調性音楽の場合、キーに対するダイアトニックコードが存在する。メジャースケールに対するダイアトニックコード、マイナースケールに対するダイアトニックコードである。キーがCならドに対するのはCコード、レに対応するのはDm、ミに対応するのはEm・・・、シに対応するのはBm-5。
キーがCのダイアトニックコード(7thコード)
C |
Imaj7 |
Cmaj7 |
D |
IIm7 |
Dm7 |
E |
IIIm7 |
Em7 |
F |
IVmaj7 |
Fmaj7 |
G |
V7 |
G7 |
A |
VI7 |
Am7 |
B |
VIIm7-5 |
Bm7-5 |
そしてこれら7つのコードにはそれぞれ役割分担を持っている。
Imaj7 |
IIm7 |
IIIm7 |
IVmaj7 |
V7 |
VIm7 |
VIIm7-5 |
Cmaj7
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Dm7
|
Em7
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Fmaj7
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G7
|
Am7
|
Bm7-5
|
トニック
|
サブドミナント
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トニック
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サブドミナント
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ドミナント
|
トニック
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ドミナント
|
ご覧の通り、7つのコードにはトニック、サブドミナント、ドミナントの3つの役割があるのが判るだろう。
トニック
そのキーの中で一番安定している音色、終始感を持つコード
ドミナント
トニックや他のコードに向かう際に動的なイメージを与えるコード
サブドミナント
ドミナントコードを補助する役割を持つコード
基本はトニックコードはImaj7、ドミナントはV7、サブドミナントにIVmaj7が使われる。これを小学校か中学校で習ったと思うが、主要3和音と言う。ブルースの場合は全て□7タイプのコードではあるが、この主要3和音で成立している。
入門書、ハウツー書で、特にギター入門書にありがちなのは、この主要3和音だけに注目して、他のコードの説明は一切せずに(特にVIIm7-5等の解説は皆無だったりする)、代理コードがなんちゃらなんて書いてあるから、初心者はチンプンカンプンになる。
でも上のような表で、主要3和音の他の4つのコードもトニック、サブドミナント、ドミナントに分類されるんですよ、と明記していれば、ちょっとスマートな頭脳の持ち主だったら、Imaj7の代わりにIIIm7やVIm7も使えるのではなかろうか、と頭を働かせる事が出来る。
それぞれのコードの構成音を調べてみよう。
トニック群
Cmaj7 - C, E, G, B
Em7 - E, G, B, D
Am7 - A, C, E, G
ドミナント群
G7 - G, B, D, F
Bm7b5 - B, D, F, A
サブドミナント群
Dm7 - D, F, A, C
Fmaj7 - F, A, C, E
それぞれの群のコードに共通の音が3つずつあるのがお判りになると思う。そう、どの群も構成音が似通っている、似たような音色だから、それぞれがそれぞれに属するのだ(実際にはさらに似せたりする為にテンションノートを付加したりするが)。
マイナーキーのダイアトニックコードでも検証してみよう。
キーがCmのダイアトニックコード(7thコード)
C |
Im7 |
Cm7 |
D |
IIm7-5 |
Dm7-5 |
Eb |
bIIImaj7 |
Ebmaj7 |
F |
IVm7 |
Fm7 |
G |
Vm7 V7 |
Gm7 G7 |
Ab |
bVImaj7 |
Abmaj7 |
Bb |
bVII7 |
Bb7 |
Im7 |
IIm7-5 |
bIIImaj7 |
IVm7 |
Vm7 V7 |
bVImaj7 |
bVII7 |
Cm7
|
Dm7-5
|
Ebmaj7
|
Fm7
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Gm7 G7
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Abmaj7
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Bb7
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トニック
|
サブドミナント
|
トニック
|
サブドミナント
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ドミナント
|
サブドミナント
|
サブドミナント
|
トニック群
Cm7 - C, Eb, G, Bb
Ebmaj7 - Eb, G, Bb, D
サブドミナント群
Dm7b5 - D, F, Ab, C
Fm7 - F, Ab, C, Eb
Abmaj7 - Ab, C, Eb, G
Bb7 - Bb, D, F, Ab
G7とGm7はドミナント群と言うべきではないが(一般に併用される事はない、どちらか一方なので、それぞれがドミナントと考えた方が良い)、他のトニック群とサブドミナント群はメジャーキーと同様に類似する構成音になっているがお判りになるだろう(同じく実際にはテンションノートを色々と付加する事も多い)。
◇
ここでもう1つ解説する事がある。メジャーキーの場合、上述した7つのコード以外にもう1つのコードが使われる。詳細はちょっと忘れてしまったが、調性音楽にはメジャーキーのコードとマイナーキーのコードを交換し合えるって事になっている。そしてマイナーキーのVm7がV7になるのと同様に、メジャーキーの場合は、サブドミナントコードのIVmaj7の他にマイナーキーのサブドミナントこーであるIVm7が使われるのだ。そしてこのコードをサブドミナントマイナーと呼ぶ。
これだけだとはてな?、になるだろうから、良くあるコード進行を示そう。
Cmaj7 - C7 - Fmaj7 - Fm7 - Cmaj7
C7からFmaj7ってのはセカンダリードミナントである。Fmaj7を仮のIとしたVがC7。そしてFmaj7の次にサブドミナントマイナーのFm7を配置する。実際に弾いてみて欲しい。嗚呼!、よくあるパターンだ!、とご理解頂けるだろう。Fm7の次にはCmaj7が来るので、トップノートがA, Ab, Gと半音下がりになり、実に心地良い。
◇
これらを踏まえて、ようやく出てくるキーワードが「代理コード」である。読んで字の如し、I, IV, Vの主要3和音の代わりに使われるコードの事を言う。もう1度メジャーキーのダイアトニックコードの役割分担を書こう。
トニック群
Cmaj7 - C, E, G, B
Em7 - E, G, B, D
Am7 - A, C, E, G
ドミナント群
G7 - G, B, D, F
Bm7b5 - B, D, F, A
サブドミナント群
Dm7 - D, F, A, C
Fmaj7 - F, A, C, E
もうお判りだろう。トニックであるCmaj7の代理はEm7でありAm7。ドミナントであるG7の代理がBm7-5、サブドミナントであるDm7がFmaj7になる。コード表記をローマ数字にするとどんなキーにも対応出来るので表にしてみよう。また判り易いように一応、キーがCの時のそれぞれのコードネームも記する。
役割 |
主コード |
Key=C
| 代理コード |
Key=C
|
トニック |
Imaj7 |
Cmaj7 |
IIIm7, VIm7 |
Em7, Am7 |
サブドミナント |
IVmaj7 |
Fmaj7 |
IIm7, VIm7 |
Dm7, Am7
|
ドミナント |
V7 |
G7 |
VIIm7-5, bII7 |
Bm7-5, Db7 |
おやおや、VIm7のAm7がトニックの代理にもサブドミナントの代理にもなっている。では構成音を見てみよう。
Cmaj7 - C, E, G, B
Fmaj7 - F, A, C, E
Am7 - A, C, E, G
Cmaj7とAm7はC, E, Gが共通で、Fmaj7とAm7はF, A, Eが共通になっている。恐らくトニックってのは□maj7だけでなく□6も使われるから、C6の構成音はC, E, G, Aになり、Am7と全く同じ音。だからVIm7はトニックに分類されているのだろうが、IVmaj7の代理コードとしてVIm7も使える、そう覚えておいて欲しい。
ダイアトニックコードでない物としてドミナントコードの代理としてbII7がある。これも構成音を見よう。
G7 - G, B, D, F
Db7 - Db, F, Ab, B
うーん、共通音はFとBの2音だから決して類似する音とは言い難い。しかし、不思議と弾いている見ると合うんだ。II-V-Iで例を示そう。



上段が普通のII-V-I、中段がVの代理にbIIを利用したII-bII-I、下段はそれに9thのテンションを付けてみた。実際に弾いてみれば下に行くに従い、ジャジーなサウンドになるのが判ると思う。個人的な考えだが、bII7ってのはVの代理と考えるのでなく、Iに向かう際、終結の過程に使えるコード、そんな意識がある。
ちなみにこのV7に対するbII7は代理コードと呼ぶよりも裏コードと呼ばれる事が多い。だからII-V-I進行でセッション等をしていた際に、メンバーから「ドミナント部分は裏で行きましょう!」、なんて言われたら「V7じゃなく、bII7を使おう!」それを意味するのだ。
とにかくトニックに向かう際のドミナントモーションにbII7を使う、これが一般的なようだ。つまり、仮にIに対するV7を挿入するセカンダリードミナントにそのV7に対するbII7はあまり使われない(まぁジャズだったらその辺も平気で使っちゃうのかもしれないが)。
◇
要するに代理コードを使うってのはマンネリの予防策と考えほしい。
Cmaj7 - Am7 - Fmaj7 - G7
上は一般的な循環コード。いつもこのコードじゃつまらん。この進行にはトニックのCmaj7、サブドミナントのFmaj7、ドミナントのG7が使われているから、それぞれに代理コードを使う。
Em7 - Am7 - Dm7 - Db7(9)
とかにしちゃう訳だ(bII7には9thのテンションノートを付加する事が多い)

このコード進行の面白いところはキーコードのCmaj7が出てこないのにキーはC(並行調のAmがキーとも言えるが)なのだ。だからこのコードを示されてEのナチュラルマイナースケールなんかで弾いちゃうとおかしくなる訳だな。しかもCのスケールで弾ききろうと思うとDb7(9)で躓く。そりゃそうだ。こんなコードに対するスケールはCメジャースケールにはないのだから。だからこの部分はDb7用のスケールを使わないとならない。
つまり、代理コードを使う時、スケールそのもののそのコードに特化したものを使えると言うメリットがある。このコード進行全てでEナチュラルマイナーで弾くとどうしようもなくなるが、Em7のところだけをマイナー系のスケールを使うと面白いフレーズを組み立てられるようになる。
さらには本来Em7の部分はCmaj7だから、Em7が鳴っている時に、ガツン!、とCmaj7のコードトーン中心に弾いてやったり、Aマイナーペンタトニックを使うと、微妙なアウト感が出てユニークなフレーズを作れる。反対にコードがトニックのままCmaj7であった場合、そこにEm7のコードトーンで弾けば同じような感覚なる。
様式美なハードロック、ヘヴィメタルにはディミニッシュコードってのが良く出てくる。用途の1つにドミナントコードの代わりにディミニッシュを使うってのがある。その際に、単にキーによる決まったスケールでなく、ディミニッシュのコードトーンや、半全ディミニッシュスケール、オルタードスケールを使うと、アウト感バッチリのウネウネしたフレーズになるのだ(ディミニッシュコードに関してはいずれまた)。
代理コードの使用はコード進行のマンネリを防ぐと共に、リードプレイ、フレーズそのもののマンネリ化も防止する事が出来ちゃうのだった。
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