先日ロミさんよりパブリックドメインについてリクエストをいただきましたので、今回は、パブリックドメインについて解説してみたいと思います。
アメリカでは、ミッキーマウスの著作権が切れないように、著作権法を改正して著作権の保護期間を延長するっていう冗談のような話を聞いたことがありませんか。でも、これは冗談ではなく、本当の話。
アメリカでは、キャラクタービジネスの元祖ともいうべきミッキーマウスを保護するべく、ミッキーマウスの著作権が切れそうになるのに併せて1998年に著作権法が改正されて、著作権の保護期間が延長されたばかりです。ただ、いつまでも著作権の保護期間を延長するわけにもいきません。
ミッキーマウスもいつかは著作権が切れる日がやってくるわけです(多分)。
そこで、今回は、パブリックドメインをテーマに、ミッキーマウスなどのキャラクターについて著作権の保護が終了するのはいつか、そして著作権の保護が終了したらどうなるのか、などについて解説いたします。
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1.パブリックドメインとは? |
パブリックドメインというのは、誰でも使えるオープンな著作物、一般に「著作権が切れた著作物」のことをいいます。ご存知のとおり、著作権は永遠に続く権利ではなく、著作権法によってその存続期間が決められています。著作権の存続期間は国によって違うのですが、日本では、通常の著作物は著作者の死後50年[1]ということになっています。
そのため、著作者が死亡し、更に50年が経過した著作物については、著作権が切れた著作物になりますので、誰でも使えるようになります。このように著作権が切れたため誰でも使えるようになった著作物、それがパブリックドメインなのです。
たとえば、三国志や源氏物語のような古典は、パブリックドメインである(著作権が切れている)ため、誰でもそれをそのまま掲載して販売することもできますし、それを素材にさまざまな作品を作成することもできる(『三国志』(横山光輝作)や『あさきゆめみし』(大和和紀作)などがあります。)というわけです。
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2.アニメのキャラクターは、いつパブリックドメインになるの?
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(1)著作権によるアニメのキャラクターの保護
前回も述べたようにキャラクターは著作権によって保護されるわけです。しかし、具体的には、そのキャラクター自体が保護されているのではなく、そのキャラクターが登場するアニメやマンガ自体が著作権によって保護される結果、キャラクター自体が著作権に保護されることになるのです。[2]
例えば、『ギャラクシーエンジェル』には「ミント・ブラマンシュ」というキャラクターが出てきます。しかし、このミントさんは、それ自体が著作権によって保護されているのではありません。ミントさんが出てくるアニメ『ギャラクシーエンジェル』の著作権が保護されることの結果として、ミントさんが著作権に保護されることになります。
したがって、ミントさんの著作権の保護期間も、元となっている『ギャラクシーエンジェル』の著作権の保護期間と同じということになるわけです。
法人名で公表された映画(アニメ等の動画は全てこれに含まれます。)の著作権の存続期間は公表後70年[3]、そして、『ギャラクシーエンジェル』の初回の放送が2001年ですから、「ミント・ブラマンシュ」というキャラクターの著作権は、『ギャラクシーエンジェル』が最初に放映された2001年の70年後、2071年末までということになります。[4]
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(2)連続もののキャラクターの著作権
ただ、『ギャラクシーエンジェル』は単に1回だけ放映されたものではありません。『ギャラクシーエンジェル』には第1期から第4期、そしてその続編である『ギャクシーエンジェる〜ん』があり、それぞれに「ミント・ブラマンシュ」というキャラクターが出てきます。
この続編を含めると2006年末にいたるまで「ミント・ブラマンシュ」というキャラクターが次々にテレビに現れてきています。こういう場合にキャラクターの著作権がいつ切れるのでしょうか。
前述のように、アニメのキャラクターの著作権の保護期間がアニメ自体の著作権の保護期間と同じだということになると、従前のキャラクターを新しいアニメで登場させるたびにそのキャラクターの著作権もその新しいアニメの著作権の保護期間と同じ。
つまり、新作を出せば出すだけ、結果的にキャラクターの著作権の保護期間をどんどん延ばすことができそうです・・・
が、結論からいうと、それはできません。。。
この点については、過去の判例[5]で、連載もののマンガに出てくる同じキャラクターは、すべて最初に出てくるキャラクターを元に作られたものであり、最初のキャラクターの著作権が切れてしまえば、その後に出てきたキャラクターの著作権もすべて切れてしまうと既に判断されているのです。
したがって、いくらミントさんが好きで、『ギャラクシーエンジェル』の続編を作るたびにミントさんを登場させたとしても、ミントさんの著作権の保護期間は2071年末までというのは動かせないというわけです。
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3.パブリックドメインになったキャラクターは誰でも使えるの?
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では、あるキャラクターがパブリックドメインになった場合、誰でもそのキャラクターを使いたい放題なのでしょうか。
もちろん、著作権が切れているわけですから、誰でもそのキャラクターを使うことができます。それは、冒頭で述べたミッキーマウスも例外ではありません。誰でも、あのミッキーマウスを使えるようになるわけです。
したがって、たとえば、趣味で公開しているウェブサイトにミッキーマウスの画像を表示させたり、自分で作るアニメにミッキーマウスを登場させたりすることはできるようになります。
しかしながら、パブリックドメインというのは、単に著作権が切れたということを意味するだけで、商標法や不正競争保護法による保護というのは引き続き継続するわけです。
ですから、ミッキーマウスのように著名であったり、商標登録されたりしているキャラクターを使用する場合は商標法や不正競争保護法が適用されてしまいますので、注意が必要です。
そのため、残念ながら、ミッキーマウスが何にでも使いたい放題ということになるわけではありません。自社のパンフレットにミッキーマウスを使ったり、商品自体に表示したりすれば、商標権の侵害等で訴えられてしまうというわけです。
以上のとおりですので、よくミッキーマウスの著作権の保護期間が終了したらミッキーマウスは使いたい放題、ディズニーランドは成り立たなくなるというような説明がなされている場合がありますが、これは大きな間違いです。
結局商標登録されたり、著名なキャラクターになったりしてしまえば、パブリックドメインになっても、そのキャラクターが全く自由に使えるというわけではありませんので、ご注意ください。
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4.「アルセーヌ・ルパン」の著作権
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では、ロミさんにご要望頂いた「アルセーヌ・ルパン」の問題について解説してみましょう。
厳密にいうと、一般的にキャラクターの名前自体が著作権によって保護されているわけではなく[6]、「アルセーヌ・ルパン」がパブリックドメインになる前から、単にその名前だけを使ったとしても、著作権侵害になる恐れは非常に低いものでした。
しかしながら、「アルセーヌ・ルパン」という名称に加えて、その希代の大泥棒という属性その他を総合した場合には、話は別です。
過去の判例[7]に基づいていうと、「アルセーヌ・ルパン」というキャラクターの名前や個性の持たせ方、ストーリーの背景等を総合すると、これらを総合したものが著作権による保護の対象になり、これらを無断で利用すると著作権侵害(厳密には翻案権侵害)となる恐れが生じるわけです。
『ルパン三世』では、著名な大泥棒(それが「アルセーヌ・ルパン」であるかは別として)の末裔であることが非常に重要であったわけですから、著作権侵害のリスクを減らすために「ルパン」という名前自体を「アルセーヌ・ルパン」の著作権が切れるまで使わないという判断は、著作権法的にいって非常に賢明だったといわざるをえません。
この点、日本で『ルパン三世』という名前が長らく使われており、「アルセーヌ・ルパン」サイドがこれを全く知らなかったとは思えません。
そのため、アメリカで「ルパン」という名前で放映したとしても直ちに訴訟が提起されたかは分かりません。しかし、やはり世界的な影響力を考えると、『ルパン三世』を「ルパン」という名前でアメリカで放映する場合にまで「アルセーヌ・ルパン」サイドが黙認してくれるかは別の話でしょう。
このように、こういう著作権侵害のリスクをどう評価するか、そしてこれらのリスクにどう対処するかという点は、日本のコンテンツを外国に輸出する際には重要な問題となってきます。 日本ではセーフな表現もアメリカではアウトである場合もありますし、その逆もまた然りです。
まぁ、だからこそ、日米におけるコンテンツビジネスを法律面からサポートできる人材が必要になってくるというわけです
(最後は手前味噌な話になってしまいました。ははは)。
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