政権交代は東京の花柳界の経営にも影を落としている。バブル崩壊後の景気低迷で客が減り続けていた高級料亭は、昨秋のリーマン・ショックで追い打ちをかけられ、そこに今回の政権交代。長年「料亭政治」で上得意客だった自民党が大敗したダメージは大きい。「官僚が去り、財界が去り、ついに政治家も。民主党議員はほとんど居酒屋しか行かないと聞く。料亭はこの先どうなるのか」。関係者からは悲鳴に近い声が上がる。【合田月美】
不況の影響は深刻だ。「米村」「金田中」など有名料亭が集まる東京・銀座の料亭街は、かつては「花街新ばし」としてにぎわい、数十の料亭が軒を連ねた。
ところが今春には10軒ほどになり、最近も老舗2軒が店をたたんだ。ほとんどの料亭は社員のパート化を進めているほか、ランチ営業、法事の弁当造り、インターネットによる通信販売など経営多角化に必死だ。結婚式会場として売り出す料亭も目立ってきた。
鳩山内閣が誕生した16日、著名料亭社長は「かつては選挙や組閣ともなれば、毎晩のように派閥だなんだと次々と会合が持たれ、表には黒塗りの車が並んだのに、今回はさっぱり。こんなことは初めて」とこぼした。
別の料亭のベテラン接客係男性は「高度経済成長期以来、根回しや段取りなど、我々は、政財官がうまくいくための潤滑油と思ってやってきた。誇りも感じた。派閥や族議員のたまり場だったことは認めるが、だからといって料亭が敬遠や非難をされるのはおかしい」と話す。
永田町に近い赤坂にある老舗料亭の社長は「せめて民主党が景気対策に取り組んでほしい」と祈るような表情で話した。
長年、政治の舞台となってきた料亭。自民党政権下では、派閥や政治家によって行きつけの料亭が決まっていた。1960年代には都内に約1500軒の料亭があったが、今は銀座、赤坂、人形町、神楽坂、向島、浅草に計50軒余。1万人以上いた芸者も、今は約300人に減少した。
全国の料亭が加盟する全国料理業生活衛生同業組合連合会会長の藤野雅彦「米村」社長は「料亭は日本の伝統文化に直接触れて理解することができる場所。国際的にご活躍していただくためにも、民主党の先生方にもぜひ、いらしてほしい」と話している。
毎日新聞 2009年9月19日 東京夕刊