新・調査情報 passingtime 1997/3-4
no.004
メガヒット時代の「音楽番組」
制作者インタビュー
『COUNT DOWN TV(以下CDTV)』は深夜ながら確実な数字(6〜8%)を上げることで、業界でも熱心な視聴者が多い。最近では業界以外でも人気が高まり、『CDTV』へのアーティスト出演やエンディングテーマ・タイアップはレコード会社間で争奪戦の様相を呈し始めている。
その実績が買われてのゴールデンでの歌番組が『うたばん』である。『HEY!HEY!HEY!』の司会ダウンタウンに対抗して、とんねるずの石橋貴明とSMAPの中居正広をコンビでナビゲーター役に抜擢した。深夜の『CDTV』とゴールデンの『うたばん』、両者の住み分けはバランスよく連動していると言えるだろう。
データにこだわった作りに徹した
『CDTV』――『CDTV』のコンセプトは?
大崎 今から五年前に『突然バラエティ速報カウントダウン100』という番組を土曜のゴールデンで放映して、失敗しているんです。その理由の一つが、当時全盛のビーイング系はほとんどテレビに出ていただけなかった。その後、深夜帯に移って時間を縮小し、データにこだわった作りに徹して『CDTV』をスタートさせ、業界の人に認められたのがここ二、三年というところです。
――『CD100』から『CDTV』への移行時の工夫を詳しく。
大崎 MCをCG合成にしたり、どっちみち素人の方は見てくれないんだからと、あえて業界向けに作ってみた。もっともゴールデンに出ていたアーティストはスタートして一年くらいは出てくれませんでした。
――いつから数字は上向いた?
大崎 土曜深夜に放映されて日曜にCDを買う人たちが増えてきて業界がこれは利用できる番組だと考えたのでしょうね。それと順位に関係なく各曲を平等に扱ったために(7位と40位の紹介が同じ秒数など)、公平だということで業界が好感をもったらしい。
――その成功があって『ザ・ベストテン』以来7年ぶりのゴールデンでの『うたばん』。
『うたばん』は
100%キャスティングが勝負大崎 『ザ・ベストテン』をやりたくてTBSに入って現場を経験してきた世代です。『CDTV』が大きくなりすぎて、本来、これから売れそうな30〜40位のアーティストにスポットを当てるべきなのに、ゲストは10位以内しか呼べなくなってしまった。はて、どうしたものかと思っていたところに幸運なことに『うたばん』の話が降ってきた。
――『うたばん』のコンセプトは?
大崎 先行している『HEY!』と『ミュージックステーション』をものすごく意識しました。『HEY!』への対抗措置としては、こちらは石橋貴明+中居正広の組み合わせで視聴者の幅を広げたかったし、早く『ステーション』なみの豪華なキャスティングができるようになりたかった。
やはりどうしても100%キャスティングが勝負なので去年8月の時点で、年内放送分のスペシャルを入れて11回分のキャスティングはすべて組み立てていました。今もちょうど3か月先のキャスティングをやっているところです。目配りはしていますが急に出てくる大ヒット曲にはどうハメこむか神経を使います。
――『CDTV』と『うたばん』のターゲットの違いは?
演出にはベテランDを配して強化
大崎 『CDTV』はCDを買う層。15〜17歳。『うたばん』はゴールデンですから家族全体で楽しめる広い層です。
――視聴率は満足ですか?
大崎 ゴールデンの歌番組はよくがんばって12%だと考えているんです。これを14、15にもっていくにはプラスアルファの要素が必要になってくる。それがトークと演出。
――『ザ・ベストテン』時代と比べて演出上の変化は?
大崎 あの当時、ちょっと違うなと思ったのは歌に合わないセットとか踊りを入れて演出するというDの独りよがりな部分でした。相手側とこちら側のやりたいことを前もってすり合わせていないとダメなんだな、というのが教訓として残っています。僕たちはアーティストのベストの姿を出してあげないといけないわけですから。そのため比較的ていねいに打ち合わせをしています。
そのためにはDも感覚的、経験的に豊かな人でないとやっていけない。その辺は、ベテランD(チーフディレクターはドラマの遠藤環)を強化してうまく回転していると思います。
――トークと歌の比重はどう考えているんですか?
大崎 番組48分のうち24分が視聴率の稼げるトーク、24分が歌。これは意識的に半々にしています。トークを重視して今数字が13、14%というのは妥当でしょう。
もっと数字を取ろうとトークに比重を置くと歌番組らしくなくなるし、歌を多くすると数字は下がる。数字の落ちないタレントはごく限られますから。
――例えば?
大崎 安室、華原、SMAP、Puffy、シャ乱Q、ウルフルズ。ただ、こういうことは他局の人も知っているから必然的に彼らの奪い合いになる。スペシャルの時はこの中から何組集められるかが勝負になる。
――ウルフルズの勢いはパワーダウンしているのでは。
大崎 テレビとしては彼らの存在は貴重で面白いんです。同じようなダンス系の楽曲が多い中で、ウルフルズを一曲はさむと好都合というか絵的にも変化に富む。
――trfは?
大崎 いや、彼らは今のところ、まだスペシャルなどでは確実な数字を持っています。踊りがあるからでしょうか、特番にハメこむと数字はアップするんです。
若いDたちの興味はやはり
ロックやバンド系――『うたばん』での新人アーティストの起用はどうでしょう?
大崎 『うたばん』でも『CDTV』的なアーティスティックな匂いを出さねばと、UA、ラズマタズ、ICEを出してみた。UAはスタッフが皆驚いていましたね、初めて聴く感じだった。これはいいとベテランDはみんなほめていた。他にないタイプだし(『うたばん』のDは『CDTV』に比べて熟練した年長のDが多い)。
――ラズマタズ、ICEはまだ厳しい。
大崎 その辺が『CDTV』と違って難しい。
――バンドは演出上、単調になる?
大崎 いえ、バンドはやりやすいんです。相手方の目的もはっきりしているし。
――女性ヴォーカルは?
大崎 『CDTV』の若いDは古内東子や岡本真夜、辛島美登里、広瀬香美といったアーティストにはのらないんです。僕も強制はしない。『うたばん』ならそこそこ映えるんですけどねえ。
25〜33歳くらいの若いDたちの興味はやはりロックやバンド系にあります。絵的にも。だから逆に動きのあるMAX、SPEEDなどには理解がある。実際に聴いてみるとサウンドもいいですしね。そういう意味で言えばビーイング系はサウンド的にはよくできていましたね。今だとGLAYがその延長線上にある。
――『うたばん』の新しい仕掛けは?
大崎 一月にそのGLAYでコンサート会場からのライブ収録をしました。今年はテレビのスタジオ収録だけでなく『ザ・ベストテン』の時のようにいろんな場所での演出を考えていきたい。
『CDTV』のランキングは
オリコンとレコード協会のデータで――過去にランキング操作が問題になったことがありましたが、『CDTV』は何を基準にしている?
大崎 ランキングの操作なんて考えたこともなかった。初めて聞きます。そんなことをするくらいなら、番組なんかやめちゃえという気分になる。
――『CDTV』のランキングの根拠は?
大崎 オリコンとレコード協会から共に毎週、数字をいただいています。数字に強い構成作家がいて、それをある重みづけしてランキングを決めています。
――プロダクションとの関係は?
大崎 『CDTV』をやっていた関係で順調だったと思います。入社当時『ザ・ベストテン』でお付き合いしていたプロダクションやレコード会社の人があれから15年たってスケジュールを切れる立場になっていた、という事実が大きかった。
個人的には『ザ・ベストテン』が打ち切られた時に、サーッと業界の人が引いていったという苦い経験をしているんです。利用価値がなくなると逃げていくんですね。こちらが若かったせいもあるけれど、力のあるところへしか寄ってこないんだナと身にしみた。『CDTV』でもその時の経験が生きています。信頼できる人をたくさん作っておいたほうがいい。
世代交代しているレコード会社や
プロダクション――プロダクションには古い体質の人がいませんか?
大崎 レコード会社の人が世代交代して変わりました。僕らはレコード会社を第一窓口にして、それで済むようにしています。
――ブッキングはプロダクション経由じゃない?
大崎 いや、レコード会社です。出演が決まってからプロダクションの人と会うことはある。でも、苦情はレコード会社の人に言うようになっている。
――『うたばん』の壁は?
大崎 20%の壁ですね。裏番組に日テレの『火曜サスペンス劇場』とテレビ東京の『なんでも鑑定団』があるからキツイ。どちらか終わってくれないかなと考えています(笑)。
――『CDTV』以外にも深夜帯に歌番組が増えました。ライバル?
大崎 コンセプトがさみしすぎる番組が多すぎますね。何か一つに凝ってやるほうがいいのに。余計なお世話だと思いますけれど。
おおさき・かん/一九五七年、東京都生まれ。八二年TBS入社。『ザ・ベストテン』『もぎたて! バナナ大使』などのディレクターを経て現職。好きな音楽ジャンルはカントリー・ロック。