2009年9月18日
■活劇の面白さ ふんだんに
白土三平のロングセラー劇画を松山ケンイチ主演で映画化した「カムイ外伝」が19日から公開される。「血と骨」の崔洋一監督が初めて挑む時代劇アクション。忍者組織に追われ、独力で生き抜くヒーローの戦いを、生身のアクションをふんだんに盛り込んで描く。
原作は、江戸時代の身分社会を背景にした壮大な群像劇シリーズの番外編。差別から逃れるため忍者になり、掟(おきて)を破って命を狙われる身となったカムイに焦点を合わせる。
「差別の歴史を描き、反権力のドラマとして全共闘の若者を熱狂させた正伝に対し、外伝はヒーロー色が濃い。やがて正伝へと進むためにも、娯楽性の高い外伝から入るべきだと思った」と監督は言う。
82年発表の「スガルの島」のエピソードを、宮藤官九郎と共同で脚色した。漁民の島に逃れたカムイが、彼を刺客と疑う元忍者のスガル(小雪)や藩主が放った追っ手と激しい攻防を繰り広げる。
「シリーズ唯一の海洋アドベンチャーだからこれを選んだ。カムイという“資本”の到来で原始的な共産社会が崩壊する、という僕流の白土史観の解釈も入っているが、まずは活劇の面白さをたっぷり見せたかった」
香港映画界で活躍してきた谷垣健治をアクション監督に起用。森林や絶壁の高低差を生かしたワイヤアクション、疾走しながらの立ち回りなど、縦横の動きをごまかしのないアングルでとらえる。
「CGと合成した場面もあるが、アクションはすべて生身の役者が演じている。追う者、追われる者の息づかいをとらえるため、徹底的に訓練してもらった」
クランクイン直後の07年末に松山らが負傷し、撮影が半年間止まるアクシデントも。「巨額の費用が出ていくから、ふつうなら中断イコール中止。だが、役者の情熱ゆえの出来事だから、絶対に引けなかった」。不安のなかの半年間は、カムイの焦燥をリアルにとらえ直す契機にもなったと言う。
「敵の姿ははっきり見えない。だが、このままではやられてしまう。そんなギリギリのところを生き抜くカムイは、ニヒリズムとは無縁の存在。強さも弱さも併せ持った若者が、目の前の異質な価値観とどう向き合うか、その方法論を示すのがこの物語だと思う」
続編が実現するかどうかは興行成績次第。だが、原作者、監督、主演の松山はそろって同じ物語を心に秘めているという。(深津純子)