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社説

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国会人事―鈴木委員長への疑問

 総選挙を経て、衆院の常任委員会の新しい構成が決まった。民主党がおもだった委員長ポストをずらりと占め、巨大議席の威力をみせつけた。中にひとつ、異様な人事があった。鈴木宗男議員の、外務委員長への就任である。

 鈴木氏はかつて自民党に所属し、外務政務次官や北海道開発庁長官、内閣官房副長官などをつとめたことのあるベテラン議員だ。02年、あっせん収賄事件で逮捕され、一審で懲役2年の実刑、二審で控訴棄却の判決を受け、最高裁に上告している。

 疑惑が発覚して離党し、逮捕されたあと、新党大地をつくって代表として衆院議員に返り咲き、さきの総選挙でも北海道比例区で当選した。民主党と選挙協力し、民主党・無所属クラブという会派に加わっている。今回の委員長就任は、300議席を超すその巨大会派の意向によって可能になった。

 だが、最高裁で実刑判決が確定すれば、そのまま刑務所に収監される立場である。議員も失職する。そうした可能性のある人物が国会の要職にふさわしいとは思えない。

 自民党などの野党が「国会の歴史で刑事被告人が役員についた例がない」と反対したのは当然だろう。

 二審の東京高裁が認定し、鈴木氏が争っているのは次のような事実だ。

 北海道開発庁長官だったころ、建設業者から600万円のわいろを受け取った。製材会社から林野庁への働きかけを頼まれ、500万円のわいろを受け取った。衆院に証人喚問された際に偽証した――。

 もちろん、被告は有罪が確定するまで無罪と推定されるのが刑事司法の大原則だ。加えて鈴木氏は逮捕されて以来、一貫して無罪を主張し、有罪判決に対して「国策捜査をした検察と裁判所が一体となった、司法の危機だ」と反発してきた。

 そんな鈴木氏が有権者の支持を得て議員として活動するのはむろん自由だ。だが、この人事を押し通した民主党の見識を疑う。

 来年の参院選挙に向け、新党大地との連携を深めたいとの思惑かもしれない。だが、少なくとも無罪が確定するまでこうした人事は控えるのが筋ではなかったか。民主党としてはむろんのこと、国会の倫理観が問われる。

 鈴木氏は自民党時代、外務省とのかかわりが深く、人事や政策にも強い影響力を持ったといわれる。小泉政権では当時の田中真紀子外相らと激しい確執を繰り広げ、衆院議院運営委員長を辞任したこともあった。

 そうした過去を思えば、なおさら今回の人事への疑問は膨らむ。これが政権交代で目指した「変化」なのか。党首としての鳩山由紀夫首相に説明を求めたい。国会のことは小沢一郎幹事長に任せたという釈明は通用しない。

東欧MD中止―核交渉の歯車を回そう

 「核なき世界」に向けて、オバマ米大統領が大きな外交カードを切った。

 東欧のチェコ、ポーランド両国へのミサイル防衛(MD)システム配備を中止するという決断だ。ブッシュ前政権が進めていた、欧州でのMD計画の見直しである。

 MDの東欧への配備に、ロシアは「我が国の核を無力化する」と反発していた。オバマ氏はその懸念を解消して、年内妥結を目指している第1次戦略核兵器削減交渉(START1)の後継条約づくりで、ロシアの歩み寄りをうながしたといえる。

 ロシアのメドベージェフ大統領も、この決定を「責任あるアプローチ」と歓迎し、ミサイル拡散の脅威に「共同で取り組もう」と声明を出した。英国やフランスも歓迎している。

 オバマ氏はこれで、MDと先制攻撃をセットにして核拡散に対抗するブッシュ戦略に、明確な区切りをつけたことになる。この決定を弾みにして、START1の後継条約に続く、さらなる核軍縮の展望を示してほしい。

 23日にニューヨークで予定されている米ロ首脳会談、さらにオバマ大統領が議長を務める国連安全保障理事会の首脳会合が、その最初の舞台になるだろう。

 そもそも東欧へのMD配備の目的は、イランの核・ミサイル攻撃からの防衛のはずだった。だが、ブッシュ前政権はこれを、北大西洋条約機構(NATO)を東に拡大するテコにしようとした。国内の反対を押し切ってMD配備を受け入れたチェコ、ポーランド両国にも、ロシアを牽制(けんせい)する狙いがあったようだ。

 ロシアも対抗して、プーチン大統領(当時)が「MD配備を認めた国は核の標的になる」と発言するなど、露骨な威嚇をしてみせた。

 ロシアは自国の防空ミサイルをイランに売却する動きも見せている。米国が配慮の姿勢をみせた以上、中止するのが当然だろう。

 オバマ政権は、現行のMD配備計画に代えて、イージス艦に搭載される海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を中心にしたシステムを段階的に配備していく方針だ。新たな計画は「柔軟性」を強調しており、イランの対応を見極めていくつもりなのだろう。

 来月1日には、国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国と、イラン政府との核問題をめぐる協議が予定されている。イランとの対話を呼びかけてきたオバマ政権にとっても正念場である。

 核軍縮だけでなく、核・ミサイルの不拡散という点からも、ロシアが米国の動きに応じ、両国が協調路線にかじを切れば、その影響は大きい。北朝鮮の核・ミサイル開発を抑制するためにも、目に見える成果を期待したい。

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