これまでの10話、左手の訓練とスケール練習を中心に書いてきたが、この講座は簡単な楽曲なら譜面を見ながらそこそこコピーが出来る人を対象にしている為、恐らく、まだ指の腹が固くなっていない、人差し指のセーハーが出来ずFコードが鳴らない、そんな初心者にはテンポ240でそれらを弾くなんて夢の夢だろうし、テンポ120で弾く事すら無理なんじゃないかと感じているに違いない。
気持ちとしてはそういう人々へ向けて情報を発信していきたいんだが、そうなると文章だけではどうも説明しづらい部分がある。文才の無さもあるし、プロのミュージシャンでもなく、音楽教室の講師でもない単なる経歴だけが長いアマチュアギタリストの限界と言ってもいいかも。
でもかつて初心者だった頃の自分を思い出すと、フォークギターから入門しているので、Fコードはちゃんと押さえられたものの、ドラミファソラシド、この音階を1音1音しっかり綺麗な音として出すという作業が難儀だった。
それでも必死に、疲れ果ててギターを抱えたまま寝てしまう程、何時間も何時間も左手の強化練習をしていた時期があった。どんな楽器でも初級から中級にランクアップするには才能とかセンスはほとんど必要とせず、どれだけ練習したかによると思うんだ。つまり根性だ。つまらないスケール練習の反復、これを飽きずにどれだけの時間を掛けるか。
初心者の段階で楽器を挫折する人ってのは周囲を見る限り、時間がないとか性格的に合わなかったなんて言い訳をする人がいるが、それは違う。ただ根性がなく、その楽器に対する愛情がないだけ。ギターが好きで好きでたまらないような人は壁をいつかはぶち破る。
オレ個人の事を言うととにかく不器用。細かい作業はてんで出来ず、男の子が必ずはまる、プラモデル製作だって完成したためしがなかった。でも小学5年生の頃だったかな。日本のお城にとても興味を持ち、姫路城や熊本城、松本城、岐阜城等の憧れの城をプラモデルで作るようになった。
するとどうだろう。ただお城が好きというだけで不器用が突然器用になるなんて事は無かったが、それでも集中をし、パーツパーツをゆっくりと組み立てる事で姫路城が完成し、熊本城が完成していった。
不器用さは今も変わらず、料理にせよ、包丁が全く使えなかった。初めて料理に挑戦した時、母親に「おまえは不器用過ぎるし、いい加減だから必ず指を切るから料理なんてするな」と言われたくらいひどいもの。
しかし一人暮らしを長く続けるようになると必然的に料理をしなくちゃならなくなり、知らぬ間に包丁さばきが上達し、生活に困るという事は無くなった。勿論プロのコックさんのような速さでネギなんて切れないし、りんごの皮むきもだいたい2周目には皮が切れてしまう程度のものだが、少なくとも電子レンジを中心に調理をしているような主婦よりは上手い筈だ。
起用、不器用は持って生まれたものもあるだろうが、不器用を克服する術はある。それが反復的な練習。料理だって1週間や2週間程度勉強したくらいで人に出せる料理なんて作れる訳も無く、やはり1年、2年、3年とやっていくうちにレパートリーが増え、味付けも安定し、手際も良くなる。ギターの練習もそれらと何ら変わりないんじゃないかな。
一時期、脳味噌について科学的文献を読み漁った時期があって、その時の知恵を拝借すると、脳ってのはとにかく強力なコンピュータであり、しかも学習能力に長けている。だから1日15分でもトレーニングをすれば寝ている間に脳が復習をしてくれているのだ(寝るってのが大事なんだな、だから一夜漬けってのは効果を期待してはいけない)。
面白いネタがある。小学校の頃、野球が大好きで、たまたま強健であったからピッチャーをやっていた。その頃の記憶が今もあり、たまに野球をしている夢を見る事がある。その夢でボールを放る瞬間、一番肩に力が入るその時、どうやら寝ながら投球モーションを実行しているようで、肩がビクッと動き目が覚めてしまうんだ。これは未だに脳が投球フォームの筋肉の動きを覚えていて、力を入れるほんの一瞬、これを勝手に再現しちゃっている訳だ。
この話はちょっと科学から外れてしまう気がしないでもないが、とにもかくにも脳の記憶力と学習力ってのは誰もが持っている。パソコンのブラインドタッチだってそう。不器用のオレが、ムカつく先輩に入力スピードで勝ちたい、ただそれだけの理由で、ホームポジションと言うブラインドタッチの基本を学んだだけで、知らぬ間にキーボードなんて見ないでパチパチしている。
だから、この10話までの左手の訓練、スケールの練習をテンポ60でも弾けない、いやいや、1音1音出す事すら難儀という人でも、諦めないで欲しい。飽きずに練習していれば必ずテンポ240で弾ける筈だ。
結論、キーワードはやっぱり、
「根性」
これしかあるまい。
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