経済

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

日本が変わる:経済財政 民主、問われる真価

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 総選挙で308議席を獲得し、自民、公明両党からの政権奪取を決めた民主党は、マニフェスト(政権公約)に盛り込んだ子ども手当やガソリン税の暫定税率廃止、高速道路の無料化など、目玉政策の実現にとりかかる。選挙期間中は与党から「財源なきバラマキ」と批判されてきたが、「政権を取れば実現可能」と反論し、支持を得た。従来の予算配分を見直して財源を確保することは本当に可能なのか、国の借金が増えるだけなのか。主張の真価が問われるのはこれからだ。

 ◆財源

 ◇国債増発懸念も

 民主党がマニフェストで具体的に示した新政策を実現するには、最初の10年度だけで7・1兆円、すべてがそろう4年後の13年度には16・8兆円が必要だ。同党は予算のムダ遣いの見直しや、「霞が関埋蔵金」の活用で財源を捻出(ねんしゅつ)するとしている。

 国の予算は一般会計と年金や雇用保険などの特別会計を合わせて207兆円。このうち50兆円が、民主党が「官僚の天下り先」と批判する独立行政法人などへの補助金や業務委託費で、ここから6・1兆円を捻出する。また、公務員人件費の2割削減で1・1兆円、公共事業の3割カットでも1・3兆円をひねり出す予定だ。

 また「霞が関埋蔵金」と言われる、外貨準備運用益など特別会計の剰余金活用で5兆円、住宅ローン減税などの政策減税措置である租税特別措置の見直しで2・7兆円を確保。その他0・6兆円で、合計すれば最終年度に必要な16・8兆円をまかなえる計算だという。

 しかし16・8兆円の根拠には「国の総予算207兆円から、年金や医療など削れない支出を除くと70兆円が残る。そのうち2割くらいは見直せるはず」(民主党幹部)と、内容を精査していない皮算用的な側面もある。また、補助金カットに必要な独立行政法人などの廃止や公務員の人件費カットには官僚の強い抵抗も予想される。

 予算の見直しで財源が出せなければ、結局、国債を発行する借金に頼らざるを得ない。鳩山由紀夫代表は選挙期間中、「10年度予算の国債発行額は09年度以下に抑える」と述べているが、09年度の国債発行額は44兆円で過去最高になる見込みだ。「民主党の圧勝で国債増発懸念が高まり、長期金利は年末にかけて1・7%まで上昇する」(生保大手)との見方さえ出ている。【斉藤望】

 ◆社会保障・子育て

 ◇年金改革に20年

 急速に進む少子高齢化への対応は新政権にとっての大きな課題。民主党が目玉政策に掲げる「子ども手当」は、中学卒業までの子ども1人当たり年間31万2000円(月額2万6000円)を支給(10年度は半額)する。

 現行の児童手当(所得制限あり)の対象は小学6年生までで、3歳未満が月1万円、3歳以上は5000円(第3子以降は1万円)。子ども手当で支給額は大幅に増える。経済的負担を減らし、安心して出産・育児ができるようにするのが狙いだが、少子化に歯止めをかけられるかは未知数だ。

 年金制度の抜本改革では、消費税を財源とする「最低保障年金」を創設し、すべての人が7万円以上の年金を受け取れるようにする。制度設計は13年度までに行う予定だ。しかし、新制度移行までにはその後早くとも20年程度かかる見通しで、どこまで国民の理解を得られるかが課題となる。

 医療対策では、医師数を1・5倍に増やす計画。高齢者からの批判が強い後期高齢者医療制度は廃止する。介護労働者の不足などでサービス低下が懸念される介護では、介護労働者の賃金を月額4万円引き上げるが、保険料や税金など負担増につながる可能性もある。【平地修】

 ◆道路行政

 ◇高速使う人だけ得

 民主党は地域の活性化などを目的に、大都市圏を除く高速道路を段階的に無料化するとしている。ただし、実現するには08年度末で約30兆円の債務の返済義務を国に移す必要があるため、高速を使わない人の負担は増える。維持管理費の捻出方法や、高速道路会社の経営形態、他の交通機関との関係も課題だ。

 一方、民主党はガソリン税などの暫定税率を10年度に廃止するとしている。道路事業費の確保が目的だった道路特定財源が一般財源化され、高い税率の根拠がなくなったためだ。廃止されればガソリン税は1リットル当たり53・8円から28・7円に下がる。だが、税収減で道路予算が大幅削減されると、地方から不満が出る可能性もある。【位川一郎】

 ◆温暖化

 ◇国民負担5倍に

 環境分野では、2020年までの温室効果ガス削減目標を巡り、民主党は90年比25%減(05年比換算では30%減)を政権公約に掲げた。05年比15%減とする現行の政府方針より踏み込んだ内容だ。

 民主党の削減手法が不明確なため一概に比較はできないが、仮に太陽光発電の普及など国内対策だけで達成しようとする場合、国民負担は政府方針(1世帯あたり年7・7万円)の5倍近くになるとの試算もある。

 さらに、民主党は各企業に温室効果ガスの国内排出量取引市場創設を提唱。温室効果ガス排出源に課税する「地球温暖化対策税」の導入も打ち出しており、産業界には「環境コストの増大は避けられない」との懸念が広がっている。【赤間清広】

 ◆農政

 ◇補償目標どう算出

 民主党の農業政策の目玉は「農業者戸別所得補償制度」の導入。野菜などを除く幅広い農畜産物について、販売価格が生産コストを下回った分を補償する制度だが、小規模農家に配慮してすべての販売農家を対象にした点や、1兆円もの財源をどう確保するのかなど多くの疑問がある。

 また、補償を受けるのは国が定めた「生産目標数量」の範囲で生産した農家だが、その目標数量をどう算出するかなど実務的な難しさも指摘されている。

 農林水産省の井出道雄事務次官は6月、同制度の実施は「現実的でない」と批判していたが、31日の会見では「(新)大臣の指示の範囲内で最大限努力する」と姿勢を修正した。

 民主党のマニフェストには当初、日米FTA(自由貿易協定)の「締結」も盛り込まれ、後に「交渉を促進」に修正された。「締結すれば日本農業が壊滅的な打撃を受ける」と批判されたためだが、所得補償も貿易自由化による農産物価格の値下がりを前提にしているとの見方もあり、農業関係者にはまだ不信感がくすぶっている。【行友弥】

 ◆郵政民営化

 ◇見直し、青写真なく

 郵政民営化を前面に訴えた自民党の大勝から4年。社民党、国民新党とともに「4分社化見直し」を掲げた民主党の勝利で、民営化に向けて刻んだ時計の針は戻される。

 まず、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険と、持ち株会社日本郵政の株式売却が凍結される。その上で地方のサービス維持などのため経営形態の修正が議論される。民主党は現在、国営・公営にまで針を戻す主張はしていないが、具体的な青写真もない。

 一方、民主党の鳩山代表は西川善文・日本郵政社長に辞任を求める考えを示し、岡田克也幹事長も同社会長人事を批判した。「見直し」の第一歩はトップの進退問題となる可能性がある。【望月麻紀】

毎日新聞 2009年9月1日 東京朝刊

検索:

PR情報

経済 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド