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子宮頸がんの「征圧」を目指して

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【第78回】今野良さん(自治医科大附属さいたま医療センター産科婦人科教授)

 
日本では年間約1万5000人の女性が罹患し、約2500人が亡くなるという子宮頸がん。性体験の早期化と若年者の検診受診率の低迷で、近年20代、30代の罹患が特に懸念されているという。
 厚生労働省は今年度の補正予算により、一定年齢に達した女性に、検診無料クーポンを配布した。また早ければ10月にも、国内で初めて「子宮頸がんワクチン」が承認される見込みだ。
 子宮頸がん予防に向けた動きが加速する中、長年ライフワークとして子宮頸がんの研究に取り組んできた今野良さんは、「子宮頸がん征圧をめざす専門家会議」の実行委員長として、国への要望や各地での講演など、啓発活動を精力的に行っている。予防できるがん、子宮頸がんについて、今野さんに聞いた。(前原幸恵)
 
−子宮頸がんを「予防できるがん」と言えるのは、なぜですか。

 
子宮頸がん検診の普及と子宮頸がんワクチン(HPV=ヒトパピローマウイルス=ワクチン)の接種で、子宮頸がんは世界で唯一、予防でき、征圧できるがんです。
 わたしは「検診」と「ワクチン」という予防医学の2つのカギは、20−21世紀にかけて人類が成し得た、予防医学領域における最大の成果だと考えます。
 日本は残念ながら、先進国の中では最も子宮頸がんの予防対策が遅れています。一般の方やメディア、医療関係者、教育関係者、行政担当者にも、正しい知識や情報が欠如していることも否めません。がんの中で唯一予防が可能になった子宮頸がんについて、もっと知ってもらいたいと思います。

■ 風邪のような「ありふれた感染」の「まれな合併症」

−「正しい知識の欠如」とは、例えばどういった点が挙げられますか。

 
子宮頸がんの原因は、ほぼ百パーセント、HPVです。HPVは生涯に女性の8割が感染するという、ごくありふれたウイルスで、性的接触をもった大人であれば、HPV感染のリスクを誰でも持っています。
 誤解が多いのは、「HPVを持っていると子宮頸がんになる」ということです。でもHPVの感染自体は病気でも何でもなく、治療の必要はありません。HPV感染自体は、風邪のような極めてありふれた感染です。感染しても、そのほとんどはいつの間にか自然に消えてしまいます。子宮頸がんは、「ありふれたHPV感染の非常にまれな合併症」と考えてください。
 また、HPV感染を性感染症や性病の一種ととらえる人がいますが、これも間違いです。性器の接触だけでなく、キスなどごく普通の性的接触を通して、誰でもHPV感染リスクはあります。この点はぜひ、しっかり覚えておいてください。

−ではHPV感染から子宮頸がんになるのはどんな場合ですか。

 
問題は「HPVの持続感染」というリスクファクターです。性交渉の多い少ないにかかわらず、何らかの病気や喫煙などの生活習慣などによる免疫作用の低下が原因で、結果としてHPVが消えずに残ってしまう状態と考えてください。
 HPVはDNAの配列から100種類以上に分けられます。その30−40種類が性的な接触で感染しますが、この中で感染後、がんを起こしやすい危険な種類を「ハイリスクHPV」と呼びます。
 16型、18型が代表的なハイリスクHPVで、これに対しローリスクHPV(6型、11型など)もあり、これらは原則としてがんを引き起こすことはありません。

 たとえハイリスクHPVに感染しても、そのうち「がん」に進行するのは1000分の1です。しかし、1000分の1とはいえ、安心はできません。子宮頸がんは早期の自覚症状がないので、手術ができないほど進行した患者さんでも、多くが「症状はありませんでした」と言います。検診を受けていないと、進行するまで発見するのが難しいがんです。

 ハイリスクHPVに感染してから異形成(正常細胞ががん化し始める状態、前がん病変)になるまでの時間が半年から1年、子宮頸がんに進行するまでには大体5−10年以上あるので、この間に検診を受けて発見できれば、がんになる前に見つけて治療することが可能です。これは子宮頸がん検診ならではのメリットです。

 しかし残念なことに、こんなに有益な検診がうまくいっていないのが日本の現状です。OECD(経済協力開発機構)の「ヘルスケア・クオリティ・インディケーターズ・プロジェクト」の2006年のデータによると、受診率は米国で82.6%、フランス74.9%など、世界平均が58.8%なのに対し、日本は23.7%です。

−受診率が低い原因として何が考えられますか。

 自治体や国が今までは、積極的に検診について情報提供を行っていなかったからではないでしょうか。
 自治体などで行う検診は「細胞診」といって、ヘラやブラシなどの器具で子宮頸部をこすって粘膜を採取し、その細胞をスライドガラスに塗って標本化して、がん細胞や異形成の細胞の有無を調べます。細胞の採取は数秒で済み、痛みはほとんどありません。でもそうしたことを知らない人も多いんです。

 また検診についてはこんなデータもあります。自治体の検診予算は対象者の何パーセントぐらいで組まれていると思いますか。実は08年時点で、20%以上の予算を組んでいる自治体は全体の9%しかありません。つまり1000人の対象者がいたとき、200人分未満の予算しか組んでいない自治体がほとんどということです。

 検診は医療ではありません。政策です。わたしたち医師は末端としてかかわっていますが、決定権は持っていません。今回の無料クーポン配布のような行政指導が必要です。これについては一部で批判の声もあると聞いていますが、わたしは画期的なことだと思います。

■ 正しい情報を医師へ、地域へ、行政へ

−受診率を上げるために、無料化といった財政支援以外に何が必要でしょうか。

 
自治体の取り組みとして、検診を受けやすい環境整備が必要です。
 土日や夜間に受診しやすいプログラムづくり、検診を受けるメリットと受けないデメリットを明記した通知など告知方法の工夫、市民セミナーでの啓発など、やるべきことはたくさんあるのではないでしょうか。
 また医療関係者の取り組みも重要です。医師の中でも、子宮頸がんをめぐる厳しい状況を認識している医師はそう多くないのが現実です。
 子宮頸がん診療に当たる専門医が、地域医療を支える勤務医や開業医に対し教育する場をつくることや、医師や看護師、保健師、臨床検査技師、行政担当者が学校を訪ね、保護者や教育関係者に対して、分かりやすい言葉で子宮頸がん検診の意義や予防のための取り組みについて正しい情報を伝えることが必要だと考えます。

■ 公費補助の下で接種効果の最大限発揮を

−検診と並んで子宮頸がん予防のカギとなるHPVワクチン。今後、検討すべき課題を教えてください。

 
まず接種場所について、医療機関なのか、学校なのか。またワクチン接種を実施するのは何科の医師なのかなどの検討課題が考えられます。
 子宮頸がんはこれまでは産婦人科医の領域でしたが、HPVワクチンに関しては、必ずしも産婦人科医だけが関与するものではありません。
 今回承認される見込みのHPVワクチンは、ハイリスクHPV16型と18型の感染を予防することが目的ですから、まだ感染していない人が接種するのが最も効果的だと考えられます。
 だとすれば、ワクチン接種年齢は若い方が望ましく、小児科の医師たちに何らかの役割を担ってもらう可能性が出てきます。そうした小児科医などへの子宮頸がん予防についての教育・啓発など、産婦人科医と他の科の医師の連携が求められるでしょう。

 ワクチンの公費負担の有無については、国の財政状況や費用対効果など、さまざまなことを検討した後に選択されるべきことだとは思いますが、接種率の向上でワクチン効果を最大限に発揮するためには、国の施策として、公費補助の下でのワクチン接種を推奨する必要があると考えています。
 そのためには、まず医療従事者のみならず、一般女性や男性にも、子宮頸がんとワクチンの正しい知識を提供しなくてはいけません。
 国が推奨し、国民全体がワクチンの必要性を認識した上で、公費補助を行うことで経済的負担を軽くすることが、接種率向上につなげるために何より大切だと考えています。

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更新:2009/09/19 10:00   キャリアブレイン

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