きょうの社説 2009年9月20日

◎ジャズの祭典 「劇場都市」の新たな演目に
 金沢市中心部で幕を開けた「金沢JAZZSTREET2009」は、昨年春から始ま ったクラシックの祭典「ラ・フォル・ジュルネ『熱狂の日』音楽祭」に続き、新たな音楽ジャンルを金沢に根付かせる、やりがいのある試みである。

 夏の金沢城オペラ祭などを含め、金沢では一年を通して音楽イベントが増えてきた。今 回のように中心部を丸ごとステージにすれば、音楽を通して都心の楽しさ、にぎやかさを見つめ直すきっかけにもなろう。「ジャズストリート」と銘打った企画は、神戸をはじめ全国各地で行われている。金沢は後発組となるが、初の試みをぜひ成功させ、「劇場都市」の新たなレパートリーに加えていきたい。

 このイベントは22日までの4日間で市内18会場で約150のライブが行われる。初 日は「ホールジャズ」で一流アーティストが競演し、「まちかど・ライブ」では大学生や社会人バンドなどが入れ替わり登場した。広場や公園、路上で生演奏が繰り広げられ、尾山神社境内や東別院山門なども会場になった。軽快な調べに市民や観光客が引き寄せられ、演奏が終わると次の会場に向かう。歩いて回りやすいコンパクトな会場設定に回遊性を引き出す効果がみられた。

 場の雰囲気、昼と夜の違いで迫力や余韻も違ってくる。それが多様なスタイルで演奏さ れるジャズの魅力なのだろう。歴史的建造物や用水、寺社など、藩政期以来の財産が都心部に集中するのが金沢の街の特徴である。それらを最大限に生かせば、金沢でしか聴けないジャズの祭典になるのではないか。

 市街地は音楽に共鳴する「音響装置」といえる。その余韻も街のたたずまいで、より深 みを増す。歴史的な景観や中心商店街の街並みに磨きをかけることは都心全体で「音響効果」を高めることにもつながる。

 クラシックやジャズなど多彩な音楽に親しめる機会が増えてきたことは子どもたちにも 好影響を与えるはずである。金沢が「劇場都市」「音楽都市」としての名を高めていくには足元の音楽土壌を耕し、生え抜きのアーティストを育てる環境づくりも大事である。

◎鳩山政権が始動 前のめりになり過ぎず
 鳩山政権が国政の歴史を変える歩みを始めた。新閣僚の布陣はまさに「オールスター」 のそろい踏みであり、マニフェスト(政権公約)実現にかける鳩山由紀夫首相の意気込みが伝わってくる。新政権を見守る国民の期待も高く、各閣僚からはマニフェストを強く意識した革命的ともいえる「変化」を示す具体的なメッセージが打ち出されている。

 ただ、その一方で、関係省庁や業界団体、地方を困惑させる発言も少なくない。マニフ ェストに沿った政策の実行を目指すのは当然としても、そのすべてに賛同して民主党に投票した有権者は少ないはずであり、政権を取った今、反対の声にも耳を傾け、見直すべき点は大胆に見直さねばならない。あまり前のめりになり過ぎず、理想と現実の折り合いをつける懐の深さが必要になってくる。

 たとえば、温室効果ガスの排出量を2020年までに90年比で25%削減する方針は 、企業や家計への負担が極めて大きく、国益を損なう恐れがある。これを「国際公約」とするなら、少なくとも目標達成のためにどの程度負担が増えるのか、国民に示す必要がある。

 新閣僚の会見で示された各省庁の事務次官ら官僚による記者会見の原則禁止や入札凍結 になっている八ツ場ダム(群馬県)の建設中止もそうである。官僚による会見禁止は、国民の「知る権利」を制約しないか。八ツ場ダム中止については「7割方進んだ工事をやめるとむしろ無駄が出る」などの声にどう答え、地元にどんな解決法を提示するのか。

 野党の一議員としての言葉と、政策決定の権限を持つ閣僚の発言の重みは天と地ほど違 う。マニフェストに掲げたという理由だけでは、国民への説明責任を果たしたことにならず、国民の共感を得られるとも思えない。

 欧米の例を見ても、野党の政権公約は、与党との差を際立たせるために、野心的なもの になりがちである。しかし、政権を取った後は、現状に合わせて公約を見直している。「公約違反」との批判を恐れるあまり、柔軟さを失うことのないようにしてほしい。