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鳩山首相訪米―率直に言葉を尽くして

 鳩山由紀夫首相が米国で開催される一連の重要会議へと、あす旅立つ。

 自民党の永久政権かと思われてきた日本でついに実現した政権の交代。この事実に米国も欧州もアジアも驚嘆し、新政権が日本の針路をどう変えていこうとするかに目を凝らす。

 国連の気候変動会合、オバマ米大統領がみずから議長を務める核不拡散・核軍縮に関する安保理首脳会合、G20金融サミット。間に主要国との首脳会談が挟まるが、世界の関心は何といっても鳩山首相がオバマ大統領と何を語り合うかに集まるだろう。

 鳩山氏は「緊密で対等な日米同盟」、そして普天間基地をはじめとする米軍再編計画の見直し、日米地位協定の改定問題を政権公約に掲げ、来年1月に期限の切れるインド洋での給油活動を延長しない方針を明示してきた。

 総選挙の終盤には、ニューヨーク・タイムズ紙電子版に掲載された鳩山論文が米国流のグローバリズムを一方的に批判したとして日米両国の外交当局者の間に疑心暗鬼を招きもした。

 憶測の広がりを警戒してのことでもあろう、総選挙後のオバマ氏からの電話に「私どもも日米関係が基軸だ」と答え、就任後の記者会見で「地位協定などの基本的な方針は変えない」としながら、懸案は「包括的なレビューを少し時間をかけて行う」と述べた。

 滑り出しとしては賢明な選択である。オバマ氏との会談でも、めざす「能動的な日米関係」への思いを率直に、しかし誤解を生じさせないように伝えることが求められる。

 もちろん現実の課題は待ったなしだ。米国内では、泥沼化するアフガン情勢を60年代にジョンソン政権の命脈を断ったベトナム戦争になぞらえる見方も少なくない。新政権がアフガン再建にどういう役割を担おうとするかをオバマ大統領は注視するだろう。

 米政府内には給油活動の継続への期待が強いが、アフガンをみずから2度訪れた経験を持つ鳩山首相は、現地の治安状況をにらみつつ、大規模かつ多角的な民生支援に踏み出す用意を整えるべきである。

 核不拡散と温暖化対策について、日米両政権は共鳴しあう。鳩山首相が打ち出した温室効果ガス削減の大胆な目標は国際的に高い評価を得た。ハードルは高いが、両国が手を携えて世界の取り組みを前進させたい。

 鳩山政権の強みは、アジアとの関係強化をめざす姿勢にもある。北朝鮮問題や中国の軍拡をはじめ深刻な課題はあるが、日本とアジアの円滑な関係は米国の外交的な利益にも資する。

 新政権の外交像には、まだまだあいまいさがある。だが、いまは米国頼みの思考停止状態に陥りがちだった過去の外交から脱皮する好機でもある。この訪米を具体化への起点としたい。

次期総裁選び―新自民党の立脚点は何か

 総選挙でかつてない大敗北を喫した自民党の、次期総裁選びが始まった。

 2大政党が政権を争う緊張感のある政治を実現するには、野党が踏ん張らねばならない。政権から滑り落ちた自民党をどう作り直すか。これが次期総裁に課される最大の任務である。

 名乗りを上げたのは谷垣禎一(64)、河野太郎(46)、西村康稔(46)の3氏だ。石破茂前農水相や石原伸晃元党政調会長ら昨年の総裁選で麻生氏と争った4氏が出馬しなかったのは、さびしい限りだ。

 それでも、きのう日本記者クラブで開かれた候補者討論会では、河野氏を中心にこれまでの総裁選では聞かれなかった大胆な発言が相次ぎ、論戦が盛り上がった。

 閣僚や党の要職を経験し、ベテラン議員らの支持が多い谷垣氏は「衆院議員が100人ちょっとしかいないのだから、全員野球でやるしかない」と、党の結束重視を訴える。

 中堅や若手に支持される河野氏は「反対だ。自民党のあしき体質を引きずっている人はベンチに入れるべきではない」と語り、森喜朗氏らの名前を挙げて重鎮の退場を迫った。

 また、河野氏は同年代の西村氏に、もし決選投票となったら、自分と2、3位連合を組んで谷垣氏に挑もうと公然と呼びかけた。

 歯にきぬ着せぬ発言で異端児扱いされる河野氏だが、総裁選初挑戦で論争を活性化させていることは間違いない。今回、国会議員票を上回る票を持つ地方の党員が、こうした論争をどう受け止めるのかも見どころだ。

 今と似た状況での総裁選びは、93年7月にもあった。小沢一郎氏、鳩山由紀夫氏らが党を飛び出した後の総選挙で過半数割れし、非自民勢力が連立政権づくりを進めていたころの話だ。

 総選挙敗北の直後、両院議員総会では激しい発言が相次いだ。

 「総裁選では、総裁経験者、派閥の領袖(りょうしゅう)は辞退していただきたい」「企業・団体献金の禁止ぐらい考えなければ、国民の信頼は得られない」

 自民党のあり方を抜本的に変革しなければ有権者から見放される、との危機感が満ちていた。ところが、1年もたたずに自社さ連立で政権に復帰すると危機感は薄れ、結局は今回の大敗北へとつながる。そしてまた、再生策の論議である。

 十年一日の取り組みで乗り切れるほど、今回の敗北は軽いものではない。政権党でなくなった自民党の存在理由は何なのか。そこを徹底的に議論しなければ、いくら派閥解消や世代交代、政策の転換を言ったところで、再生はおぼつかない。

 2大政党の一翼として自民党は生まれ変われるのかどうか。活発で思い切った論戦を期待する。

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