権法における声優の立場 |
まず、声優は著作権法上「実演家」として保護されています。[2] 実演家とは、「俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行なう者及び実演を指揮し、又は演出する者」のことをいい[3]、声優は映画俳優や歌手と同様に実演家としての保護を受けることになるのです。
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2. 声優に認められる権利
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では、声優にはどのような権利が認められているのでしょうか。ここでは、主要な権利についてご説明したいと思います。
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(1)録音権・録画権
ア ワンチャンス主義
声優には録音権・録画権が認められており[4]、声優の声を無断で録音してアニメその他に使用する場合には必ず声優の許諾が必要となります。
また、声優には、放送権・有線放送権[5]や送信可能化権(インターネットにより配信する権利)[6]が認められており、声優の声を無断で放送したり、インターネットに配信したりする場合にも、やはり声優の許諾が必要となります。そこで、これらの行為をするにあたって、声優は出演料を受け取ることができるわけです。
しかしながら、これらの権利は一旦録音・録画されてしまうとなくなってしまいます。[7] これをワンチャンス主義といいます。つまり、一旦アニメに声による出演をし、その声が録音されてしまうと、その後は何度再放送されても、またはDVDとして販売されたとしても、著作権法上声優はそのこと自体につき何か主張する権利はありません。
したがって、アニメが、再放送の時点やDVD化の時点で非常にヒットしたとしても、最初に取り決めた出演料に加えて何か支払いを受ける権利が認められないことになります。
ですので、声優としては、最初に出演するときに、本放送ではいくら、再放送一回ごとにいくら、DVDが販売された場合にはいくら、と予めしっかりと契約で決めておくことが非常に重要となるのです。
イ 声の出演料事件
このワンチャンス主義を背景に起きたのがこの「声の出演料事件」です。
この事件[8]は、いったんテレビ放送されたアニメがビデオ化されて販売されたにもかかわらず、アニメ制作会社が声優に対して追加の出演料を支払わなかったことから、声優が出演料の支払いを求めて、アニメ制作会社及び音声制作会社を訴えたものです。
前述のように、著作権法上ワンチャンス主義が採用されていることから、声優には著作権法上ビデオ化にあたって出演料を求めるための権利は与えられておりません。
そこで、アニメ制作会社と声優との間で出演にあたって、ビデオ化にあたって出演料の支払いを行うことが合意されていたかが主要な争点となりました。
なお、通常アニメ制作会社は直接声優と契約をしておりません。音の制作に関しては音声制作会社に外注し、音声制作会社が声優と契約を締結して声を入れてからそれを納入するという構図になっています。
本件では音声制作会社が閉店休業状態になっており、出演料を支払うだけの資産がなくなっておりましたので、声優と直接契約関係のないアニメ制作会社にも出演料を直接請求できるのかについても本件では問題となりました。
この事件において、裁判所は、まず、声優が加盟する日本俳優連合(日俳連)、日本動画製作者連盟(現在の中間責任法人日本動画協会)に加盟する各アニメ制作会社、及び音声製作者連盟(音声連)に加盟する各音声制作会社との間で協定書が、そしてそれに基づいて日俳連と音声連との間の覚書があることを認定し、その中で「実務運用表」に基づいて再放送や目的外利用をした場合に声優に新たに出演料が支払われていたことを認定しました。
その上で、この「実務運用表」にはビデオ化に関する記載はなかったものの、事実上「実務運用表」に基づいてすべての支払いが処理されており、ビデオ化に関してだけ「実務運用表」から除外されることは不合理であり、ビデオ化に関しても「実務運用表」が適用される(つまり、最初の契約の時点でビデオ化にあたって出演料を支払うことまで合意していた)と判断し、ビデオ化にあたっても出演料を支払う義務があることを認めました。
他方、声優がアニメ制作会社に対して直接出演料を請求できるかについても、音声制作会社が支払い能力がない以上、アニメ制作会社に対して直接出演料を請求できる(請求権を代位行使できる)と判断されました。
こうして、本件では無事、アニメのビデオ化に際しても声優に対して声の出演料はきっちりと支払われることになったというわけです。
ただ、この事案は「実務運用表」にビデオ化に関する記載がなかったことから生じたものであって、最初に声の出演を行う時点で契約ではっきりと決めておく必要があることには変わりがありません。この点十分にご注意ください。
ウ 似た声の使用
別の問題として、ある声優が他の声優と非常に類似した声を使用した場合、声を真似された方の声優は著作権(録音権・録画権)を侵害されたと主張できるのかという問題もあります。
この点、声優に認められている権利は「著作隣接権」であって「著作権」そのものではないことから、結論に大きく違いがでてきます。
つまり、「著作権」であればその作品がそのまま利用された場合だけでなく、類似の作品が無断で作成された場合にまで権利の侵害を主張できるにもかかわらず、「著作隣接権」の場合はその作品がそのまま利用された場合にしか権利の侵害を主張できないのです。
したがって、いくら声を真似されて利用されたとしても、真似された声優は著作権侵害を主張することはできないという結論になります。
では、まったく権利が主張できないかというと、そういうことはありません。ある著名な声優の真似をすることでその声優の名声にタダ乗りしようとする場合には違法と判断されるケースはあるのです。
この点、アメリカに参考になる判例があります。この判例の事案は、ある会社がベッド・ミドラーの歌をCMに使用しようとしたところ、本人から拒絶されたため、仕方なくベッド・ミドラーのバックコーラスをしている人にベッド・ミドラーそっくりに歌ってもらい、CMとして流した行為について、ベッド・ミドラー本人がその会社を訴えたというものです。
この事案で、裁判所は、ベッド・ミドラーそっくりに歌われている歌を聴けば誰でもベッド・ミドラー本人が歌ったものと勘違いする以上、ベッド・ミドラーのパブリシティを無断で利用したものとしてパブリシティ権の侵害を認めたのです。[9]
この判例自体はアメリカのものですが、この考え方は日本で適用することは可能です。例えば無断で非常に特徴的なキャラクターの声(ちびまる子ちゃんやサザエさんなどでしょうか。)に類似した声を使って商売をした場合、その声優本人のパブリシティ権を侵害したものと判断される可能性があるというわけです。[10]
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(2)同一性保持権
他方、声優には「同一性保持権」が認められています。[11] 具体的には、声優に無断で声にエフェクトをかけて声質を変えたり、セリフの一部を切り取って編集したり[12]する場合には、同一性保持権を侵害することになるわけです。
この点、近時問題となっているものとして、キャラクターの声優の変更という問題もあります(聖闘士星矢の青銅聖闘士など)。
アニメのキャラクターは、その見た目とともにその声も非常に重要であって、その声あってこそキャラクターが成り立っているはずです。だからこそ、キャラクターの声優が変わってしまうということは、ファンにとって重要な影響を持つものであるのみならず、声優の側からしても、キャラクターが他の人によって演じられることでそれまでキャラクターを通じて築き上げてきた名声が損なわれてしまうという非常に重大な問題をはらんでいるわけです。
そこで、一旦製作されたアニメのキャラクターの声を声優に無断で変更することによりキャラクターの同一性が損なわれてしまう以上、声優の同一性保持権が侵害されるとも言い得るようにも思われますが、、、侵害とまでいうのは現状難しいと言わざるをえません。
それはなぜかというと、同一性保持権というのはその実演そのものにしか及ばない権利だからなのです。
つまり、確かに、声優が変更されることでキャラクター自体の雰囲気が変わるなどで、そのキャラクターの同一性は損なわれるのかもしれませんが、だからといって、声優の以前の声についての評価まで損なわれるわけではありません。
(つまり、突如声優を変更することであるキャラクターのイメージが損なわれ、その結果そのキャラクターの価値が下がったとしても、以前の声優の評価自体には影響がない以上、声優の権利は侵害されていないというわけです)
声優がキャラクターそのものの同一性についてまで権利を持つわけではない以上、やむをえないと言えるでしょう。[13]
したがって、声優を変更すること自体を法的に規制することは困難です。
確かに監督には配役を決定する自由があるはずで、過去の配役に縛られるということはむしろ不幸なこととも言えるでしょう。
しかしながら、その一方であるキャラクターを誰が演じるかについては、その声優のみならずファンも多大な関心を持つ事柄である以上、この点については今以上に慎重に対応を検討してもよいのかもしれません。
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というわけで、今回は声優の権利についてご説明してみました。参考になりましたでしょうか。
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